ヒップホップコリア

ヒップホップグローバル
韓国語ラップ読本
鳥居咲子(著/文)
ISBN 978-4-908468-04-9
C0073 四六判 192頁
価格 2,420円 税込 (本体2,200円+税)
書店発売日 2016年8月10日

 

 

紹介

子音で終わるパッチムや激音・濃音の語感の良さ! 罵倒語の豊富さ! 英語堪能な移民二世や帰国子女! 日本の歌謡曲や演歌・カラオケと通じる親近感! 韓流アイドル並のルックス! K-HIPHOP大ブレーク! 韓国ヒップホップ界を代表する総勢65組の実名・ハングル表記・生年・出身地・活動期間などプロフィール紹介! 菊地成孔氏寄稿コラム、脱北ラッパーのインタビュー。代表作レビューとYouTubeのリンク、各種SNSのURL記載。レーベル、クルー、プロデューサも紹介。歌詞や歴史も分析。

目次

はじめに
用語解説
Dok2(ドッキ)
The Quiett(ザ・クワイエット)
Beenzino(ビンジノ)
コラム1 Dok2 & The Quiett の所持品自慢
アーティスト紹介
Jay Park(ジェイ・パーク)
Simon Dominic(サイモン・ドミニク)
E SENS(イーセンス)
Dynamic Duo(ダイナミック・デュオ)
Zion.T(ザイオン・ティー)
Crush(クラッシュ)
Yankie(ヤンキー)
GRAY(グレイ)
Loco(ロコ)
コラム2 韓国ヒップホップの歴史
インタビュー DJ Soulscape
インタビュー Verbal Jint
アーティスト紹介
Verbal Jint(バーバル・ジント)
Garion(ガリオン)
JINUSEAN(ジヌション)
Epik High(エピック・ハイ)
Tiger JK / Drunken Tiger(タイガー・ジェイケイ/ドランクン・タイガー)
Yoon Mirae / Tasha(ユン・ミレ/ターシャ)
Joosuc(ジュソク)
Sean2Slow(シャニスロウ)
P-type(ピータイプ)
コラム3 韓国ヒップホップで食べていくこと
アーティスト紹介
San E(サン・イー)
Bumkey(ボムキー)
RHYME-A-(ライムアタック)
Eluphant(イルファント)
Crucial Star(クルーシャル・スター)
Mad Clown(マッド・クラウン)
Junggigo(ジョンギゴ)
Nucksal(ノクサル)
Deepflow(ディープフロウ)
インタビュー Deepflow
コラム4 Deepflow流トッポッキレシピ
コラム5 レーベル/クルー紹介
Paloalto(パロアルト)
Huckleberry P(ハックルベリー・ピー)
Reddy(レディ)
B-Free(ビーフリー)
Okasian(オケイション)
Evo(イヴォ)
Keith Ape(キース・エイプ)
コラム6 「 K-HIPHOP」とワタシの出会いとその後の関係について/菊地成孔.
コラム7 韓国ヒップホップを通した日韓親善
Swings(スウィングス)
Vasco(バスコ)
Giriboy(ギリボーイ)
Black Nut(ブラック・ナット)
C Jamm(シージャム)
BewhY(ビーワイ)
Jolly V(ジョリー・ブイ)
Olltii(オルティ)
Cheetah(チーター)
Double K(ダブル・ケイ)
Soul Dive(ソウルダイブ)
Basick(ベイシック)
YDG(ワイ・ディー・ジー/ヤン・ドングン)
コラム8 “脱北ラッパー”カン・チュンヒョク
インタビュー カン・チュンヒョク
nafla(ナフラ)
Owen Ovadoz(オーウェン・オーヴァドーズ)
Microdot(マイクロドット)
Ja Mezz(ジャメズ)
Geeks(ギークス)
Leessang(リッサン)
Outsider(アウトサイダー)
KIRIN(キリン)
JTONG(ジェイトン)
Jerry.k(ジェリー・ケイ)
Dumbfoundead(ダムファウンデッド)
コラム 韓国ヒップホップの主なプロデューサー
プロデューサー紹介
DJ Soulscape(DJ ソウルスケープ)
Primary(プライマリー)
Mild Beats(マイルド・ビーツ)
Loptimist(ロプティミスト)
コラム 韓国語のラップの歌詞
あとがき

