ヴァイキングメタル・ガイドブック

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世界過激音楽 15
海の戦士たちの先祖賛歌

松原誉史(著/文)
ISBN 978-4-908468-49-0
C0073 A5判 256頁
価格 2,640円 税込 (本体2,400円+税)
書店発売日 2021年5月13日

 

 

紹介

反キリストの矛盾に気が付いた海の戦士達は北欧神話に回帰し大海原へ繰り出した!

フォーク、ペイガンへと続く「民族メタル」第1弾! 読み方総ルビ化!

Bathory 反キリスト教の矛盾気づき、早逝したヴァイキングメタルの始祖!
Enslaved ヴァイキングメタルの代表的存在でありながら徐々にプログレ化!
Mithotyn 知る人ぞ知る、後のFalconerやKing of Asgardの母体となった伝説!
Einherjer ヴァイキング黎明期築いたミドルテンポ古ノルド語「孤独な戦士」!
Thyrfing Naglfarの創設者も在籍する北欧神話の魔剣ティルヴィング!
Týr フェロー諸島出身、捕鯨文化保護主張しシーシェパードから圧力!
Alestorm 冗談で「トゥルー・スコティッシュ・パイレーツメタル」標榜!

インタビュー Helheim、Moonsorrow、Thyrfing、Himinbjorg、Týr、
Thrudvangar、Claim the Throne、Grimner、Vanir、Valhalore、Rumahoy等

コラム 内陸ランキング・面白ミュージックビデオ・ヴァイキングロック等

歌詞やコンセプトの背景にある北欧神話や歴史を丁寧に解説!

目次

2 まえがき
4 北欧神話 ヴァイキングメタルをより楽しむために
6 目次

9 Chapter1 ヴァイキングメタル黎明期
10 Heavy Load スウェーデン出身、北欧神話取り入れヴァイキング元祖説も!
11 Manowar Bathoryドラマーが大ファンでヴァイキングメタルに重大影響!
12 Bathory 反キリスト教の矛盾気づき、早逝したヴァイキングメタルの始祖!
16 Amon Amarth 人工言語シンダール語「凶運の山」意味し、ヴァイキングを否認!
20 Ancient Rites 自殺・事故死・海軍兵役など不運に見舞われたベルギーの遅咲き!
22 Falkenbach アイスランドで育ったジャーマン・ヴァイキングメタルの先駆者!
25 Unleashed 北欧神話活用するもヴァイキングは否定するスウェデス四天王!
26 Allegiance オーディンをテーマにしてヴァイキング・ブラックメタル提示!
27 Enslaved ヴァイキングメタルの代表的存在でありながら徐々にプログレ化!
32 Graveland ケルトやヴォータニズムなどポーランドと無関係のこと連発!
33 Twin Obscenity Century Mediaのカタログから抹消されたクトゥルフ神話!
34 Black Messiah マンドリンやシンセ、ヴァイオリン挿入しチュートン神話が歌詞!
36 Black Messiahインタビュー
40 面白ミュージックビデオその1
41 Hades (Hades Almighty) Burzumと一緒に教会放火して有罪、民謡リフ・詠唱コーラス!
42 Helheim レーベル不遇見舞われた死者の国から来たフェンリルと霜の巨人!
44 Helheimインタビュー
46 コラム ヴァイキングの実態
47 Mithotyn 知る人ぞ知る後のFalconerやKing of Asgardの母体となった伝説!
50 Mayhemic Truth (Morrigan) ケルトやゲルマン神話をモチーフのジャーマンブラック先駆け!
51 Darkwoods My Betrothed 「ヨーロッパで一番冒涜的」触れ込みで韓国のレーベルからデビュー!
52 Einherjer ヴァイキング黎明期築いたミドルテンポ古ノルド語「孤独な戦士」!
56 Norden ファンクラブ限定作品をリリースし、物悲しげにクリーンで歌う!
57 Scald ソ連崩壊間もない頃から地方都市でエピックドゥームを奏でる!
58 Storm ノルウェー大御所勢揃いするも反キリストで女性ボーカル後悔!
60 Vintersorg 数学までテーマにし脳出血・聴覚喪失に見舞われた「冬の悲しみ」!
62 Windir ソグン地方の農園を歌い、弱冠25歳で猛吹雪遭難死した伝説!
65 Suidakra 実はリーダー名前を逆にしただけのケルト神話愛好するドイツ人!
70 コラム 極右政党のテーマソングに用いられたヴァイキングロック

