松原誉史さんによる『ヴァイキングメタル・ガイドブック』が完成したので、中身を紹介します。
カバー画像はGrimner。コミカルでいてヴァイキングメタルの雰囲気を最も表しており、カバーにもってこいで、快く使用許可を与えてくれました。
ヴァイキングメタルの多くのバンドがヴァイキングのコスプレをしていて、見ているだけで楽しいです。
まるでサプールや怪獣図鑑を眺めている様な気分になってくるので、全ページカラーにしました。
音楽的に好みでなくても、サブカル本の様なノリでも楽しめます。
ヴァイキングメタルを厳密に定義するのは難しく、その境界線もグレースケール上に広がっています。
本書でなぜヴァイキングメタルだと認定するに至ったかの基準などについて、まえがきで詳しく記述しています。
なおこちらの版元ドットコムでもまえがきが見られます。
ヴァイキングメタルの多くが北欧神話をテーマに扱っています。冒頭で北欧神話についての解説記事を設けているので、まずこちらから読むと理解が深まります。
本書は4章に別れているのですが、第1章は「黎明期」
後年ヴァイキングメタルに影響を与えたとされるHeavy LoadやManowarといった古典的バンド達。
源流に遡って、ヴァイキングメタルがどうやって生まれ、発展していったのかが分かります。
ヴァイキングメタルの元祖とされるBathoryはその来歴を詳しく解説しています。
今回の『ヴァイキングメタル・ガイドブック』は他の『世界過激音楽』と違って、ディスクガイド型ではなく、アーティスト紹介型で編集したのですが、重要バンドに関してはその音源もできるだけ紹介しました。
またアーティスト解説や音源解説では、音の描写や評価よりも、その作品のコンセプトや込められた意味、歌詞や世界観についてより掘り下げて解説しています。
今現在のヴァイキングメタルの本流で元祖とされるEnslaved。彼等は現在プログレッシヴ路線に突き進んでいますが。
ヴァイキングメタルはノルウェーやスウェーデンで多いですが、その次に多いと思われるのがドイツ。北欧文化やヴァイキングに対する憧憬があるようです。
中堅どころのBlack Messiahにはインタビューも敢行。
ヴァイキングメタルはネタ豊富なので、随所で関連コラムを挿入しています。左はおもしろミュージックビデオを紹介したコラム。
短期間の活動で伝説と化しているMithotyn。このバンドをヴァイキングメタルの中で最も評価するマニアや愛好家も多いです。
第2章は「興隆期」。1995~2004年がその時期に当たり、シーンが急激に盛り上がります。
Gorgoroth、Immortal、Ulver、Arcturusなどブラックメタル界のスーパースター達によって結成されたBorknagar。
ところでこの『ヴァイキングメタル・ガイドブック』では、ノルウェーやスウェーデンなど日本人には馴染みのない言語のバンド名が多いので、全てのバンドの読み方をルビで付しています。
このバンドは「ボルクナガル」。
フィンランド出身でヴァイキングメタルではなく、エピック・ヒーゼンメタルのMoonsorrow。非常に評価されているバンドですが、インタビューも実現しました。
興隆期に登場したバンドの中では特に大御所といえるThyrfing。今現在も活動中でインタビューに成功。
フランス出身でありながら、フランス語を嫌い、ゲルマンを好み、先祖もノルウェー系だと述べるHiminborg。
イギリス出身でありながら、ブリトン人やケルトではなく、ノルマン・コンクエストにシンパシーを抱くForefather。
フェロー諸島という僻地出身でありながら、来日経験もあり、世界中をツアーしたTýr。捕鯨を擁護し、北欧神話を称揚したことで親ナチと誤解され、シーシェパードやアンティファ団体から批判されたとインタビューで回答。
右は日本でも人気のEquilibriumなのですが、左下のコラムは「内陸ランキング」。
海の男の唄といえるヴァイキングメタルなのに、海辺からだいぶ遠い山岳地帯だったり、そもそも海には面していない内陸国出身なのではないかと気が付き、どのバンドが一番海から遠いのかを計測しました。
ヴァイキングメタルの源流はブラックメタルにあると思いますが、その他にもメロディックデスメタル、パワーメタル、スラッシュメタル、シンフォニックメタルなどからの影響も受けています。
そしてヴァイキングメタルとして始まったのに、プログ化したEnslavedやSolefaldなどが沢山おり、多様なジャンルの結節点として位置しているといえるでしょう。
このGlittertindはパンク風フォーク・ヴァイキングから、インディーフォークへと転身していきました。
ヴァイキングメタルは多種多様な音楽との結び付きがあり、一筋縄では行かないのも魅力の一つです。
さて第3章は「新世代」で2005年以降を扱っています。実はこの頃、似たりよったりのバンドが増えすぎ、シーンは飽和状態に達し、マンネリ化したのは否めません。
また隣接するペイガンメタルやフォークメタルの方が更に勢力を増してきました。
実はヴァイキングメタル自体は今現在も、新しい突破口を見いだせない状態が続いていると言えますが、この時代でも個性的でハイクォリティなバンドがいくつか登場してきています。
Kornなどニューメタルにも影響を受けたVarg。
ゲーム音楽好きでアコスティック作品もリリースしているGrimner。冒頭でも述べた通り、本書のカバーを飾るバンドで、ヴィジュアル的にも凝っており、沢山のハイクォリティなミュージックビデオも制作しています。
Mithotynのメンバーらによって結成されたKing of Asgard。関連するパワーメタルFalconerのメンバーがいる事でも知られています。
ヴァイキングの総本山アイスランド出身のSkálmöld。
スカンジナビア最大のヴァイキングメタル不毛国デンマークのVanir。インタビューも掲載。
SoundCloudやYouTubeを主戦場にするFeskarn。アメリカ出身なのに北欧ぶるÆther Realm。わざと「Æ」の文字を使用。
来日経験もあり、一部から相当人気を得ているオーストラリアのValhalore。インタビュー掲載。
左は『東欧ブラックメタルガイドブック2』でも紹介している神道メタル「黄泉」のメンバーがやっているロシア系ラトビア人のVarang Nordです。
第4章はよりマイナーで短命だったり、バンドとしての知名度はないけど、音源自体は聴いた方がいいヴァイキングメタルのガイド。
ヴァイキングメタルはメタルのサブジャンルの中では比較的規模は大きくないので、かなり網羅的に収録されています。
ヴァイキングメタルは北欧神話やヴァイキングをテーマにしていますが、隣接するジャンルとして大航海時代以降のカリブ海の海賊をテーマにしたパイレーツメタルも存在します。
第5章はそのパイレーツメタルを扱っています。
今現在のパイレーツメタルとは直接的に関係ありませんが、その元祖とされるRunning Wild。
パイレーツメタルの中で最も知名度と人気を誇るAlestorm。数多くのおもしろミュージックビデオも必見です。
The Privateerにはインタビューも。
というわけでざっと駆け足で『ヴァイキングメタル・ガイドブック』の見どころを紹介してきました。
昨日5月13日が正式発売日でしたが、既に多くのところで購入可能になっている様です。
ヴァイキングメタルは音楽だけでなく、そのバンドの世界観や作品のコンセプト、歌詞が非常に重要です。
しかし英語ではなく、北欧諸語が用いられていたり、北欧神話やヴァイキングに関する知識がないとよく分からない作品が多く、日本人には理解するのにハードルが高かったです。
『ヴァイキングメタル・ガイドブック』ではそういった部分も丁寧に解説を施しているので、より深くヴァイキングメタルを理解できるでしょう。