第二帝国 上巻

帝国趣味インターナショナル1
政治・衣食住・日常・余暇
伸井太一(編著 | 編著), 齋藤正樹(著)
ISBN 978-4-908468-17-9
C0022 四六判 208頁
価格 2,300円+税
書店発売日 2017年10月6日

 

 


紹介

それは第三帝国へと繋がる道だったのか

『ニセドイツ』伸井太一編著で

ドイツ第二帝政時代を

豊富な図版で解説する。

■ドイツ帝国を率いたプロイセン、誇り高きバイエルン、科学技術に優れたザクセン、 偉大な学者を生み出したヴュルテンベルク、自由主義の温床バーデン、フランスとの 間に挟まれたエルザス= ロートリンゲン等の諸邦を解説。

■目立ちたがりなバカ殿ヴィルヘルム2世と、若い頃は破天荒だった名宰相ビスマルク

■ニベアやクノール、バイエル、メルクリンこの頃創業し、市民消費社会が定着

■ジャポニズムに傾斜し過ぎて厄介払いされたお雇いドイツ人建築家達

■後発帝国主義国として南西アフリカ、南太平洋等の獲得に必死

■後にヒトラーユーゲントの活動と繋がるワンダーフォーゲルやユースホステル

■ナチ期の優生思想・人種主義や東ドイツの自由身体文化とも繋がる裸体運動

■後に人類最大の蛮行を繰り広げるヒトラー、ヒムラーらの可愛らしい少年時代

目次

2  はじめに(上巻)
6  「国々」:神聖ローマ帝国─オーストリア≒?
8  プロイセン王国:「新興国家」プロイセンの軌跡
14 バイエルン王国:保守的か? 革新的か?
18 ザクセン王国:発明王国ザクセンの最大の発明とは?
20 ヴュルテンベルク王国:したたかな黒色の獅子と金色の鹿
22 バーデン大公国:自由主義の源泉地
24 「兄系ロイス」と「弟系ロイス」:兄弟みなハインリヒ!
25 エルザス=ロートリンゲン:二つの大国のはざまで
26 初代皇帝ヴィルヘルム1世:自由主義の敵か? 味方か?
27 2代皇帝フリードリヒ3世:帝政期の希望か?
28 ヴィルヘルム2世:最後の皇帝はグミがお好き
32 ドイツ帝国の体現者:その血統と決闘の日々
36 ポスト・ビスマルクの宰相たち:「権力の真空」を埋めるのは誰だ?
38 メイド・イン・ジャーマニー:モノモノしき帝国の成立
40 デパートの開店:商品たちの百貨争鳴
44 パン・ドイツ主義:軍用パンと女性マイスターの誕生
46 マーガリン:人口を支えた人工食品
48 クッキー「ライプニッツ」 :ギザギザ52という普遍数字
52 ドイツの伝統菓子? バウムクーヘン:ドイツではそんなに食わへん
56 チョコレート:スポーティなチョコ? リッター・シュポルト
58 ダルマイヤーの商業戦略:黄色で曲がった物、売ってました
59 コーヒー商と芸術運動:コーヒーから立ちのぼる「褐色」の香り
62 ビール帝国ドイツ:冷製と醸造のあいだ
66 オクトーバーフェスト:王家よりもビールが好き?
68 日本とドイツ・ビール:日本の麦酒、麦誕
70 クノール:即席力は即戦力
72 帝政期の料理:やはりジャガイモ……
74 台所と戦場キッチン:第二帝コック
76 魔法瓶:魔法と神の世界
78 ヴェック:ビン詰め保存の目覚め
80 サッカー:遅れてきた「サッカー革命
84 卓球:「ピンポン! ピンポン! ピンポン!」
86 武術:柔の道の交差点
90 裸体運動:身裸万象を体感
94 ブラジャー:女性の解放か? 締め付けか?
96 コンドーム:性と生のコントロール
100 靴クリームの時代:シュトゥンデ・塗る
102 ニベア:雪の巨人
104 バイエル社とアスピリン:「万能薬」アスピリン
108 テディベアと女性の社会進出:わたしのステディ
112 メルクリン:イエス・マイ・レール
114 みつばちマーヤ:世界を飛び回るマーヤ
116 ボードゲーム『イライラしないで』:イライラ時代の盤上遊戯
122 「国立」図書館の誕生:ドイ知の蓄積
124 帝都ベルリン:軍都か? 文化都市か?
130 フィルハーモニー:ベルリン市民と楽団のハーモニー
134 旅行業:パッケージ・ツアーの始まり
136 鉄道旅行:旅皇帝と機関車ヘーゲル
140 観光地の発明:アルプス旅行
144 ゾンマーフリッシェ(避暑・保養):軽井沢の原型、ここにあり
148 ワンダーフォーゲル:窮屈な教室を半ズボンで飛び出せ!
152 ユースホステル:ユースフルな宿泊施設
158 温泉と海水浴:ドイツ式リゾートの発明
162 浜のかご:北の海辺の過ごし方
166 パノラマ:19世紀の想像力をかき立てた箱
168 アフリカ植民地:世界帝国ドイツの野望
172 南太平洋植民地:南の島のドイツ帝国
174 青島:第二帝国とアジア・日本が邂逅する地
176 南米の新ゲルマニア:「兄ニーチャンは死んだ」Byニーチェ妹
177 ヘッケルの『生物の驚異的な形』:進化論の深化と真価
178 動物園:「自然」のなかの「都会生活」
186 ドイツ色に染まる日本?:皇国日本と帝国ドイツ
190 第三帝国の少年像:ヒトラー最初の12年間
192 第三帝国の少年像:ゲッベルスと映画の時代
194 第三帝国の少年像:ゲーリングと騎士へのあこがれ
196 第三帝国の少年像:ヒムラーとカトリックの敬虔さ
198 『第二帝国』地図
200 『第二帝国』を知るための年表
202 注
207 上巻のおわりに

