共産テクノ 東欧編

共産趣味インターナショナル
四方宏明(著/文)
ISBN 978-4-908468-28-5
C0073 四六判 272頁
価格 2,970円 税込 (本体2,700円+税)
書店発売日 2018年9月10日

 

 

紹介

ソ連編に続く東ドイツ・ポーランド・チェコスロバキア・ハンガリー

科学技術・音楽・アート・数学に秀でた民族達の冷戦期電子音楽を徹底調査!

パンクでも4週間働いていないと懲役刑、バンドの給料は機材の重量で計算etc

■東ドイツ国家公認の反体制スピリットを体現した「オストロック」 Puhdys、City、Silly、Karat
■カセットテープで地下出版せざるを得なかった「真のアンダーグラウンド」 ディー・アンデレン・バンズ
■検閲逃れの為に歌詞を拒みながらも米刑事ドラマカヴァーのエレクトロニック・インストルメンタル Key
■東ドイツのチャート1位になりながらも西側に亡命しスピリチャル化したパンクの女王 ニナ・ハーゲン
■メンバーの内、二人がシュタージへの情報提供者だったパンクバンド Die Firma
■ソ連そして米国進出まで果たしたアイドル的エレクトロポップ・バンド Papa Dance
■白塗り、空手着を着て中華風ディスコ「ブルース・リー」でデビュー Franek Kimono
■ソ連をロボットに喩え、駐米チェコ大使が作詞したテクノポップMluví K Vám Robot
■イギリス人母を持ち、英語で歌いながらもベトナムやラオスまで遠征したスロバキアの Žbirka
■日本、そして国交がなかった韓国で人気を博したハンガリーのキャンディポップ ニュートン・ファミリー

●共産趣味スポット、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ再検証等のコラムも

目次

2 ■ はじめに~共産テクノはソ連から東欧へ
4 ■ 目次
7 ■ 凡例
8 ■ 地図

10 ■ ドイツ民主共和国

12 ■ Reinhard Lakomy
─統一ドイツの幼稚園・小学校で愛される東ドイツの電子音楽の父
18 ■ Kosmischer Läufer
─クラウトロック直系、東ドイツ・オリンピック選手強化のためのスポーツテクノは実在したのか?
22 ■ Ostrock Bands – Puhdys, City, Silly, Karat
─国家が認めたロックバンドの反体制スピリット?
34 ■ Key, Pond, Servi, Hans-Hasso Starner, Jürgen Ecke
─検閲のため独自の進化を遂げたエレクトロニック・インストルメンタル
37 ■ 《インタビュー① Frank Fehse》
─当時買った2台のシンセサイザーで家が1軒買えた……
47 ■ Arnold Fritzsch~Kreis, Pop Projekt
─フィリーソウルからエレクトロディスコまで手がけたディスコ職人
49 ■ Nina Hagen, H+N, Veronika Fischer
─ニナ・ハーゲンに始まる脱“東”者たちの行方
53 ■ Die Anderen Bands – AG Geige, Das Freie Orchester
─カセットが生み出したサブカルチャー、ディー・アンデレン・バンズ
55 ■ 《インタビュー② Alexander Pehlemann》
─パンクは東ドイツにとって異星人のような存在でした
68 ■ 《インタビュー③ Lord Litter & Dieter Zobel》
─西ベルリン人も加入した伝説のディー・アンデレン・バンズ、DFO
80 ■ ドイツ民主共和国・ディスコグラフィー
84 ■ 《コラム1》テクノポップのルーツ国としての西ドイツ
─テクノポップ、ヒップホップ、テクノ…全てはKraftwerkから始まった

91 ■ ポーランド人民共和国

94 ■ El-Muzyka – Marek Biliński, Władysław Komendarek
─意外なる電子音楽大国、ポーランドで生まれたエル・ムージカ
98 ■ 《インタビュー④Marek Biliński》
─ポーランド人は、いろんな手を使って自分たちが欲しいものを手に入れるのです
105 ■ 《インタビュー⑤Władysław Komendarek》
─政治的な歌詞を歌った時、シークレットサービスは電気を突然切りました……
113 ■ Budka Suflera, Klincz, Lady Pank, Maanam
─海外制覇も目論んだポーランドのニューウェイヴ・バンドたち
118 ■ Nowa Fala – Tilt, Kryzys, Madame, Made In Poland
─1980年はポーランド・ニューウェイヴ(ノヴァ・ファラ)元年!
121 ■ Franek Kimono
─見た目はヤバいオッサンだが、侮れないオリエンタルディスコ
127 ■ Papa Dance
─ソ連そして米国進出まで果たしたアイドル的エレクトロポップ・バンド
131 ■ Disco Polo
─恥ずかしいけど、ポーランド人なら歌えてしまう田舎のディスコ
142 ■ ポーランド人民共和国・ディスコグラフィー
149 ■ 《コラム2》ノイエ・ドイチェ・ヴェレ再検証
─世界中で同時多発したニューウェイヴという現象

