大江・留・丈ニさんによる『北朝鮮アニメ大全』が完成したので中身を紹介します。
帯を取り外したところはこのような感じ。制作現場に口出ししまくった金正日の若かりし日の美化された肖像画が真ん中に。
北朝鮮の重要アニメを網羅的に紹介しています。目次はこちらでも見られます。
凡例や用語解説に続いて、やっと第1章の「北朝鮮アニメーション史」。
まずは北朝鮮のアニメの概要を知ってもらう為の基礎知識を読者の頭に叩き込む意図です。
北朝鮮の社会的背景を理解していないと、それぞれの作品もよく理解できないはず。
社会主義リアリズムや金正日が提唱した「児童映画理論」について詳しい解説が施されており、それだけで40ページに。
各章末には息抜きコラムがあるのですが、これは「北朝鮮のアニソン」
大江さんが、わざわざ視聴できるプレイリストを作ってくれました。
https://www.nicovideo.jp/user/305566/video
やっと第2章の「北朝鮮のセルアニメ」。
いきなり最初に、反米がテーマなのにYouTubeでも見られる『時限爆弾』
当初は抗日アニメは禁止されておらず、金日成原作の『蝶々と雄鶏』や倭寇を退治する『二将軍の話』などのアニメも。
倭寇を殲滅する『翼のある龍馬』。殲滅される側の日本人が、それを面白がって本で紹介してしまうというシュールさ。
「角度の求め方を理解しないと米帝に侵略されることを悟り、立派な人民解放軍兵士になるべく、心を入れ替え勉強することを宣言する」『鉛筆爆弾』。
第1章の章末コラムは「北朝鮮のアニメ声優」について。特にアイドルは存在しないようです。
アイドルは資本主義の退廃文化とのことですが、お上品なおばさん声優はいるみたいです。
さて第3章は「北朝鮮の人形アニメ」。
やたらと出てくる地主批判アニメ。強欲で悪辣で、村人を搾取していますが、勧善懲悪で成敗されるというワンパターンなストーリーで、むしろ気の毒なほど。
「鉛筆一本も無駄にするな」という教えを訓じていながら、超高層ビルが立ち並ぶ近未来風都市の上空を飛ぶエアカーが出てくる『鉛筆の願い』というアニメ。
こちらは「北朝鮮アニメスタジオ」のコラム。
オウムとハゲ爺が大バトルする訳がわからないストーリーの『頭の禿げたオウム』。金日成が子どもたちに言い聞かせた話らしいですが、オチもなく、意味不明。笑える要素が一切ありません。
北朝鮮のアニメはあまり日本の影響を受けておらず、むしろアメリカや旧共産圏のアニメの影響を受けているらしいです。確かにどことなくディズニーやトムアンドジェリーっぽさがあります。
その一方で時代が進むにつれて日本のアニメの影響も出てきます。日本のアニメの下請けをしていた影響、また朝鮮総連が北朝鮮に持ち込んだからと言われています。
息抜きコラム「北朝鮮の教科書」。宮塚コリア研究所の宮塚利雄代表、宮塚寿美子副代表から提供頂いた資料を紹介しています。
悪者役として成敗されているのが、我々日本人。当時、生きていたら目の敵にされ、袋叩きに遭っていたかもしれません。
ただ実際のところ、この教科書を本当の日本人がツッコミを入れながら、本で紹介するということは全く想定していなかったでしょう。そう思うとやはりシュール。
人件費が安いため、次第にフランスやイタリアなど西側のアニメの下請けを受注していきます。『ガンダーラ』という作品はフランスのルネ・ラルー監督のもと作られましたが、世界観やストーリーがシュールレアリズム。社会主義リアリズムの真逆を行っていて大丈夫?
