木村香織さんによる『ミニスターリン列伝 冷戦期東欧の小独裁者達』が完成したので、中身を紹介します。

カバーはカリカチュアで「ミニ」感を出しました。

帯を取り外した状態です。下にスターリンが浮かび上がっているように見えます。

著者の木村さんは2019年に弊社から『亡命ハンガリー人列伝』を出版されています。

始めに。こちらでも読めます。

本編に入る前に「第二次世界大戦後の東欧の歴史」でおさらい。

「ミニスターリン が活躍した時代の各国の共産党系政党名」「ミニスターリンが活躍した時代の各国の秘密警察・諜報機関の名称」などの巻頭付録の後に第1章ハンガリー。

まずは「サラミ戦術で知られ「スターリンの最も優秀な生徒」と呼ばれた男」ラーコシ。

若い頃の写真も。

「国家保衛庁」のコラム。こういった専門的な事項に関する用語解説コラムを随所で挿入しています。

「ラーコシの60歳の誕生日記念式典」や「ラーコシの絵」など豊富な図版。

ラーコシの墓。そして「参考文献」と「脚註」。参考文献の大半が海外の文献です。こういった調子で、次から次へとミニスターリン達を紹介していっています。

本編のミニスターリンと均等間隔レベルでコラムを挿入しています。これは「反チトー・キャンペーンで最も効果的に作用したでっちあげ裁判 ライク事件」

また東欧各国の強制収容所も紹介しています。実際に木村さんが現地に取材に訪れた収容所も多いです。

この様な感じで、第2章はブルガリア。

「独国会議事堂放火事件裁判で英雄化、 バルカン連邦構想で叱られる」ゲオルギ・ディミトロフ。

ディミトロフと子供達

「「チトー主義者」粛清でスターリンのお気に入り、その死と共に失脚」ヴルコ・チェルヴェンコフ。

数々のプロパガンダポスター。

本書『ミニスターリン列伝』では粛清された側の人物たちにもフォーカスしています。これは「ブルガリアにおける反チトー・キャンペーンで粛清された」トライチョ ・コストフ。

「スターリン死後から35年の長期に渡り権力の座に君臨」トドル・ジフコフ。

「ミニスターリン養成所だったコミンテルン付属のエリート学校」「国際レーニン学校」。

第3章はチェコスロヴァキア。

「スターリン葬儀参列直後に急死し、スターリン批判を免れる」クレメント・ゴットワルト。

仲睦まじい様子の妻マルタとゴットワルト。なるべくミニスターリン達の私生活にもクローズアップしています。愛妻家もいれば、愛人を囲いまくったプレイボーイ独裁者もいます。

「チトーを批判するカリカチュア」。

「チトー主義ではなく、反ユダヤ主義が影響して粛清された」ルドルフ・スラーンスキー。

「「反帝国主義・反戦・平和・親善・連帯」スローガンに掲げられた」世界青年学生フェスティバル。うまく利用される形に。

実はいれるかぎりぎりまで迷った「時代に逆行する保守的政策打ち出し、プラハの春の引き金を引く」アントニーン・ノヴォトニー。

第4章はポーランド。実はこの国で「ミニスターリン」だとはっきりと断言できる人はほとんどいません。ソ連にそれなりに対抗意識を燃やしていたり、自主路線を進んでいた政治家が多かったようです。

ポーランド唯一のエントリーとなった「ソ連のスパイ故、内向的でカリスマ性乏しく個人崇拝うまくいかず」ボレスワフ・ビェルト。

「スターリンからのプレゼントという形でワルシャワに作られた」ワルシャワの文化科学宮殿。

第5章ルーマニア。強烈なミニスターリンがいます。

「スターリン死後、西側とも関係良好、ソ連軍撤退まで要求」ゲオルゲ・ゲオルギウ=デジ。

「ドナウ・黒海運河建設」についてのかなり細かい解説。

「ゲオルギウ=デジとフルシチョフ 後ろにはチャウシェスク も写っている」。

「「スカートを穿いたスターリン」と呼ばれるも粛清された」アナ・パウケル。確かにヒゲを付けたらスターリンに顔も似ている気がします。

もしかしたら一般人には一番有名かもしれない「ネオスターリニズム推進し、妻エレナまで個人崇拝の対象に」ニコラエ・チャウシェスク。

夫並みに悪どい妻のエレナ。そして贅沢の限りを尽くした「国民の館」。

第六章は東ドイツ。

「社会主義陣営の模範国家と自画自賛しブレジネフから疎まれ失脚」ヴァルター・ウルブリヒト。

「ゴルバチョフにまで呆れられ、ベルリンの壁崩壊、冷戦終結に寄与」エーリッヒ・ホーネッカー。

ゴルバチョフには愛想を尽かされました。

第7章はアルバニア。

ミニスターリンの中でもナンバーワンと言ってもいいかもしれません。

「スターリン批判以降も堅持、ソ連・ユーゴ・中国とも袂を分かつ」エンヴェル・ホッジャ。

「アルバニアと中国の友好関係を表すポスター」。

妻ネジミエや子どもたち。

「アルバニア共産党内ユーゴスラヴィア派代表として粛清された」コチ・ジョゼ

第8章はユーゴスラヴィア。本書の特色といえるのがスターリニズムの文脈でこの国を分析したことかもしれません。

「反スターリニズムに潜む「スターリニズム」」ヨシップ・ブロズ・チトー。

一般的にはチトーはスターリニズムと戦った非同盟諸国会議のリーダー。

第一次大戦でロシア帝国軍の捕虜となり、モスクワのコミンテルンで活動するなど、ソ連共産主義とは切っても切り離せない関係に。

若い頃のチトーの写真。晩年のカリスマ性は感じられず、むしろギョロっとした不気味な顔立ちが印象に残ります。

チトー人気を表した写真。

ユーゴスラヴィアのゴリ・オトク強制労働収容所。

最後のコラムは「コミンフォルム派ユーゴスラヴィア政治亡命者たちの反チトー・キャンペーン活動」

以上、456ページに渡るボリューム満点の『ミニスターリン列伝』。

既に大型書店やオンライン書店では発売が開始されています。共産趣味者、スターリンファンの皆さんは是非買ってみて下さい。