163 ■ チェコスロバキア社会主義共和国

166 ■ Elektronická Hudba – Alexander Goldscheider, Alojz Bouda
─ソ連をロボットに例えた、風刺が効いた元祖テクノポップ
171 ■ ORM
─スペースディスコで1978年にデビューした電子音楽プロデューサー・チーム
175 ■ Pražský Výběr, Discobolos, Jana Kratochvílová
─政府によって強制終了となったプラハ発バンドのリーダーは後の大臣
184 ■ Nová Vlna – Abraxas, OK Band, Tango
─チェコのノヴァーヴルナ(ニューウェイヴ)の先駆者たち
189 ■ Otakar Olšaník, Sirus
─ブレイクダンス、エアロビクス……チェコスロバキアにもスポーツテクノ!
192 ■ Balet, Iveta Bartošová, Jiří Korn
─ミスター・ディスクジョッキーで東欧ディスコにタイムスリップ!
195 ■ Miroslav Žbirka, Limit, Banket, Vašo Patejdl
─侮れないスロバック・エレクトロポップ
203 ■ Jindřich Parma, Hipodrom, Cutmaster And M.C. Groove
─チェコスロバキア最大ヒット曲のアレンジャーはチェコハウスの創始者
208 ■ チェコスロバキア社会主義共和国・ディスコグラフィー
215 ■ 《コラム3》東欧共産スポット案内
─共産博物館、共産施設、共産食堂、共産カフェ、共産市場を訪ねて

231 ■ ハンガリー人民共和国

234 ■ Elektronikus Zene-Fonográf, P.R. Computer
─東ドイツで1975年にリリースされたハンガリー産元祖東欧テクノポップ
242 ■ Neoton Família/Newton Family
─日本と韓国で人気者だったキャンディポップ、ニュートン・ファミリー
250 ■ Omega, Gábor Presser, Tamás Mihály, László Benkő
─電子音楽を残したハンガリー屈指のロックバンドのメンバーたち
252 ■ Modern Hungária, Modern System, Dolly Roll
─哀愁のディスコポップに鞍替えしたオールディーズ・バンド
255 ■ GM49, KFT
─スカからテクノポップに転向したコメディアン率いるバンド
258 ■ Solaris, Napoleon Boulevard, Első Emelet
─プログレッシヴロック・バンドの移籍組から生まれた2組の人気ニューウェイヴ・バンド
261 ■ ハンガリー人民共和国・ディスコグラフィー

