四方宏明さんによる『共産テクノ 東欧編』が完成しました。

「ソ連編」に続くものですが、それぞれ全く別の国をテーマにしているので、どちらから読んでも構いませんし、どっちか一方だけしか興味がない場合、その一冊を読むだけでも十分楽しめます。

なお東欧関係では『東欧ブラックメタルガイドブック』と『ヒップホップ東欧』も弊社から刊行されています。

まずは東ドイツ。『ニセドイツ』という本でも記された通り、資本主義陣営の西ドイツと対峙していた共産主義の東ドイツは、色々な面で影響を受けながらも、対抗意識を燃やしており、面白い事になっていました。それはテクノでも同様です。

「ソ連編」でも紹介しましたが、共産圏では「スポーツテクノ」が盛ん。東ドイツもオリンピックのメダル獲得上位国として、スポーツテクノにテコ入れ。

西側の情報を見られたので、ロック人気は無視できず、体制公認の「オストロック」が出てくる始末。

歌詞やボーカルがないインストゥルメンタルの方が、検閲に引っかからなくてやりやすいというのもソ連と同じ。しかしなぜかこれらのバンドもアメリカの刑事ドラマの主題歌をカバーしたりしています。

日本でも知名度の高いニナ・ハーゲンは東ドイツ出身で、西側に亡命した有名パンク歌手。他にも脱北ならぬ脱東ドイツ亡命者ミュージシャンが多くいたようです。

公に認められなくても、音楽活動をしたい人は沢山いました。そういったバンドは「ディー・アンダレン・バンズ」と言われ、カセットテープの録音で地下で流通しました。本当の意味でのアンダーグラウンドと言えますが、パンクバンドなのにメンバーにシュタージ(秘密警察)が潜んでいたりと、東ドイツならではの事情も。

各国の章末はディスコグラフィーを掲載。

色々なコラムを設けていますが、こちらは「テクノポップのルーツ国としての西ドイツ」。

次はショパンを生み、Behemoth等のブラックメタルやOSTR等のヒップホップ等、もともと音楽大国として知られる国、ポーランド。

ルブリンと聞いただけでソ連後ろ盾の「ポーランド国民解放委員会」を連想してしまいますが、ニューウェイヴBudka Suflera等。

Franek Kimonoという白塗りした状態で空手着を着ながら、ブルース・リーについて歌うオリエンタル・ディスコ。

ポーランドは移民輩出国で、「ポラック」と呼ばれる人達が世界中にいました。シカゴはワルシャワよりもポーランド人が多いと言われるぐらい。Papa Danceはソ連、そしてアメリカでもライブしたグループ。

土着型民族ディスコとして知られる「ディスコポロ」。ポーランド関係者ならみんなが知っているダサさ。

三番目の国はチェコスロバキア。今はチェコとスロバキアに分かれていますが、冷戦時代は一つの国でした。

「プラハの春」でも知られるチェコスロバキア。ハヴェル大統領のスポークスマンMichael Žantovskýは「ソ連」をロボットに喩えて遠回しに批判。ちなみに「ロボット」という単語はチェコ生まれ。この人物は後に駐アメリカ大使に就任するほど出世。

政府当局に弾圧されながらも、革命後に大臣に就任したアーティストなどが多くいるようです。ハヴェル大統領自身が演劇で知られていますが、さすがチェコスロバキアといったところ。他にもどことなく芸術やアート性を感じさせるミュージシャンが多いようです。

ブレイクダンスやエアロビクスはテクノと親和性が高く、チェコスロバキアでもスポーツテクノとして人気。

「ソ連編」でもありましたが、共産趣味スポットを解説したコラム。

最後の国はハンガリー。「ハンガリー人宇宙人説」が唱えられるほど、特に数学などの理系分野で天才を生み出してきた国。また周囲のゲルマンやスラヴ系とは異なる言語体系のマジャール語が用いられている、東欧の中で独特の位置を占める国。

ハンガリーと日本は戦前最も早く文化協定を結び、同じ枢軸陣営として「トゥラン主義」なるトンデモ論が流行る程、実は仲良かったりするのですが、こちらは冷戦期に日本、そして韓国だけで人気が出てしまったニュートン・ファミリー。

ハンガリーは実はプログレ大国としてOmegaやSolaris等が有名ですが、そのメンバーらもテクノを実践していた様です。

ざっと手短に紹介しましたが、ここでは十分説明し尽くせなかったので、是非本書を手にとって見て下さい。

なお「ソ連編」と比較して値段が高いですが、ページがかなり増えています。この通り、厚さがこれだけ違います。また実は「ソ連編」では1行につき21文字だったのが、「東欧編」では収まりきらず、22文字と増えており、全体の文字数は更に多いのです。

本日9月10日が正式な発売日ですが、既に店頭では並んでいる模様です。