前書きなど

ヒップホップと言えばアメリカだ。アメリカ東海岸で生まれたヒップホップは、西海岸や南部でそれぞれ独自の発展を見せ、あらゆる音楽ジャンルと融合しながら世界中に輸出されたアメリカが誇る文化だ。リアル・ヒップホップが聴きたいなら、アメリカのヒップホップを聴くのが一番手っ取り早いだろう。しかし本書では、お隣の国、韓国のヒップホップについて掘り下げてある。韓国ではヒップホップの人気が非常に高く、ポップスやバラードと肩を並べるほどだ。「韓国ヒップホップ」「K-HIPHOP」などと呼ばれるこの分野は、日本ではまだまだニッチな存在であるものの、幾ばくかのファンを持っている。そんな彼らには本場アメリカのヒップホップではなく、あえて韓国のヒップホップを聴く理由がある。もちろん全員が全員というわけではないが、韓国ヒップホップのファンには韓国以外のヒップホップはほとんど聴かないという人が少なくない。他のジャンルであれば国を問わず聴くような人であっても、ヒップホップに限っては韓国のものしか聴かないというケースが珍しくないのだ。つまり彼らはヒップホップが好きというよりも、韓国ヒップホップがもたらす別の何かに惹かれているのである。それが何であるかは人によって様々であろうが、ここでは筆者が個人的に感じている韓国ヒップホップ特有の魅力について簡単に語りたいと思う。

まず一つ目の魅力として、何よりも韓国語の語感が挙げられる。韓国語にはパッチムと呼ばれる子音があり、「閉音節(K、P、T、L、M などの子音で終わる音節)」が多用される。よく言われているのが「キムチ」の「キム」を日本人は「Ki Mu」と発音するが、正しくは「Kim」であるというものだ。豚の焼肉料理で知られる「サムギョプサル」の発音も「Sa Mu GyoPu Sa Ru」ではなく正しくは「Sam GyeopSal」だ。「ん」と「っ」以外のすべてが「開音節(母音で終わる音節)」でできている日本語とは違い、閉音節の多い韓国語では一つの音符に乗る音数が多いため、ラップした時にリズミカルになりやすい。英語も同様に閉音節が多いが、英語の場合は二つの母音を連続して発音する「長母音」や「二重母音」、母音にR の音が続く「R-controlled Vowels」などによって滑らかに聴こえる作用がある。英単語をカタカナ表記にする際、長音「ー」で書かれる部分のことだ。例えばティーチャー(Teacher)の場合、一つ目の長音は「ea」の長母音で、二つ目の長音は「er」のR-controlled Vowels である。一方、韓国語には長音に該当するような発音がなく短い音が連なるため、英語ラップに比べて歯切れ良く聞こえるのだ。また、韓国語には破裂させるように発音する「激音」や息を出さずに発音する「濃音」と呼ばれる発音があり、強い音と弱い音のメリハリがはっきりしている。韓国語のラップではこのような発音の特性から生まれる色彩豊かな語感を楽しむことができるのだ。故にそれまでラップに興味がなかった人でも惹きつけられたりするのである。

もう一つの魅力として、韓国ヒップホップのサウンドが日本人に馴染みやすい歌謡曲の要素を含んでいることが挙げられる。ヒップホップを始め、ブラック・ミュージックと呼ばれるジャズ、ブルース、R&B などといった黒人から生まれた音楽は、日本人が伝統的に慣れ親しんできたリズムや音階とは異なる特性を持つ。音楽を聴く時、多くの日本人は表打ちでリズムを取るが、黒人は裏打ちでリズムを取る。例えば4拍子の曲を聴く時、日本人は「タン、タン、タン、タン」とリズムを取るが、黒人は「ンッタン、ンッタン、ンッタン、ンッタン」とリズムを取るのだ。「ブンチャッ、ブンチャッ」の「ブン」の部分でリズムを取るのが日本人、「チャッ」の部分でリズムを取るのが黒人だと言うともっと分かりやすいだろうか。いわゆる「ソウルフル」という言葉を使う時、この裏拍子でリズムを取ることは必須条件である。また、ブラック・ミュージックでは日本の伝統的な音階と違ってピアノでいう黒鍵を多用する。この他にも違いは様々あるが、つまり日本の音楽とブラック・ミュージックは音楽理論上異なる特性を持っており(白人から生まれたクラシックはまた違った特性を持つ)、ポピュラー・ミュージックを聴いた時に感じる「洋楽っぽさ」や「歌謡曲っぽさ」に影響している。そしてお隣の韓国も日本と似たような音楽の発展の仕方を辿ってきた。韓国には日本の民謡に似た伝統音楽があり、演歌があり、そしてカラオケ文化が定着している。カラオケで好まれやすいのは覚えやすくて口ずさみやすいメロディの曲であるため、日本や韓国ではそのような歌謡曲が増えてくる。そしてその歌謡曲に欧米のロックやR&B などの要素が少しずつ取り入れられながら大衆音楽が発展してきた。これらの点で日本と韓国の大衆音楽は類似しており、結果として韓国のヒップホップで使われるメロディやリズムには日本人にとって親しみやすいものが多くなっているのだ。

