山中明さんによる『ソ連ファンク 共産グルーヴ・ディスクガイド』が完成したので、中身を紹介します。
山中さんの最大の強みがディスクユニオン所属で、レコード盤に対する知識や愛情が強く感じられる事です。
その為、レコードを基調としたカバーにしました。また淡い色というリクエストもあり、今までの共産趣味本でよく使っていた真っ赤な原色ではなく、レトロ・セピア調に調整しました。
ソ連っぽさを維持する為に『共産テクノ』と連なる様な角張ったロゴにしています。それでいてファンクっぽさも体現する為に、楕円状に歪ませています。この角度調整が難しく、何度も何度もやり直しました。
帯を取り外した状態。山中さんは元々「Red Funk」というフレーズを提唱していたのですが、英語の場合、検索しても英語のサイトもヒットしてしまう事、2単語の間に半角空きが入ることで、フレーズ検索で括らないと特定できない事、全文字大文字、あるいは頭文字だけが大文字の表記揺れが発生してしまう事、カタカナで「レッドファンク」あるいは中黒を入れた「レッド・ファンク」と複数の表記が発生しかねない事などの不具合が予想されました。
商品名としての書名で複数の表記揺れが発生するリスクがあり、『ソ連ファンク』というタイトルにせざるを得なくなってしまった事は申し訳ないと思っています。この点は山中さんにはご理解を頂きましたが、元々「Red Funk」に親しみを覚えていたファンの方々にもご理解頂ければ幸いです。
「Red Funk」というフレーズがアイデンティティや提唱者のコンセプトである為、本扉では大々的に載せています。ちなみに背景にあるのは、ウクライナのキーウにあるブルータリズム建築ホテルサリュート。
凡例のページ。テーマがソ連時代の音楽を扱っている為、本文での表記は凝りに凝りました。極力、固有名詞や地名はソ連崩壊後ではなく、ソ連時代の名称で記しました。
ロシア語のチェックは東京外国語大学でソ連やアゼルバイジャンのジャズを研究された佐藤大雅さんに徹底的にお願いしました。
また全般的なチェックを『ソ連歌謡』を弊社から出版されている蒲生昌明さん、そして先日『共産テクノ ソ連編 増補改訂版』を出版されたばかりの四方宏明さんにお願いしました。
バルト諸語のチェックに関しては、弊社の『ヴァイキングメタル・ガイドブック』などでもご協力いただいているポリグロットの秋山知之さんに見てもらいました。
そして歴史・地理全般については『共産趣味インターナショナル』シリーズを手掛けている私(本書編集者)が入念にチェックしました。
まさにフル装備状態です。
分かりにくい国営レーベルメロディアの音源の解読方法。
ラベルバリエーションやプレス工場について詳述。
ジャケットの見方。
プレスヴァリエーション。同じ音源でも細かい違いがあるようです。レコードマニアの拘りがとことん発揮されています。
ただ実際には全ての音源をレコードで入手するのは難易度が高いので、オンラインで聴ける「ソ連ファンク」の探し方も指南。
ここからが本編です。第1章がジャズ。ちなみに左が地図と本書で登場する地名の新旧対照表。
やはり最初に紹介するのは国営レーベルと同じ名前を授けられたМелодия。
ソ連ではVIAという形式のバンド形態が主流でしたが、グルジアのその名もВИА-75。
アゼルバイジャンの伝統音楽ムガムとジャズを融合したVaqif Mustafazadə。校閲者の佐藤大雅さんのご専門でもあります。
他にも主要アーティストを複数扱っていますが、章末にはディスクガイドレビューを用意。
そして随所にコラムを挟んでいます。こちらは「ソ連産特殊レコードの世界」
山中さんと知り合ったキッカケは2019年3月1日に阿佐ヶ谷ロフトで開催された『ソ連ナイト』なのですが、そこに出演者として一緒に登壇されたのが、肋骨レコードの提唱者で元モスクワ放送の西野肇さんです。
実はほぼ同じタイミングで学研プラスから『冒険のモスクワ放送 ソ連“鉄のカーテン”内側の青春秘話』を出すようです。
