岩田宇伯さんによる『ヒップホップアフリカ』が完成したので、中身を紹介します。

こちらがカバーと帯を付けた状態。

帯を取り外したところ。

『ヒップホップグローバル』シリーズの第3弾なのですが、第2弾は『ヒップホップ東欧』でした。

『ヒップホップアフリカ』がタイトルですが、サブタイトルは『サブサハラ49ヵ国ラップ読本』なので、北アフリカはまたの機会に。

まえがきと目次です。こちらでも見られます。

地域別の4章構成になっており、まずは東アフリカ。エチオピアやケニア、タンザニア、モザンビークなどアフリカの中では知名度の高い国が多いほうです。

本書を読む上でGengetoneやBongo Flavaなど、日本人には馴染みのないサブジャンルを冒頭で解説しています。

オールカラー224ページでありながらも、極力価格を抑える必要があり、なおかつ49ヵ国を対象にしているので、1国平均5アーティスト前後しか紹介できない計算になります。もちろん国の人口規模やシーンの発展度合いにしたがって軽重の差は付けています。

そして基本的に1アーティストにつき、日本からでもストリーミングで聴ける代表的な1曲を紹介するという仕組みです。なおYouTube、Spotifyのストリーミングのサービスの有無をアイコンで記載しました。またどれだけのレベルで人気や知名度があるのか一見分かりにくいので、Last.fmのリスナー数も記載しました。

さてまずはエチオピアから。こちらは「アムハラ語採用Gurage Toneを確立したエチオピアのレジェンド!」Teddy Yo。

各アーティストのスペック項目では上記のストリーミング以外にも「出身国」「出身地」「拠点」「生年」「活動期間」「本名」「別名義」「グループ中心人物」をできるだけ細かく記載しました。

人口が日本と同じぐらいのエチオピアなどの大国では、アーティストを厳選するほうが大変でしたが、逆に110万人のジブチや362万人のエリトリアなど小規模国で、情報が不足している国は探し出すのも至難の業。

一方こちらは「ソマリア戦乱逃れカナダへNas、Bono、Keith Richardsとコラボする大物!」のK’Naan。

現地国以外ではほとんど知られていないアーティストと、世界的に有名なアーティストの差がピンキリなので、「ヒップホップアフリカYouTube再生数ランキング」コラムを用意しました。

左は「宗教指導者も困惑、新世代ソマリア女子のロールモデル!」のNiini Dance。

YouTubeでそのビデオクリップが見られますが、なかなかインパクトがあります。

「世界各地に離散したメンバーがスーダンの「アラブの春」をバックアップ!」のNas Jota。

スーダンは今年(2023年)、武力衝突が報じられたのが記憶に新しいところ。

右はアフリカの中でも最も新しい独立国南スーダンの「スーダン人民解放軍元少年兵という波乱万丈を経験した社会派!」Emmanuel Jal。

本書では複数のアーティストへのインタビューに成功しました。こちらはケニアの元KleptomaniaxのColloが登場。

左ページは世界的にも衝撃を与えたハードコアテクノ・インダストリアルビートが炸裂するウガンダのEcko Bazz。

Nyge Nyge系のHakuna Kulalaからリリースされた『Mmaso』は日本のテクノ・エレクトロニカ系レコードショップなどでも大絶賛されています。

人口9万人のセイシェル(アフリカ最小)や80万人のコモロなどもきちんと紹介。

さて各国必ず1アーティストは1ページを使って紹介しているのですが、どうしても複数の優良なアーティストが存在する国などでは紹介しきれないので、章末にそれ以外の重要・お勧めのアーティストを「音源レビュー」という形で紹介しています。

各章がこの様な構成になっています。

お次は中部アフリカ。コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、アンゴラなど。

「独裁者モブツの政党と同名、モブツ政権時代を懐かしむデュオ!」のMPR。

右のコラムは「施主は独裁政権、MVに登場する珍妙な建造物」。

コンゴ共和国の圧政からブルキナファソに亡命したMartial Pa’nucciのインタビュー。

なんとブルキナファソ在住の現代音楽作曲家、藤家溪子さんとのコラボもしています。

ンクルマ、ニエレレ、サンゴール、マルコムXなどの政治家や活動家が歌詞やコンセプトで取り上げられることが多いので「ヒップホップアフリカに影響与えた政治家」コラム。

第3章は南部アフリカ。ナイジェリアに追い抜かれましたが、それまではアフリカでGDP一位だった南アフリカが入ります。

KwaitoやAmapiano、Gqomなど日本でも人気のサブジャンルがだいぶ前から発展していることでも知られます。

「アフリカ最後の絶対王制」といえるエスワティニがあったり、国の中の国(包領)レソトがあったりと興味深いエリアです。

「アパルトヘイト時代の申し子、有色人種居住区ケープフラッツ出身!」Prophets of da City。

右のページは「ヒップホップ4大要素全てをこなすZulu Nation南アフリカ支部!」Black Noise。

そのBlack NoiseのEmile YX?のインタビュー。「アフリカーンス語を、解放の言語として再定義している」と答えたりと、非常に興味深い内容。

南アフリカは突出して有名アーティストが多いですが、左は「2010年代に出現賞総なめプラチナ連発、惜しくも凶弾に倒れる!」AKA。

そして右は「AKAとのbeefも話題となったヨハネスブルグ拠点の新世代ラッパー!」Cassper Nyovest。

特徴的で変わったコンセプトを持つアーティストも多いようです。

こちらはナミビアの「コンピュータサイエンス博士のハイテクユニットによるアフロフューチャリズム!」Black Vulcanite。

右ページは「宇宙とテクノロジー、アフロフューチャリズム」コラム。

最終の第4章は西アフリカ。今やアフリカ最大の人口と経済力を誇るナイジェリアを有し、フランス植民地であった国々が多いのもこのエリアの特徴です。

右は「そのスタイルはAfro Fusion、アフリカの巨人から世界の巨人へ!」Burna Boy。

ナイジェリアは桁違いに音楽シーンの層が厚く、アーティスト数も膨大にいる為、それだけで一冊の本ができてしまうほど巨大です。

アメリカのトップクラスのアーティストとコラボしたりするアーティストも多く、その活動規模やリスナー数は桁違い。

したがって本書で紹介できたのは代表的なアーティストのみで、全体のごく一部です。

「Boomplay等アフリカ発ストリーミングサービス」。

ガーナの「1973年ハイライフ大物歌手によるラップ、果たして世界初なのか!?」Gyedu-Blay Ambolley。

「ヒップホップの祖先、西アフリカのグリオ」のコラム。

同じくガーナ「2015年発掘再評価、90年代超チープな宅録初トゥイ語ラップ!」Ata Kak。

ガーナ、セネガル、ケニアではDrillが発展。「シカゴ、ロンドン、そしてアフリカンDrillシーン」のコラム。

「MVに怪レぃ日本語登場、日本マンガに影響されたセネガルDrill!」のAkatsuki SN。

彼らにはインタビューでも登場してもらっています。

さてこの記事で紹介できたのは本書『ヒップホップアフリカ』の中の一部でしかありません。

そしてこの本で紹介できたのもアフリカのヒップホップの一部です。この本がアフリカのヒップホップの探求の切っ掛け、一助となれば幸いです。

なお『ヒップホップグローバル』の第1弾は『ヒップホップコリア』。

そしてヒップホップとは対極的なジャンルとも言えるメタル全般を扱った『デスメタルアフリカ』。

出版された時期は離れていますが、『ヒップホップアフリカ』はこれらの本に連なる流れに位置します。

興味を持った方々はぜひこれらの本も手にとってみてください。