また、ヒップホップには相手を罵る「ディス」という文化があるが、スラングや罵倒用語の多い韓国語は、怒りを表現したり自己主張したりする歌詞に向いている。豊富な罵倒用語を駆使し、相手を激しく罵りながらもライミング・スキルなどで競い合うことが可能なのだ。同じアジア人であることに親近感が湧きやすい点や、クリーンなイメージのラッパーが多いことなども魅力の一つだろう。他にも魅力ポイントはいくつもあると思うが、J-POP や洋楽、あるいはジャズ、ロック、EDM など数多くの選択肢がある中であえて韓国のヒップホップを好んで聴く理由を考えた時、最大の魅力として挙げられるのはやはり「韓国語の語感」と「親しみやすい音楽性」の2 点だと言えよう。

筆者自身も語感の良さを理由に韓国ヒップホップを聴き始めたうちの一人だ。それ以前は専ら欧米のロック、ジャズ、ポップス、フォーク、メタルなどを聴いていて、ヒップホップにはEMINEM などといった超有名人以外はほとんど興味がなかった。ところが2011 年、たまたまアイドル・グループBIGBANG のラッパーであるT.O.P のソロ曲『Turn It Up』を聴いたのをきっかけに、韓国語ラップの魅力にハマっていった。しかし韓国のアンダーグラウンド・ヒップホップを本格的に掘り下げようとしたものの、その当時は日本語の情報が皆無に等しかった。当時は韓国語がまったくできなかったため、インターネットの自動翻訳機能に頼りながら必死にリサーチを続けた。その甲斐あってこの分野については少しだけ詳しくなり、数々の機会に恵まれるようになっていった。ブログで韓国ヒップホップの情報を発信しているうちに、韓国人アーティストを呼んで来日ライブを開催するようになり、日韓アーティストのコラボレーションの橋渡し役を多方面から依頼されるようになり、韓国のヒップホップサイト「HIPHOPLE」と一緒にミュージックビデオの日本語字幕を作成するようになり、ジャズ・ミュージシャンの菊地成孔氏が務めるTBSラジオの番組『菊地成孔の粋な夜電波』で韓国ヒップホップを紹介する機会をいただくようになり、そして今回は韓国ヒップホップ専門の本を出版する機会までいただくこととなった。

2014 年頃より急速に日本でも韓国ヒップホップのファンが増え、筆者よりもこの分野について詳しい方々は増えたように感じる。それでも多くの韓国人アーティストたちと直接関わってきた経験を生かし、独自性のあるネタが書けたのではないかと思う。本書では韓国人アーティスト総勢65 組の簡単なプロフィール紹介と楽曲レビューを軸に、アーティストへのインタビューや韓国ヒップホップに関する複数のコラムをまとめた。4 名に行ったインタビューでは現在の韓国ヒップホップシーンに対する本音など突っ込んだ質問もし、コラムでは韓国ヒップホップの歴史を紐解いたもの、北朝鮮から脱北したラッパーの話、音源収益の実体や歌詞分析など幅広いネタを取り扱った。悩みに悩んで厳選した65 組のアーティストもメジャー/アンダー、ベテラン/若手、極力バランス良く配分したつもりだ。これ以外にも主要レーベルやクルー、プロデューサーなどを簡略的に紹介したコラムを用意した。韓国ヒップホップに興味があるのに情報不足で困っていた人、すでに詳しいけどより深く極めたい人、様々な言語のラップに関心がある人、韓国カルチャーの一環として知っておきたい人、珍しい本に対する怖いもの見たさの人、様々な理由でこの本を手に取っていただいたと思うが、どなたにとっても何か新しい発見を感じていただけることがあれば幸いである。アーティストの経歴やその曲が作られた背景、歌詞の持つ意味などが分かると楽しみ方の幅も広がるため、この本が少しでもそういった面でお役に立てることを願う。

著者プロフィール

鳥居咲子(トリイ サキコ)
横浜市出身。幼少期よりピアノと音楽理論を学び、学生時代はイギリス・ロンドンに音楽留学をした。外資系コンサルティング企業の間接部門にて会社員生活を送る中、趣味が高じて2013年より韓国のヒップホップ・ミュージシャンの来日ライブを手掛けるようになる。以降は韓国ヒップホップに関連した様々な活動をフリーで続けている。韓国ヒップホップの情報サイト『BLOOMINT MUSIC(ブルーミント・ミュージック)』を運営中。

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