世界過激音楽 27
思索を促す轟音と静寂
近藤知孝(著/文)
ISBN 978-4-908468-91-9
C0073 A5判 192頁
価格 3,080円 税込 (本体2,800円+税)
書店発売日 2025年11月10日
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紹介
スラッジ特有の重厚感に、ポストロックやシューゲイザー的繊細さを加えたアトモスフェリックな音像を主武器とする、ポストメタルの様式が完全に確立されていった
●Neurosis あらゆる暗黒音楽の父たる、涅槃に達したポストメタルの始祖
●Isis 美しさと轟音が薙ぎ倒すアトモスフェリック・ヘヴィネス
●Pelican 「ポスト・エモ・ストーナー・デスゲイズ」を自認する叙情派の雄
●Amenra ハードコアから世界最重量級メタルへ転身
●Gojira 五輪のパフォーマンスで度肝を抜いたエクストリームの帝王
●Jesu 重たくメランコリックな美しさを放射する天上のシューゲイザー
●Cult of Luna スラッジ基盤にアトモスフェリックな轟音美を確立する
●Russian Circles ギター・ベース・ドラムによる三位一体の轟音アンサンブル
●Intronaut ジャジーな静寂と圧の強い轟音をスムーズに行き交うアンサンブル
●Godflesh 破壊的なビートを操るインダストリアルメタルの金字塔
●Russian Circles, Pelican, Cult of Luna, The Ocean, Amenra, Year of No Light, Kayo Dot, Kowloon Walled City, Dvne, Morne等のインタビュー
●GRUMBLE MONSTER特別寄稿「ポストメタルを通して未知と出会う」等のコラム
目次
2 まえがき
4 ポストメタルのスタイルの傾向
6 目次9 Chapter 1 Americas
10 Neurosis あらゆる暗黒音楽の父たる、涅槃に達したポストメタルの始祖
13 Neurosis & Jarboe
13 Tribes of NeurotとNeurot Recordings
14 Inter Arma エクストリームメタルの激しさとポストロックの繊細さを融合
16 ポストメタル≒スラッジ、ポストメタル≒ポストロック
17 Intronaut ジャジーな静寂と圧の強い轟音をスムーズに行き交うアンサンブル
19 ポストメタルの世界観【Thinking Man’s Metal】
20 Isis 美しさと轟音が薙ぎ倒すアトモスフェリック・ヘヴィネス
22 Kayo Dot 前衛的な実験を極めた自由奔放なプログレッシヴ・アクト
25 Kayo Dot インタビュー
27 Maudlin of the Wellとその周辺
28 Kowloon Walled City 九龍城砦を思わせる轟音を響かせるノイズロックの巨岩塊
29 Kowloon Walled Cityインタビュー
32 Morne クラストから出発してヘヴィネスと美しさを極めた寡黙な巨人
34 Morneインタビュー
36 Old Man Gloom ハードコアの衝動性と黒くノイジーなブルータリティを追求
38 ポストメタルとポストロックの境界線がない問題
39 Pelican 「ポスト・エモ・ストーナー・デスゲイズ」を自認する叙情派の雄
41 Pelicanインタビュー
45 Russian Circles ギター・ベース・ドラムによる三位一体の轟音アンサンブル
47 Russian Circles インタビュー
51 Sumac 即興性が強い不定形のヘヴィ・ミュージック
53 Sumac & Moor Mother / Sumac 灰野敬二 / Aaron Turner が追い求める即興性
54 A Storm of Light
55 An Isolated Mind / Anatomy of Habit
56 Battersea / Battle of Mice / Black Mare / Bloodiest
57 Bréag Naofa / Breaths / Chora
58 Cult of the Lost Cause / Dawn Fades / Daxma
59 Dead is Dead / Eight Bells
60 Guiltless / Hadean / Heiress
61 Helms Alee / Hum
62 Huntsmen / Idle Heirs / Julie Christmas
63 Junius / Komarov / Light Create Shadow