前書きなど

「第二帝国ドイツ」、それは1871年から1918年の半世紀足らずのあいだ地図上に存在していた帝国である。この帝国は、ほかにもドイツ帝国や帝政ドイツとも呼ばれた。なぜ「第二」なのかというと、およそ千年間続いた「神聖ローマ帝国」を「第一」だと想定しているからである。そして21世紀に生きる私たちは、もちろん「第三帝国(ナチ体制下のドイツ)」も痛いほどに知っている。第一と第三のあいだの第二帝国は、第一帝国(神聖ローマ帝国)の息の根を止めたフランス革命後の市民革命という「自由主義の種」をうちに抱え込み、同時に第三帝国へと通じる「ナショナリズムという種」を芽吹かせた帝国だといえよう。
本書『第二帝国ドイツ』は上下巻の二冊を通じて、この帝国の「文化」を中心に扱うことになる。しかしそれは、現在の「文化イメージ」とはやや異なっている。18世紀末の市民革命の影響から、19世紀のドイツでも「市民」が社会の中心に位置しはじめた。これはフランス語では「ブルジョワBourgeois」、ドイツ語では「ビュルガー Bürger」と呼ばれる層だ。つまり、日本における「横浜市民」のような都市住民を指す用法とは違う。ビュルガーは、彼ら同士の社交を通じて独自の文化を形成した(1)。この社交は英語にすれば「ソサエティ」と訳せるだろう。だが、19世紀ドイツに発展したこの市民文化は、音楽・絵画鑑賞からリゾートへの保養旅行など、現代だと「ハイ・ソサエティ」と定義できる文化領域であり、高所得の市民同士の社交によって生みだされた文化である。
ただし本書はではこれらの市民文化だけを扱うわけではない。もっと現代に通じるダイナミックな文化、ある意味で「現代的・通俗的な」文化を対象にしている。上巻では、クッキーなどのお菓子から、ビールなどの飲料、そしてサッカーなどのスポーツや旅行という余暇に至るまでの生活文化を取りあげている。これらの文化は、上流文化の模倣・複製であったが、広い消費層を生みだすことで「上下」の階層を飛び越えるダイナミズムを備えていた。つまり、20世紀から現代に通じる「大衆文化」の誕生の原因となったのである。
やや長いが、ヨーハンとユンカーの『ドイツ文化史』(三輪晴啓・今村晋一郎訳)内の印象的な文章を引用しておこう。

