突然ですが『ガリツィア全史』を出版します。

著者は安齋篤人さんで副題は「ウクライナとポーランドをめぐる歴史地政学」です。シリーズ『境界地域研究第一巻』の第一弾となります。

「ガリツィア」という名称はよく聞くけど、今現在主権国家ではないし、行政区でもないので、いまいちピンと来ない人が多いと思います。

しかし「ウクライナ戦争」が始まってから見聞きする頻度が爆発的に増えてきました。

なんとなく「ウクライナの西の方なのかな」と分かったつもりでいても結局、いつの時代にどこの国に属していたのかとか、主要民族や言語、宗教などがどうだったのか等、細かいことがあまりよく分からない、漠然としたエリアだったのではないでしょうか?

ウクライナ・ナショナリズム 涵養の地なのか?

一方でそれなりに歴史やウクライナに詳しい人からすると、ガリツィアと言えば、マイダン革命の前後から右翼が多く活動していたことで知られているかもしれません。

古くはロシア領ウクライナからガリツィアに亡命し、OUNやバンデラなど急進右翼に影響を与えたドミトロ・ドンツォウがいました。

ウクライナ民族主義者組織やバンデラで知られる一方、 ギリシャ・カトリックの下でリベラリズムを育んだ地でもあった

しかしガリツィアはオーストリア・ハプスブルクの下、自由主義を育む風土もありました。ウクライナ近代文学の生みの親で思想家として知られるイヴァン・フランコはガリツィア出身です。

ポーランド人とウクライナ人の民族融和を唱えた、ギリシャ・カトリックのアンドレイ・シェプティツィキー府主教も知られています。

ガリツィアはなんとオーストリア学派の元祖として知られる経済学者のカール・メンガーや、リバタリアニズム経済学の潮流を作ったルートヴィヒ・フォン・ミーゼスなどの出身地でもあります。

ロシアによる侵略以降ポーランドとの連帯感が高まるも、第一次大戦からナチス期の歴史認識では対立を抱える

境界地域に位置することからも近隣諸国との対立や対話を繰り返してきており、特にポーランドとは幾度となく領土を巡って争ってきたことから今でも、歴史問題では確執があります。

そしてポーランドだけでなく、ドイツ、ハンガリー、リトアニア、ハプスブルク、チェコスロヴァキア、ルーマニアなど近隣諸国とも密接に関係しています。

中東欧政治を理解する上で極めて重要なエリア

ガリツィアという境界地域・辺境地から中東欧、そしてヨーロッパ全体の歴史の流れを掴む事ができます。

ロシアに支配されたことがなく

ウクライナ人の国が存在した歴史上重要な地

ハーリチ・ヴォリーニ公国、西ウクライナ国民共和国…

そして何と言ってもガリツィアはロシア領になった事が一度もなく、過去にウクライナ人の国が存在してきた地として、ウクライナにとっても非常に重要なわけです。

この一冊を通じて、今までガリツィアの分からなかった事が、全て分かると言っても過言ではありません。消えたガリツィアの地が、歴史上の舞台に生き生きとよみがえるでしょう。

極力、ウクライナ語やポーランド語など原語表記を併記し、なるべく1ページに1枚以上の画像を配置しているという、技術力を要する手の込んだ作りになっています。

またややこしい領土の変遷も地図で詳しく描画しています。

「ガリツィアの都市」
「ガリツィアの「ロビン・フッド」ドウブシュとフツル人」
「ウクライナ語の起源 —ガリツィア・ポジッリャ方言、ルテニア語」
「マゾッホとガリツィア」
「社会主義期のポーランドと西ウクライナの新都市・団地」

といったコラムも用意しています。

その結果、四六判並製408ページという辞書みたいな大著になっています。2800円という定価は自己犠牲を払いすぎかもしれません。

現在作業の大詰めを迎えており、無事うまく進めば12月上旬には店頭に並ぶ予定です。

弊社からは2020年に平野高志さんによる『ウクライナ・ファンブック』、そして今年2024年の8月には梶山祐治さんによる『ウクライナ映画完全ガイド』が出版されていますが、『ガリツィア全史』はウクライナファンの皆さんにも強くお勧めします。