64 Lotus Thrones / Made out of Babies
65 Maidens / Mariana / Mountaineer
66 Mouth of the Architect
67 Nux Vomica / Ode and Elegy
68 Outrun the Sunlight / Pray for Teeth / Redshift Pilots / RLYR
69 Rosetta
70 SOM
71 Spotlights / The Angelic Process
72 The Last Cold Fire of Dusk / Tibetan Sky Burial / Yakuza
73 À l’Ombre d’Héméra / Big|Brave
74 Buried Inside
75 Empress / Fawnchopper / Goetia / Lucia
76 Milanku / Near Grey / Seven Nine and Tens
77 They Grieve / Wake
78 Zeta / Antar / Luxferre / Zorroperro / Noala
79 ポストメタルを通して未知と出会う81 Chapter 2 Europe
82 Dvne 煙たい轟音で砂塵を巻き上げるサイケデリックなデザート・メタル
83 Dvne インタビュー
86 Godflesh 破壊的なビートを操るインダストリアルメタルの金字塔
89 鬼才Justin K Broadrick
90 Jesu 重たくメランコリックな美しさを放射する天上のシューゲイザー
92 〇〇ゲイズとヘヴィ・シューゲイザー
93 Dirge 陰鬱なインダストリアルメタルからメロディー志向に転向
95 轟音と騒音のポストメタル、ポストロック
96 Gojira 五輪のパフォーマンスで度肝を抜いたエクストリームの帝王
98 五輪パフォーマンスの反応について
99 Hypno5e 催眠を誘発する美しさと凶暴性が同居するシネマティックメタル
101 映画とポストメタル
102 Year of No Light 映画的インストゥルメンタルメタルのポスト・サイケデリア
104 Year of No Lightインタビュー
107 Amenra ハードコアから世界最重量級メタルへ転身
109 Amenraインタビュー
111 The Ocean(The Ocean Collective) 地球史テーマのアカデミックなヘヴィ・ミュージック集団
114 The Ocean インタビュー
118 Impure Wilhelmina メロディーと不協和音が交差するロックとメタルのハイブリッド
120 インテレクチュアルなメタルたち
121 Cult of Luna スラッジ基盤にアトモスフェリックな轟音美を確立する
124 Cult of Luna インタビュー
127 Sólstafir 凍土にポストパンクやブラックメタルの熱い血潮を吹き込む探究者
129 北欧のブラックメタル、北米のポストメタル
130 Blanket / Bossk / Dawnwalker
131 Gozer
132 Latitudes / Mountain Caller
133 Oceansize / Ohhms
134 The Nepalese Temple Ball / Tidings / Venus Principle
135 No Spill Blood / Raum Kingdom / Third Island / An Ocean of Void
136 Båkü / Bruit ≤ / Brusque / Death Engine
137 Dragunov / General Lee
138 Ingrina / Triviṣā
139 Valve / Vestige / WuW
140 GGGOLDDD / The Fifth Alliance
141 Doodseskader / Hemelbestormer
142 My Diligence
143 Onrust / Pothamus / Predatory Void / Psychonaut
144 Sons of a Wanted Man / Tars / Turpentine Valley
145 A Ghost in Rags / A Secret Revealed / Ab·est
146 Aethernal / Distraction / Drownship
147 Fvnerals / Noorvik / Oaken Heart / Omega Massif
148 Rýr / Soonago / Sundowning
149 Anderwelt / Abraham