71 Chapter 2 ヴァイキングメタル興隆期
72 Borknagar ブラックメタル界スーパースター大集合でもプログレッシヴ風!
74 Ensiferum こぐま座の星にも命名されたヒロイック・フォークメタル!
78 Gwydion イスラム支配下ポルトガルへのヴァイキング侵略について熱唱!
79 Månegarm 「月を追いかけ、呑み込む狼」、ライブしに日本まで来てしまう!
83 Moonsorrow 長尺の曲が多くヴァイキング扱い拒むエピック・ヒーゼンメタル!
86 Moonsorrowインタビュー
89 Solefald アヴァンギャルドでエクスペリメンタルなヴァイキングメタル!
90 Sólstafir アイスランドから世界的に人気博したプログレ寄りポストメタル!
91 Spectral Tシャツづくりから始まり、発売元はレコーディングスタジオ!
92 Thyrfing Naglfarの創設者も在籍する北欧神話の魔剣ティルヴィング!
95 Thyrfingインタビュー
98 Menhir 女性キーボーディスト擁す、テューリンゲン部族のプライド!
100 Himinbjorg 母語フランス語を嫌い、先祖ゲルマン言い張り、ケルト文化も主張!
102 Himinbjorgインタビュー
105 面白ミュージックビデオその2
106 Hin Onde キリスト教化したスウェーデンによるフィンランド侵略テーマに!
107 Nachtfalke 「ドイツ人が支配民族」主張するNSヴァイキング「夜の鷹」!
108 Surturs Lohe お祭りメロディ、浅薄な歌詞などペイガンメタルのトレンド憂慮!
109 Nomans Land スカンジナビア至近距離サンクトペテルブルクでヴァイキング!
111 Nomans Landインタビュー
115 Einheit Produktionenインタビュー
118 Forefather ケルトではなくゲルマンにシンパシー抱くアングロ・サクソン・メタル!
120 Forefatherインタビュー
124 Turisas 赤黒ウォーペイントが大インパクトのペイガン・バトルメタル!
127 Ásmegin 中世ノルウェー民間伝承モチーフからプログレ転換が賛否両論!
128 Thundra レーベル運に恵まれないものの内省的でダークな複雑スタイル!
130 Týr フェロー諸島出身、捕鯨文化保護主張しシーシェパードから圧力!
133 Týrインタビュー
136 コラム ルーン文字
137 Slechtvalk ハヤブサの暴虐性に感銘受けたヴァイキング・アンブラックメタル!
138 XIV Dark Centuries キリスト教伝来以前のテューリンゲンのゲルマン民族神々敬愛!
140 Sorgsvart デプレッシヴ・アナーキストヴァイキングメタルが行方不明!
141 Gernotshagen 地元トルーゼタール村の近くで発見した森の小さな居住地が名前!
142 Thrudvangar 神トールが住む国を名に冠し、エピックなキーボードを導入!
144 Thrudvangarインタビュー
146 コラム 内陸ランキング
147 Equilibrium 名前からしてバランス感覚溢れるドイツ語で歌うエピックメタル!
150 Glittertind パンク風フォーク・ヴァイキングからインディー・フォークへ!
152 Talamyus カナダで汎ヨーロッパ遺産振興するスラッシュ風ヴァイキング!
153 Fortíð アイスランドの古エッダの巫女の予言を音楽で体現目指す!
154 Heidevolk ヘルダーラント州バタヴィ族の栄光と戦いをオランダ語で歌う!
156 Ereb Altor 古スウェーデン語にこだわるエピックドゥーム・ヴァイキング!
157 Leaves’ Eyes 女性ボーカルなのにシンフォニック・ヴァイキングメタル・キング!
158 Wintersun Ensiferumサイドプロジェクトがユニバーサルメタル名乗る!
160 Mistur 民族的ノルウェー語ニーノシュクで歌うSognametal後継者!
161 Claim the Throne 歴史希薄なオーストラリア人が人類に対する地球の怒りを訴える!
163 Claim the Throneインタビュー
166 Folkearth 一時は最大30人のメンバーを擁した国際的プロジェクト!
168 Heathen Foray 内陸国オーストリアの伝説や歴史扱う広義のヴァイキングメタル!
170 Kromlek スーツ着用顔面ウォーペイント施すアーバン・ペイガンメタル!
171 Nebelhorn ドイツの一人ヴァイキングがクラウドファンディングでリリース!
172 Galar プログレッシヴ・ブラックメタルにも通じる2人プロジェクト!