268 ■ あとがき
270 ■ 参考文献

前書きなど

はじめに~共産テクノはソ連から東欧へ

「共産テクノ」とは、「冷戦時代に共産主義陣営で作られていたテクノポップ~ニューウェイヴ系の音楽」と本書では定義する。当時からそう呼ばれていたわけではなく、筆者の造語である。「共産」と「テクノ」という組み合わせが生み出す違和感とインパクトが気に入って、新たなネーミングで再編集したジャンルだ。
本企画の構想段階では、1冊ですべての共産主義陣営を網羅するつもりでいたが、予想をはるかに超える数のアーティストを発掘してしまったため、地域ごとに分冊することとなった。「共産テクノ」シリーズの第1弾となったのが、2016年に『共産テクノ ソ連編』である。出版後、DOMMUNE、荻上チキ・Session-22、東京カルチャーカルチャーのソ連ナイトなどで楽曲や動画の紹介をする機会も頂き、弱小ながらソ連を中心とする共産テクノの普及活動もできた。その続編となる本書『共産テクノ 東欧編』では、冷戦中の東ドイツ、ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリーを対象地域とした。それぞれの国で民主化が行われた時期はベルリンの壁崩壊からソ連の解体の間となり、若干の時間差が国によってあるが、ソ連編と同じく1991年までとした。
東欧は文字通りにとればヨーロッパの東部を指すが、その範囲は時代によって変わる。冷戦時代において、東欧とは鉄のカーテンにより資本主義陣営と共産主義陣営に分断されたヨーロッパで共産主義陣営のヨーロッパを意味する。共産主義政権が次々と倒された東欧革命での東欧は、まさにその意味である。他にも中欧、中東欧、ヴィシェグラード・グループ(ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー)などの地域名があるが、当時の4ヶ国を簡潔かつ的確にまとめる名称はなく、広義での東欧からバルカン諸国とバルト3国などの旧ソ連共和国を抜いた状態ではあるが、本書における東欧とした。
この4ヶ国は隣接しているが、民族、言語、文化は大きく異なる。あくまでも主民族であるが、ドイツ語を話すドイツ人からなる東ドイツ、ポーランド語を話すポーランド人からなるポーランド、チェコ語を話すチェコ人およびスロバキア語を話すスロバキア人(この2民族は近い)が合体したチェコスロバキア、マジャル語を話すマジャル人からなるハンガリーとなる。ポーランド人、チェコ人、スロバキア人は西スラブ人に括られるが、ゲルマン系のドイツ人、一部はモンゴロイドの遺伝子を有するマジャル人とは民族的にも大きく隔たっている。特にマジャル語はウラル語族に属しており、異質の言語となる。
共産テクノに限ったことではないが、ほとんどのロックをはじめとした大衆音楽、特に若者たちが熱狂する音楽に対して政府は検閲を行い、特に西側から流入する反体制的とされる音楽を抑圧してきた。多くの場合、抑圧された音楽は地下へ潜り、ソ連で言われるところのサミズダート、カセットテープを主たるメディアとした地下出版という形で流通していった。同時に抑えきれなくなっていくと国家はそれらを認め、締めつけと緩和の微妙なバランスを取りながら、時には利用しようとした。
興味深いのは、同じソ連を核とした共産主義体制でありながら、国によって政府によるコントロールに差があったことだ。何を基準にするかによるが、ざっくりと定義すると、ソ連と東ドイツは超コントール体制、チェコスロバキアとポーランドは中コントロール体制、ハンガリーは低コントール体制と言える。一つの例はレコードの出版である。ソ連ではメロディヤが唯一の国営レコード会社としてレコードの出版を行った。同じように東ドイツでは、国営企業のVEB Deutsche SchallplattenのみがAmigaというレーベルを通じて大衆音楽を扱った。チェコスロバキアにおいては、Supraphon(チェコスロバキア)、Panton(チェコ)、Opus(スロバキア)の政府が所有する3レーベルによって独占的に行われた。ポーランドでの状況はより複雑となる。Polskie Nagrania Muzaとプラスチック資材工場として始まったPronitが国営レーベルだが、Tonpress、Arston、Wifonなどのレーベルも存在したが、多くは政府のコントロール下にあったと考えられる。加えて、ポロニア(海外にいるポーランド人)の資金援助により運営されたPolton、Savitor、Arstonの3つのレーベルが存在した。また、90年代には数々のディスコポロに特化したレーベルも勃興した。ハンガリーの国営レコード会社はMagyar Hanglemezgyártó Vállalat(MHV)のみだが、比較的コントロールが緩やかであり、Qualiton、Hungaroton、Pepita、さらに80年代にBravo、Profil、Krém、Start、Favorit、Gongなどのサブレーベルを加えていった。1986年に国営による独占が廃止されると、Trottelに始まり、Szimultán Rt.、Holdex、Nivo、Rákócziなどの民営レーベルも次第に増えていった。
東ドイツで3組、ポーランドで2組のアーティスト及び識者にインタビューを行ったというのもあるが、本書において4ヶ国の中で割いたページ数は東ドイツ、ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリーの順となる。各章においてテーマを設けて、単純な作品紹介に留まらず、作品が生まれた文化的背景も含め、できるだけ読み物として成り立つようにした。各国の最後には、どうしてもはまりきらなかったアーティストの作品をディスコグラフィーという形で紹介している。また、「テクノポップのルーツ国、西ドイツ」「ノイエ・ドイチェ・ヴェレ再検証」という2つのコラムでテクノの文脈で最重要国と言えるもう一つのドイツ、西ドイツについても言及している。
本書の出版元のパブリブの考え方にも通じるが、「共産テクノ」シリーズは、まだ十分に発掘されていない地域やジャンルの音楽を解き明かすことを目的としている。その多くは初めて知るアーティストである可能性が高いとは思うが、現在はYouTubeなどで楽曲や動画を視聴することも可能なので、気になったアーティストはぜひ検索して欲しい。
では、ソ連に続く、東欧へのタイムスリップをお楽しみください。

                         音楽発掘家 四方 宏明

著者プロフィール

四方宏明(シカタ ヒロアキ)
1959年京都市生まれ。神戸大学卒。2014年にP&G退社後、(株)conconcom及び(株)WATER DESIGNにて調査・開発コンサルタントとして活動する。2017年よりcitrusでもプロダクト・リサーチャーとして情報発信をしている。2001年よりAll Aboutにてテクノポップのガイドとなり、音楽発掘家としても情報発信を続けている。音楽だけでなく、レトロフューチャー、ヴィンテージ、マージナルなものを愛する。

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