150 E-L-R / Knut
151 Unfold
152 A Swarm of the Sun / Adora Nocturna
153 Antarktis / Atoma / Breach / Burst / Dimwind
154 Doppälgängär / K L P S(Kollaps\e) / Khoma
155 Oro
156 Sagor Som Leder Mot Slutet / Seven Nautical Miles / Suffocate for Fuck Sake
157 The Old Wind / Dalit
158 From Beneath Billows / Kollwitz / Sibiir
159 Sundrowned / Late Night Venture
160 Redwood Hill / Atlases
161 Callisto
162 Heaven Pierce Her / Light Beneath / Serotonin Syndrome
163 Katla. / Múr / Affronto / Bosco
164 Dawn on Sedna / Dotzauer / Eva Can’t / Rise Above Dead / Tətsuo
165 Viscera/// / Caldera / Unverkalt
166 Ikarie / Last Forest Rain / Le Temps du Loup / The Holeum
167 Redemptus / Wells Valley
168 Goldstein / Nug / Nebulae Come Sweet/ The Last Sighs of the Wind
169 Abysslooker / Acoustic Anomaly / Apollogaze / Eastwood
170 Fading Waves / Moanhand / N. Tesla / Noye
171 Oredeza / Reka
172 Smyčka / Forge of Clouds / Grief Circle / Moanaa
173 Orphanage Named Earth / Psychotropic Transcendental / Rosk
174 Sludge Factory / Unipolar Manic-Depressive Psychosis / Outward / Rana
175 Boru / Emphasis / Sai(sssai) / Ocean Districts
176 Eyrth / Aortes(Autism)
177 Aortes(Autism) / Nyksta
177 言葉を必要としないポストメタル
178 ポストメタル3 大レーベル179 Chapter 3 Others
180 Balina / Dirge / Radiant Archery / DIR EN GREY / kokeshi
181 lantanaquamara / Ovum
182 Daymare Recordings~日本のポストメタルの認知を拡げた存在
183 Tokyo Jupiter Records~ハードコアに根差したレーベル
184 P-Shirts / 瞑想欅 / Baan / Cave Sermon / Islands
185 Lo! / We Lost the Sea
186 Opium Eater / Remina / Johnny the Boy / Absent in Body
187 Norna / Final Light / Bipolar Architecture188 あとがき
189 索引
前書きなど
1980年代に一世を風靡したヘヴィメタルは、80年代後半に出現したNirvanaやSonic Youthなどのグランジ含むオルタナティヴロックによって、徐々に脇に追いやられていったことは記憶に残っているだろう。煌びやかなギターソロを排し、時に鬱屈した感情を爆発させるエモーショナルなギターロックは、閉塞感を抱えた若者の共感を呼び、それまでのギターミュージックの勢力図を塗り替えていった。結果として、それまで主流だったパワーメタルやネオクラシカルな様式を持ったメタルバンドは影に追いやられていく。そんな中、デスメタルやブラックメタルといった、スラッシュメタルをより残虐に、より過激に、より冷たく攻撃的にしたエクストリームメタルが勃興していった。また、ヒップホップなどのビートミュージックを取り入れ、リズミカルに跳ねるラップメタルや溜めを重視したグルーヴで陰鬱にうねるニューメタル(ラウドロック)、ハードコアとメタルが密接に結びついたメタルコアといったサブジャンルが次々と定義づけられていった。本書の主人公ポストメタルも、90年代に定義づけられたサブジャンルである。