173 Chapter 3 ヴァイキングメタル新世代
174 Oakhelm オレゴン州でアイルランドを目指す冒険譚歌うもスイスに移住!
175 Craving キエフ大公国オリガ妃やスターウォーズについて英独露語で!
176 Sleipnir 奥さんが地元のパブで引き合わせヴァイキング兄弟の物語設定!
177 Asenblut 人種差別的なレーベルから決別した「アース神族の血」!
178 Varg KoЯnに影響受けAmazon1位にもなったウルフメタル!
180 Crimfall 元パワーメタル女性ボーカル含む映画サウンドトラック風!
182 Hammer Horde アメリカ出身なのに北欧ペイガニズムへの憧れからヴァイキング化!
183 Folkodia Folkearthメンバー増え過ぎで登場した汎ヨーロッパ主義!
184 Árstíðir lífsins 中世アイスランド学ドイツ人修士が現地アイスランド人巻き込む!
185 Nothgard メロデスに変化後も雄々しいメロディがヴァイキングメタル系!
186 Grimner ビデオゲーム愛好家、アコースティック作品も出してしまう!
188 Grimnerインタビュー
193 Draugûlトールキン愛好マルタ人、スウェーデン移住しヴァイキング化!
194 King of Asgard 元Mithotyn、Falconerが再度集い、数々の有力者が参入!
196 Skálmöld サーガ形式に則った歌詞でアイスランド交響楽団ともコラボ!
198 Vanir スカンジナビアのヴァイキングメタル不毛国デンマークで奮闘!
199 Vanirインタビュー
202 Feskarn SoundCloudとYouTubeが主戦場の電子音楽制作漁師!
203 Æther Realm アメリカ出身だけど北欧語どうしても入れたくて「Æ」バンド名に!
204 Valhalore 来日も果たしたオーストラリアのエピック・ヴァイキングメタル!
205 Valhaloreインタビュー
208 Varang Nord 神道メタル「黄泉」も掛け持ちするロシア系ラトヴィア人!

209 Chapter 4 ディスクガイド
210 Aasfresser / Aegir / Alfar / Alphayn / Antiquus Scriptum / Arvinger
211 Asathor / Baldrs Draumar / Bane of Isildur / Barbarians / Bethzaida / Bloodaxe
212 Bloodshed Walhalla / Blot / Brothers of Metal / Crifotoure Satanarda / Crom / Dagaz
213 Dark Forest / Demonaz / Destroy Destroy Destroy / Drautran / Durothar / Dusius
214 Elexorien / Fimbulthier / Fimbultyr / Fjoergyn / Fjorsvartnir / Forest King
215 Forge / Forlorn / Framtak / From North / Frostmoon / Furthest Shore
216 Gjallarhorn (Italy) / Gjallarhorn (Russia) / Greenland / Grendel / Gungnir / Havamal
217 Heidra / Heorot / Heulend Horn / Hildr Valkyrie / Hjelvik / Horrizon
218 Hulkoff / Icethrone / Immorgon / In Battle / Incursed / Isenmor
219 Iuvenes / Kaarnekorpi / Kylfingar / Lex Talion / Lost Legacy / Lost Shade
220 Men Enter Tavern / Midgard / Miellnir / Mjød / Myrkgrav / Myrkvar
221 Myrkvedr / Mythos Nord / Nattsmyg / Nifrost / Nordverg / Norsemen
222 Northrough / Norvern / Oakenshield / Odhinn / Perished / Pimeä Metsä
223 Pitkan Matkan / Prophanity / Sad Legend / Seawolves / Seppä Ilmarinen / Skaldenmet
224 Skjaldborg / Skogshallen / Slartibartfass / Sons of Crom / Space Vikings / Sverdkamp
225 Tarabas / Tears of Styrbjørn / Thiasos Dionysos / Thorondir / Thurs / Uburen
226 Ulfdallir / Ulvedharr / Ulveheim / Ulvhedin / Valensorow / Valkenrag
227 Vanaheim / Vindland / Vinterblot / Visigoth / Voice of Midnight / Voluspaa
228 Wandersword / Welter / Wotanskrieger / Wrath / Wulfgar / 凱旋March