フランスとの合作アニメ、北朝鮮版『ロミジュリ』の『好童公主と楽浪公主』。
韓国との合作で、日本の『ポンキッキ』の中でも放送された『ポンポンポロロ』。北朝鮮っぽさは感じさせず、世界中で大人気。
北朝鮮でエロはご法度ですが、どことなくグラマラスな喜び組みたいなお姉さんも。
SFも当初はご法度だったらしいですが、事実上北朝鮮版の『サンダーバード』と言っても良い『幻想の中の三人の友』。
そういう世界観が存在するのか、と意外に感じます。
徐々にCGも導入しリメイク。また教育的なアニメも。
北朝鮮は電力が逼迫しているはずですが、『電気宮殿に行ったミュンジニ』では、ファンタジーレベルで煌々と光る超高層ビルが。
実は日本の『北斗の拳』や『マッドマックス』など西側アニメ、映画の世界観、ヴィジュアル設定に影響を受けているだろと思わざるを得ない絵柄のキャラクターたち。
無理やり朝鮮画とCGを融合させて、不気味の谷に突入した『キャンプの一日』。北朝鮮ではメガネも忌避されていたらしいのですが、このアニメではメガネっ娘が登場。
またここでも液体金属で作られた様なやりすぎな近未来風のビル。
電力どころか食料さえ逼迫して、学校で食用うさぎの飼育が義務付けられているくせに、自宅では豪華な大型液晶テレビが。
欧米から制裁されているにも関わらずDellやApple製品を使用し、Adobe Flashや3D Studio MaxでCGアニメを制作しているらしいです。
また実写ドラマと融合させた、韓流ドラマにも見間違えそうな『好童王子と楽浪公主』。
「北朝鮮アニメの推しキャラ」コラム。
最終章は「北朝鮮のシリーズ・アニメ」。朝鮮語がわからないと、訳がわからない北朝鮮アニメ。
そこで北朝鮮アニメ愛好家の間では非常に重要な3作品『かしこいタヌキ』『少年将軍』『リスとハリネズミ』を各部に別けて、徹底的に解説。これで粗筋がついていけなくなることもなく、副読本として実際のアニメを見ながら読むと、より一層理解が深まるでしょう。
北朝鮮版『三国志』といわれる『少年将軍』。登場人物が多すぎ、話の展開もややこしすぎてついていけなくなりそうですが……。
こちらの人脈相関図を何度も確認すれば、なんとか話の大筋を見失わないで済みます。
敵陣に潜入したり、二重スパイがいたり、寝返ったり、寝返られたり、似たような名前、ルックスの人物(動物)が大量に登場してきて、頭が大混乱に陥る『リスとハリネズミ』。
原稿だけ読んでいても、本当によく分からなくなってくるので、著者の大江さんに執拗にリライトを要求しました。
いくら支離滅裂の展開が続いたとしても、この『北朝鮮アニメ大全』を見ながら、実際の作品を見ればおおよその粗筋は理解できるのではないかと思います。
この『リスとハリネズミ』はあまりにも複雑すぎるストーリーの為、文字数多めで解説。
最後のコラムは「北朝鮮アニメのメディアミックス」。
なんと『少年将軍』のスマホゲームまで存在するらしいです。
そして巻末には「北朝鮮アニメ年表」。北朝鮮のアニメを網羅的に収録しており、この様な資料は北朝鮮にもインターネットにも存在しないと見られます。
さて駆け足で『北朝鮮アニメ大全』の中身を紹介していきました。オールカラーで256ページもあり、ここでは十分紹介しきれていません。
ぜひ買って実際に見てみてください。なお大江・留・丈ニさんは以前弊社から『韓国いんちきマンガ読本』を上梓されており、こちらもお勧めです。
またかに三匹さんの『韓国アニメ大全』でも編集協力頂いており、北朝鮮と対峙する韓国のアニメについて、日本で唯一出版されている本です。
ここまできたら朝鮮コンテンツ3部作、全て買い揃えた方がいいのではないでしょうか?
既に多くの反響を頂いており、書店でも買えます。