ポストメタルの雛形は、80年代から90年代にかけて猛勢を振るったヘヴィメタルを基盤とし、ヘヴィメタルとパンクロックを実験性や前衛性といった探求心と組み合わせて発展していった。ストーナーメタルの偉大なる巨人Melvinsや、本書にも登場するインダストリアルメタルの雄Godfleshといったバンドが台頭する。アメリカを中心とするその波は、Swans、Gore、Fugaziといったバンドを喚起していき、ポストハードコア(現在主流のポストハードコアと意味合いが異なる)の感性とメタルが徐々に融和していく。知性派ヘヴィメタルHelmetが発表した『Meantime』(1992)と『Betty』(1994)は、「ポストヘヴィメタル」という意味でポストメタルと言われた。当時はグランジをはじめとしたオルタナティヴロックが台頭し、オルタナティヴロックの感性を持った従来のメタルと異なった新しいメタルとしての意味合いが強かった。1993年前後のToolもまた、同様のニュアンスでポストメタルと言われた。彼らのような存在は、後年になるとニューメタルを含んだ広義の意味でオルタナティヴメタルの枠内に入れられていく。
1990年代に入り、「漂うメロディーへの嗜好と、確立されたロックの境界を越えて拡大したいという願望」を共鳴するバンドたちが続々と現れ、ポストロックの一大ムーヴメントが出来上がった。Mogwaiを中心としたイギリスのグラスゴーのバンドや、カナダ・ケベックの前衛集団Godspeed You! Black Emperor。アメリカでは、ケンタッキー州ルイヴィル出身のGastr del Solといったバンド。そして、イリノイ州シカゴではシカゴ音響派と呼ばれることになるTortoiseを中心とする一派だ。特にシカゴのポストロックバンド群は、PelicanやRussian Circlesといった本書でも重要なバンドに多大な影響を与えた。彼らのようなインストゥルメンタル主体のバンドもポストメタルには多い。彼らのような存在が、ポストメタルとポストロックの境目を曖昧にしている。
ポストロックの特徴でもある「アンビエンス、オフビートな実験、陰鬱なメロディー、サイケデリア」は、若いメタルやポストハードコアにも波及していった。この流れは、元々MogwaiやGodspeed You! Black Emperorといったポストロックの巨人たちが、メタルからの影響を隠していなかったというのも非常に大きい。Mogwaiは特に、Black Sabbathをルーツの一つに挙げている。特にハードコアバンドたちの嗅覚は鋭く、ドゥームメタルと結合したスラッジや、さらにポストロックのダイナミズムやなだらかで繊細な揺らぎを持つ展開を取り込んでいく。Neurosisの『Souls at Zero』はそういった流れを汲んだアルバムだ。また、インダストリアルメタルの先駆者Godfleshの『Pure』は、鬱屈したインダストリアルメタルの金字塔的作品『Streetcleaner』に広がりあるノイズを加えた作品だ。両作品ともにポストメタル・アルバムの先駆的作品と言われることもあり、奇しくも両方とも1992年発表だった。
そうしたジャンルの交配合が進む中、1995年にNeurosisの『Through Silver in Blood』が登場する。本作はTerrorizer誌に「ポストメタルのジャンルを効果的に発明した」と評価され、明確なサブジャンルとしてのポストメタルが象られていった。また、本作はドゥームメタル、スラッジメタル、ドローンメタルの発展に寄与し、Neurosisをして「暗黒音楽の父」と呼ぶ声も少なからず存在する。それからほどなく、1997年にはHydra Head RecordsのオーナーであるAaron TurnerがIsisを結成。スラッジ特有の重厚感にポストロックやシューゲイザー的繊細さを加えたアトモスフェリックな音像を主武器とするポストメタルの様式が完全に確立されていった。ヨーロッパでも、NeurosisやIsisといった存在に呼応するかのように、スウェーデンのCult of Luna、ドイツのThe Ocean、スイスのUnfoldやImpure Wilhelmina、フランスのGojiraやYear of No Lightといったバンドが次々と頭角を現していった。また、GodfleshのJustin BroadrickがGodflesh休止後に始動したJesuは、シューゲイザーとスロウコアをヘヴィメタルに組み込んだメタルゲイズ(シューゲイザー+ヘヴィメタル)的スタイルを追求する。