229 Chapter 5  パイレーツメタル
230 Running Wild ハンブルク出身、海賊テーマにしてパイレーツメタルの元祖に!
232 Alestorm 冗談で「トゥルー・スコティッシュ・パイレーツメタル」標榜!
236 Swashbuckle シーフードレストランで意気投合、サメの着ぐるみも登場!
238 The Privateer リードギター並に主張する女性ヴァイオリニスト擁する私掠船!
240 The Privateerインタビュー
243 The Dread Crew of Oddwood セガゲーム集いがキッカケのアコースティック・パイレーツ!
244 Blazon Stone Running Wildが由来のバンド名、曲調・ボーカルも類似!
245 Lagerstein ライブで靴にビールを入れて飲み、ラガーフェスまで主催!
246 Rumahoy エンターテイナーとしてお笑いに走る全員目出し帽着用ラム酒愛好家!
247 Rumahoyインタビュー
249 Silverbones 北イタリアでRunning Wildを模倣するパイレーツメタル!
250 Barloventos / Black Corsair / Calarook / Calico Jack / Cat o’ Nine Tails / Cauldron Black Ram
251 Dammaj / Iron SeaWolf / Lords of the Drunken Pirate Crew / Los Pirates / Metal Castle / Mormieben
252 Paddy and the Rats / Red Flag Crew / Red Rum / Rumproof / Shtack / Skull & Bones
253 Skull Branded Pirates / Storm Seeker / Tortuga / Toter Fisch / Trikhorn / Vane
254 Verbal Deception / Voodoo Satan & The Satan Band / Yarr / Ye Banished Privateers / 藍華柳 / 時空海賊Seven Seas

255 あとがき

前書きなど

ヴァイキングメタルとは?
本書ではヴァイキングメタルという音楽ジャンルの紹介をする。まず、そもそもヴァイキングメタルとは何であろうか? ヘヴィメタルが年月とともに他ジャンルの要素を取り入れたり、特定の音楽要素を深化させるなどして、様々な方向性に分化し、管弦楽器や合唱を組み込んでオーケストラを彷彿とさせるシンフォニックメタル、プログレッシヴロックからの影響を受けて複雑な楽曲構成や展開を特徴とするプログレッシヴメタル、ゴシックロックの耽美性を取り込んだゴシックメタル、重さと激しさに特化したデスメタル、速さと攻撃性を兼ね備えたスラッシュメタル、遅さを突き進めたドゥームメタル、サタニックな要素を強めたブラックメタルなどなど、多様なサブジャンルが誕生したことは、メタルリスナーであればご存知であろう。ヴァイキングメタルもメタルと名が付くとおり、そうしたサブジャンルの一つなのだが、ヴァイキングメタルという名前から音楽性が想像できるかと言われれば、なかなか難しいのではなかろうか。
スラッシュ/ブラックメタルをプレイしていたスウェーデンのBathoryが、キリスト教を攻撃するのに同教が発明した悪魔を使うのは矛盾しているとして、90年頃に地元の歴史や神話をモチーフとしたメタルを生み出したのがこのジャンルの始まりである。その後ノルウェーのEnslavedが94年頃自らの音楽性をヴァイキングメタルと名付け、同郷のEinherjerなど重要なバンドがスカンジナビアを中心として誕生していった。まずはBathoryの曲「A Fine Day to Die」と、Enslavedの曲「Yggdrasil」あたりを聴いてみていただきたい。どちらも長尺なミドルテンポの曲で、エピックかつフォーキーな要素を多分に含んだバンドということで、なんとなくのヴァイキングメタル像は伝わるのではないかと思う。だが、実際のところはもっと複雑で、ヴァイキングメタルはメタルの他のサブジャンルと比較して、定義が曖昧で、人によって指すものが大きく異なるのが実状なのだ。そもそものジャンル名が混乱を招きがちで、ヴァイキングメタルバンドだと見なされたバンド側からも「俺たちの歌詞はヴァイキングとは何の関係もないから、ヴァイキングメタルというラベリングは誤りだ」との声が聞かれることもある。修飾語のヴァイキングのみならず、北欧神話やスカンジナビアの歴史をテーマとしたメタルがヴァイキングメタルだと一般的には考えられるのだが、認識の齟齬が起きやすい。また、スウェーデンのAmon Amarthのように、ヴァイキングメタルバンドだと分類されがちなのだが、「歌詞のテーマで音楽ジャンルが規定されるのはおかしい。俺たちの音楽はメロディック・デスメタルだ」と主張するバンドも存在する。先ほどのなんとなくのヴァイキングメタル像のように、エピックで荘厳な音使い、しばしば民謡リフや民族楽器の導入が見られる、ミドルテンポ主体でヒロイック、雄々しいコーラスが入ることが多い、などなどヴァイキングメタルを構成する音楽要素はいくつか挙げられる。その一方で歌詞のモチーフや精神性の面でヴァイキングメタルを捉える向きも存在するために、このような主張の食い違いが発生していると考えられる。事実、ドイツのStormwarriorのようにヴァイキングをテーマとしたメタルを演奏しているが、ヴァイキングメタルとは見なされず、音楽的には80年代ジャーマンメタル影響下のヘヴィメタルと分類されるバンドもいる。ヴァイキングメタルが、スラッシュ/ブラックメタルを下地として成立したため、Amon Amarthはヴァイキングメタルだとカテゴライズされて、Stormwarriorはされないのかとも推察されるが、必ずしもスラッシュ/ブラックメタルを音楽的バックグラウンドとしないヴァイキングメタルバンドもおり、このあたりはやはり人によって考えが異なると言わざるを得ない。
ヴァイキングメタルは誕生から時間が経過するにつれて市民権を得て、歴史・文化的な素地をまったく持たない国にも、スカンジナビア諸国のヴァイキングメタルバンドからの影響を受けて、形式上そういった歌詞を用いて音楽的な側面を真似たヴァイキングメタルバンドが出現していった。特に90年代末から2000年代前半にかけて、民謡要素を大々的に取り入れたエンターテインメント的なバンドも数多く出現している。南米や日本にもヴァイキングメタルバンドは存在するのだ。そうした中、北欧神話やヴァイキングをテーマとはしていないが、戦いなどをテーマとした勇壮なメロディを聴かせるメタルも、音楽的に近いためにヴァイキングメタルだと考える人も出てきた。
そういうわけで、近隣ジャンルに民族楽器や民謡メロディを取り入れたフォークメタルや、異教をテーマとしたペイガンメタルが挙げられるが、それらとヴァイキングメタルとの境界も非常に曖昧な実態にある。ゲルマン系の神話と北欧神話は民族的な背景から類似点が大いにあり、ゲルマン系のペイガンメタルと、ヴァイキングメタルの区分はことさら模糊としている。特にここ日本では、そういった神話や異教に馴染みが薄いこともあって、実際にはヴァイキングとは何の関係もないフォークメタルバンドなども、音楽性が似通っているとのことで、一律ヴァイキングメタルだと考えられてしまう傾向にある。