肋骨レコード以外にもクルガゾールというソノシート付き月刊誌。
可愛らしいカバーのクルガゾール達。
第2章はロック、ソウル、ポップス。
『ソ連歌謡』でも出てくるラトヴィアのRaimonds Pauls。
これも『ソ連歌謡』でも出てくるАлла Пугачева。当初、「これもファンクなの?」と思いましたが、後期はコズミック感のあるディスコやレゲエ風の曲が増えていくので納得。
モルダヴィアのEarth, Wind & Fireと呼ばれるОризонт。
編集者も『ソ連歌謡』の「Мой адрес – Советский Союз(私の住所はソヴィエト連邦)」でドハマリしたСамоцветы。
ディスクガイドコーナー。タタール自治ソビエト社会主義共和国のАида Ведищеваなども見えますね。
第3章はサイケデリック、プログレッシヴ。最もファンクっぽく感じる部分かもしれません。
山中さんのお気に入りЮрий Морозов。ロシアでは愚者崇拝という概念がある様ですが、まさにそれを体現したかの様な人物。奏でる音も奇々怪々。
入稿直前に訃報が飛び込んできたソヴィエトロックの父Александр Градский。
ベラルーシは今現在フォークメタル大国ですが、それに影響を与えたのではとも感じられるПесняры。
トルクメニスタンは旧ソ連構成国の中でも最も謎めいていますが、トルクメンのリズムグルГунеш。
ここ最近、反政府デモで世界的に注目のカザフスタンにはサイケのДос-Мукасан。見た目が東アジアのモンゴロイド風なので、目に付きます。
世界各地で「Red Funk」の復刻が進んでおり、そういった音源を再発しているレーベルの特集。
最終章の第4章がディスコ、エレクトロ。『共産テクノ』と通じる部分があります。
『共産テクノ』でも出てくるラトヴィアが生み出したソヴィエト・コズミック・ディスコZodiac。日本人のファンも多いです。
今現在、Red Funkを体現していると言ってもいいノヴォシビルスクのThe Soul Surfers。『ソヴィエト・ヒッピー』という映画の紹介も。
最後は世界各国のRed Funk有識者達にトップ3音源を挙げてもらうコーナー。
と色々と付属物も盛りだくさんの『ソ連ファンク』。これはソ連愛好家だけでなく、ファンクファン、レコードマニアなどあらゆる人にオススメの一冊です
既に大型書店や大型レコードショップ、オンライン書店での販売は始まっています。
ちなみにディスクユニオンでは山中さんが制作した「RED FUNK MIX CD-R BY 山中明」を先着順でプレゼントしています。
そして弊社からは『ソ連ファンク』の前に『ソ連歌謡』と『共産テクノ』も出ています。特に『共産テクノ』は長らく絶版に近い状態だったのですが、昨年10月に増補改訂版を出版しました。
今現在の音楽ではなく、過去の音楽を扱っている為、賞味期限が実質なく、発売からだいぶ経ってから興味を持つ方々も多いようです。この『共産テクノ』の初版が2016年に出版されてから、かなり長期間在庫切れになってしまい、プレミア価格まで付いて、かなり入手困難な状態が続いていました。
『ソ連ファンク』も買いそびれが発生しないように、手に入る内にお買い求めいただくことを強くお勧めします。
ところでせっかくの機会なのでついでに紹介したいのが、この『ソ連ファンク』の最初のカバー案だったものです。
ノリノリで試作し、山中さんにお見せした所、一瞬で返事が返ってきて、「馬鹿にしている」と完全拒否!
『共産テクノ』がゴルバチョフとKraftwerkのパロディだったので、ブレジネフとJames Brownみたいなファンク風の人を合体させればいいかと思ったのですが、どうやらイメージと違うとの事で、拒絶反応を示されてしまいました……。
その後、気を取り直して今のカバーに至るわけです。結果的にそれで良かったと思うのですが、記念にここに掲げておきます。