ラウドロック全盛期に姿を現したOceansizeの『Effloresce』(2003)もまた、極端に重たいシューゲイザーをメタリックに現した作品だった。1995年に現れたアイスランドのSólstafirは、ブラックメタルやヴァイキングメタルを起点にして、ポストロックやポストパンクを取り込み、幽玄で滋味豊かなスタイルを追求している。こうしたジャンルのハイブリッド化は、ポストメタルの様式の重要な部分でもあり、多くが90年代に生まれていったというのも興味深い。言葉すら不要として、時に雄弁な楽器の音色で世界観を構築していくインストゥルメンタルバンドも、ポストメタルでは重要だ。また、Gojiraはテクニカル・デスメタル/プログレッシヴ・デスメタルを発端としてリズミカルでグルーヴを重視したスタイルへと変化し、より内省的な思索に沈ませる方向へシフトしてきた意味合いから、本書に収録している。
「Thinking Man’s Metal」という言葉がある。Aaron Turner(Isis/Old Man Gloom/Sumac)が提唱した一つの概念であり、ポストメタルについて端的に言及された概念だ。ポストメタルのスタイルは多くの場合、ドゥームメタルとハードコアのリンク、つまりスラッジを基盤に置いている。遅く、重く、内へ内へ沈み込むグルーヴのマントラが、「思索に沈む人間の奏でるヘヴィメタル」といった意味合いを皮肉交じりに提唱した言葉である。
ポストメタルのサウンドデザインは、轟音と静寂の交錯が主だ。多くの場合はミドルテンポあるいはスロウテンポである。ブラックメタルやデスメタル、スラッシュメタルのように攻撃的でスピード感のある曲展開とは真逆のものである。とは言え、ブラックメタルのサブジャンルであるポストブラックメタルとも共通項は多い。AlcestやDeafheavenは、ポストメタルとタグ付けをされることもある。ポストメタルの多くが重厚で遅く、長大な展開を持つスタイルを採択していった理由には、NeurosisやIsisといった先達の背中を見ていることが挙げられる。だが、北欧におけるブラックメタルの隆興へのカウンターも背景にあるようだ。ブラックメタルの進化の過程とは逆に、メタルにポストロックやシューゲイザーを組み込み、より内省的に、聴く者に思索を促すようなアンビエンスに導かれる、茫洋として重厚な音像。これらを「Thinking Man’s Metal」との端的なフレーズに落とし込んだAaron Turnerの的確さは見事だ。
さて、本書にはNeurosisを起点とした作品をまとめたものである。各ガイドブックの特性上、「これがない」と思われる向きもあるだろう。90年代に明確に認知されたジャンルであり、約30年の歴史がある。さらにはポストロックやスラッジとも近似したバンドも多い。そんな曖昧な境界線にあるバンドたちを、独断と偏見で選定していった。また、日本におけるポストメタルの人気は、世界と比較してそこまで高いとは言えない。だが、世界的に見てもポストメタル・アルバムのCD化が多くなされている奇妙な国でもあるのが、日本だ。Daymare Recordingsの驚異的なリリースが本邦におけるポストメタルの供給を支えているのは明白な事実である。また、個人ブログ『GRUMBLE MONSTER』の存在も、ジャンルの攪拌には欠かせない。そうしたエクストリームメタルの中でも一際ニッチな存在。重厚な轟音の音楽であるポストメタルの理解の傍らに、本書を置いてもらえれば嬉しい。
ポストメタルのスタイルの傾向
ポストメタルは、様式が確立しているわけではないが、スタイルの傾向は近いバンドが多い。そんな中でも、様々なジャンルと交配もしくは接近しており、細かなニュアンスの差異は聴けば聴くほど掴みやすい。
・スラッジメタル系
ポストメタルの始祖たるNeurosis、ポストメタルの概念たる「Thinking Man’s Metal」の提唱者であるIsisを筆頭に、最も多いのがこのタイプだ。
ドゥームメタルとハードコアをミックスしたスラッジメタルに、ポストロックやシューゲイザーに類する音響効果を接合した。重厚さと浮遊感という、相反する要素を両立する。このスタイルは、「アトモスフェリックスラッジ」とも形容される。長大で、じっくりと変遷するように静寂と激情をシームレスに移行するタイプのバンドが多い。ハードコアから出発してスラッジメタルを取り込み世界最重量に近い重厚感を得たAmenra、アトモスフェリックな音響で感情的な移ろいや無常感を表現するMorneの存在感は強い。
Neurosis、Isis、Cult of Luna、Amenra、Morne、Kowloon Walled Cityなど・プログレッシヴメタル系