パイレーツメタルとは?
本書では姉妹ジャンルとしてパイレーツメタルも付録的に紹介している。ヴァイキングメタルの定義が混沌としているのと同様、こちらもジャンルとしては未成熟で、明確に確固たる定義があるわけではない。もともと80年代からドイツのRunning Wildなどが海賊をテーマとしたヘヴィメタルを演奏していたが、ヴァイキングメタルの大衆化や、フォークメタルの流行に伴い、イギリスのAlestormが、フォークの要素を大々的に取り入れたパイレーツメタルを再発明し、昨今はその影響下のバンドが増えている。ヴァイキングも海賊のイメージが強いせいか、パイレーツメタルをヴァイキングメタルの一種だと考えている人も存在するため、本書に含めた次第である。

本書のスタンス
本書ではこのジャンルを取り巻く実状を踏まえて、実際にヴァイキングメタルをプレイしているかどうかはさておき、レーベルやディストロ、ブログやレビューサイトなどのメディア、あるいは日本のメタルショップなどで、ヴァイキングメタルだと考えられがちなバンドをなるべく網羅したつもりである。ただ、ヴァイキングメタルだと考えている人が散見されても、その数が少なく、明らかにフォークメタルなどのほうが適切だろうと思われる場合は除外したものもある。
こういったフォーク、あるいはペイガン要素が強いと判断したバンドたちは、今後出版を予定している『フォークメタル・ガイドブック』『ペイガンメタル・ガイドブック』で紹介するつもりなので、ご理解頂ければ幸いである。
また、北欧神話など文化的背景や世界観が重要なジャンルであるため、可能な限り作品のテーマや背景についての解説を載せるようにした。本書を片手に聴きながら、作品の描く世界について思いを馳せていただければ執筆者冥利に尽きる。

※バンド出身国の言語におけるバンド名の発音をルビに記した。ただし英語での発音が世界的に定着しているバンドに関しては、英語の発音を併記している。

著者プロフィール

松原誉史(マツバラ タカシ)
大阪生まれ、都内IT企業勤務の趣味人。特に音楽が好き。ゲーム好きが高じて高校生の頃に世界の神話や伝承などを読み漁る。民族音楽も当時から好きで、ワールドミュージックのシリーズもののCDを買い揃えたりしていた。メタルとの出会いは大学生の頃に、当時の同回生からRhapsodyを薦められて。モスクワでとあるフォークメタルバンドのメンバーと飲んだり、別のとあるフォークメタルバンドが日本に観光に来た際の案内をしたり、海外ブログFolk-metal.nlで短期間だがインタビュアーを務めたり、Encyclopaedia Metallumの編集をしたりなど。

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