  1890年の春、ベルリンのポツダム広場で初めて〈野花〉が売られた。マルク・ブランデンブルク州で摘まれたアネモネや桜草などである。(中略)このベルリンの先例は徐々に流行していった。その4年後、ハンブルクではなお新鮮な花を買うことは不可能だった。人の手を加えた花束、念入りに仕立てられたブーケ(花輪)が支配的だった。つまり園芸家にとって一つ一つの花は素材にすぎなかったのである。しかしベルリンっ子は早速この野花に飛びついた。というのは、 冬の間でも鉄道がほとんどその日のうちにリヴィエラのみずみずしい花を届けてくれたからである。
  家庭に新鮮な花を持ち込んだことは革命的な結果をもたらした。一見些細なことが環境を変え、さらに生活感情をも一変したのである。新鮮な花の強烈な色彩が従来の住居の重苦しい飾りを圧倒した。花は部屋の中に光と空気を要求したため、部屋を整理、整頓する必要があった。

この文章には、第二帝国を考えるためのいくつかの重要な材料が隠されている。まずは、野花という自然物を売ることが可能になったこと。それには鉄道の発展が不可欠だった。そして、それまでの「人工的な」花輪の文化を侵食していったこと。これは本書でも扱われる「近代化VS反近代」としての自然回帰運動との関連性を見いだすことも可能かもしれない。さらに、なによりも野花(花束)の導入が、室内空間を変化させたということである。
今では当たり前のように売られる花屋の花だが、第二帝国時代という今から約100~140年前を切り取って考えてみると、社会変容のダイナミズムを知ることができる。これはまた、現代社会あるいは日本社会をも考えなおす素材となるかもしれない。なぜなら、19世紀末にはすでに世界は「グローバル化」し、ヨーロッパ近代の潮流は日本にも届いていたのである。この独日交流もまた、本書が扱うテーマである。
次ページで、ごく簡単に19世紀から20世紀の「ドイツ」をめぐる時系列の表を示しておこう。この図を用いても「ドイツ」の複雑さを理解するのは難しい。まず各邦国や都市国家が存在し、第二帝国成立後も独自の権限を持ち続ける場合があったことを知る必要があるだろう。簡単にいえば、各独立した地域を括る上位概念としての「ライヒ Reich」が、全体を緩やかにまとめたと捉える必要がある。ライヒは「帝国」と訳されることが多く、本書も第二帝国という名を付けているが、「領域(ベライヒ Bereich)」とも語源を同じくしているので、「各地域がまとめられた領域」と理解するのもよいだろう。なお、ナチ・ドイツは、この領域全体を強制的に中央集権化(均質化)しようと試みた政治体制であった。しかし、それも完璧に成功しなかった。それほどまでにドイツ諸邦の独自性は強かったのである。
なお、「第二帝国」という名称は歴史学上ではあまり用いられない。通常は、先述の帝政ドイツ、ドイツ帝国やドイツ第二帝政と呼ばれる。本書では敢えて、この帝国の「第二」的な性質を考えるために、「第二帝国」と題した。さらにタイトルのドイツ語も、英語で「the」と同じ定冠詞「das」を避けた「Zweites Reich」という形を用いることで「連続」の断定を避けている。読者のなかにドイツ史通がおられたら、本書を通じて「第一・第三」との関係性を考えながら読み進めていただきたい。
この上巻では、まずドイツ帝国の「国々・諸地域」を扱っていく。最初に、100年以上前のドイツ社会にタイムトリップする見取り図を手に入れていただければと思う。

著者プロフィール

伸井太一(ノビイ タイチ)
北海道大学文学部卒、東京大学大学院総合文化研究科・単位取得退学。ドイツ文化に関するライター(実は、東京の某女子大学の歴史学教員)。著書に、東西ドイツの製品史を扱った『ニセドイツ』シリーズ(社会評論社)。本名(柳原伸洋)では『日本人が知りたいドイツ人の当たり前』(共著、三修社)や『教養のドイツ現代史』(共編著、ミネルヴァ書房)など。

齋藤正樹(サイトウ マサキ)
東海大学工学部卒、早稲田大学第一文学部卒、東海大学大学院修士課程修了、早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。修士(工学、文学)。専門はドイツ近現代史。2006-2011年までベルリン在住。現在、教職、翻訳業、ライター業等をしつつ、近現代ドイツの民族主義、人種主義と宗教の関連性についても研究している。

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