プログレッシヴメタルの代名詞と言えば、Dream TheaterやOpethなどが挙がる。プログレッシヴメタルは、プログレッシヴロックの技巧的な部分や幻想性とヘヴィメタルのハードでダークな演奏を合わせ持ったスタイルだ。ポストメタルとプログレッシヴメタルは一見相性が悪いように映るが、その実IntronautやThe Oceanのように複雑で短いタームで曲を展開していくバンドもいる。彼らのような存在が、ポストメタルにより深い陰影を与えているのだ。テクニカル・デスメタルから出発してプログレッシヴメタルに通じるスタイルに着地していったGojiraは、メタルでも最高峰に位置づけられる人気を得ている。
Intronaut、The Ocean、Gojira、Hypno5eなど・オルタナティヴメタル系
ポストメタルとオルタナティヴメタルは密接に繋がりうるスタイルだ。元々ニューメタルやラウドロックと形容されていたオルタナティヴメタルは今なお根強い人気を誇る。独特の溜めによるリズム感や、必ずしもギターソロを必要としないギターは、ハードコアとも相性が良い。そのためか、オルタナティヴロックともそもそも相性が良い。Oceansizeのようなバンドや、DIR EN GREYの一部のアルバムは、オルタナティヴメタル的ともポストメタル的とも言える音像を構築している。
DIR EN GREY、Oceansizeなど・インダストリアルメタル系
Godfleshがメタルシーンに現れた時は衝撃的だった。無機質で非人道的な音像は、まるでディストピアに閉じ込められた雰囲気で聴く者を蝕む。Godfleshに顕著だが、スラッジメタルにも通じる重たいリフや精緻に計算された音響空間による轟音は、ポストメタルにも通じる。初期は無機質なインダストリアルの素養をも感じるGojiraや、インダストリアルから出発してポストメタルへ路線転換したDirgeは無機質さに思索性を持たせた印象を受ける。
Godflesh、Gojira(初期)、Dirgeなど・ポストロック/シューゲイザー系
「メタルゲイズ」と呼ばれるヘヴィメタルとシューゲイザー双方の特性を持ったスタイルがある。その代名詞たるJesuは、さらにエレクトロニカやフォークトロニカといった要素を組み込み、メタルのジャンル拡張の一助になった。ポストメタルとポストロックの曖昧な境界線はPelicanやRussian Circlesといった巨人により、さらに曖昧になっている。これらのインストゥルメンタル主体のバンド群は、カテゴライズの困難さを感じさせる。
Jesu、SOM、Pelican、Russian Circlesなど・前衛系
Sumacのように即興の要素を組み込み、不定形で予測不能な展開を持つバンドも特異的に現れる。それは、KhanateやSunn o)))が切り拓いたドローンメタルへの架け橋とも形容できる。主にAaron Turnerの実験的精神はポストメタルの自由さを象徴しているかのようだ。また、前衛的であるが即興であることを明確に否定するKayo Dotの存在も忘れてはいけない。彼らのようにハードコアの野心的な探求心は、難解ではあるが聴く者に新しい気付きを与えるはずだ。
Sumac、Kayo Dotなど・ハードコア系
スラッジメタルともリンクするが、ポストメタルの多くがハードコアを出発点にしている。その最たる例がOld Man Gloomだ。初期のIsisに見られた衝動的で攻撃的、知的でありながら粗野であるという、相反する要素を持ったスタイルは唯一無二だ。また、Neurosisも初期はパンク/ハードコアだった。Sibiirのように、ポストハードコアを第一義に掲げて活動しているバンドもいる。基本的にスピードが遅いポストメタルの中でも、比較的に速い体感速度を保つバンドが多い。
Old Man Gloom、Sibiir、kokeshiなど
著者プロフィール
近藤 知孝(コンドウ トモタカ)
大阪府内在住。怪談好き。音源感想ブログ『むじかほ新館。 ~音楽彼是雑記~』を運営。パブリブから声をかけていただき、2022年『ポストブラックメタル・ガイドブック』を刊行。ブログをはじめた理由は備忘録を残したかったのと、自分の感じたものをジャンル関係なくアウトプットしたかったから。自発的に音楽を聴き出したきっかけは黒夢。海外の音楽ではじめて買ったCDはRicky Martin。「世界で一番激しい音楽」で検索して出てきたEmperorでメタルに入る。Vampillia のメンバーが運営していたCD ショップで、薦められるがままにポストロックやエレクトロニカを聴き漁った結果、色々拗らせる。今はS.A.Music に通う日々。最近は怪談イベントによく出没中。共著に『メロディック・ブラックメタル・ガイドブック』がある。

