友利昴さんによる『エセ商標権事件簿』が完成したので、中身を紹介します。

『過剰権利主張ケーススタディーズ』の第二弾で、第一弾は『エセ著作権事件簿』です。お陰様で『エセ著作権事件簿』はかなり多くの反響を頂き、3刷りにまで至りました。今でも日々「エセ著作権事件」が発生し、このフレーズが人口に膾炙してきております。

『エセ商標権事件簿』の副題は帯にデカく表示されているとおり、「商標ヤクザ・過剰ブランド保護・言葉の独占・商標ゴロ」です。

商標権は著作権と比べて一般の方々にはあまり接点がないかもしれませんが、『エセ著作権事件簿』では載せられなかったパロディグッズなどの話も豊富に掲載しています。

実はこの2つの本は元々1冊のつもりで執筆してもらっていたのですが、あまりにも文字数・ページ数が多くなり、分冊化するに至った経緯があります。

なので本来2つ揃って1つなので、ぜひ両方とも揃えてください。

袖に載っているのは弊社刊行『北朝鮮アニメ大全』。『エセ著作権事件簿』では日本政府が北朝鮮を国家として承認していないことから、著作権フリーという話が載っています。

『エセ商標権事件簿』ではなんと巻頭にカラーページを設けました。商標の説明をしている際に、色に言及する事例が多く、白黒だとどうしても分かりにくいので、カラーで説明する必要がありました。

カバーや包装が似ている事件では、カラー写真で見ることでより理解が深まります。

正露丸の事件。似ていると言えば似ているので、微妙な違いをカラーで認識。なんと巻頭カラーを16ページも用意したのに、お値段は『エセ著作権事件簿』と同じ2500円の据え置き。この1年で印刷製本代が大幅に値上がりしましたが、頑張りました。

『エセ商標権事件簿』のまえがき。こちらの書誌データのページでも目次と共に読めます。

凡例、そしてここからが第1章の始まりです。4章の構成になっています。

トップを飾るのは「モンスターエナジー事件」。「モンスター」と付く、ありとあらゆる企業の製品に対して、執拗にクレーム。しかもどんな相手もお構いなしで、ポケモンやディズニーといった一流企業、製品にまで容赦なし。まるでモンスタークレーマーです。しかしそれも連敗中……。

一流大企業なのに、法務部は機能しているのかと疑わざるを得ない「インテル・インサイド事件」。なんと単なる副詞である「インサイド」と銘打たれた広告・キャッチコピーに対して、片っ端から異議申し立て。そしてことごとく退けられています。

一時期お茶の間でも話題になった「断捨離事件」。やましたひでこが「断捨離」を商標登録したから、この言葉を許可なしに使うのは違法と延べ、ありとあらゆる番組やYouTuberなどに使用中止を要求。

それを真に受けたYouTuberたちが、「断捨離」という言葉を使わないで謝罪、動画削除という不気味な状態に。結局、特許庁が、「断捨離」を「社会に定着した一般用語」と認定し、やましたひでこの訴えは認められず。

それどころか「断捨離」は沖導師が提唱者だということも明るみに出てしまいました。本書の中でも極めてインパクトのある事件です。

今回も随所でコラムを用意しています。これは「「みんなのもの」を商標登録しようとする困った人々 その1」。

世間的にも特に知名度が高い「面白い恋人事件」。結局、和解で収まってしまいましたが、実は新任の社長がカタブツで、過剰コンプライアンスだったのではと推測。

パブリシティ権に一定の限界がある事を分かりやすく説明した「ピンク・レディーdeダイエット事件」。

数年前に著者の友利さんのTwitterでバズった「ペンパイナッポーアッポーペン事件」。「アップル」という言葉をすべて独占しようとする勢いでしたが、特許庁に全面的に否定されてしまいました。

編集者としては理不尽に思えた「やせるおかずの作りおき事件」。本の装丁が似すぎということで、出荷停止に追い込まれた事件です。

真相は、装丁のデザイナーが実は両社の本を手掛けており、なおかつシリーズで続いてきており、そのデザインパターンを継続する流れで結果的に似てしまったというもので、同情の余地がかなりあります。

もっとも屁理屈に思える「アディダス三本線事件」。4つの線がある製品に対しても、その線の間を取れば3本線に見えると主張。

ネット騒動でも度々、「エセ著作権」「エセ商標権」事件が発生しますが、特に話題になったのが「ゆっくり茶番劇事件」。

「ゆっくり茶番劇」というフレーズを商標登録したので、このフレーズを使う人は「申請書を出して一〇万円払え」と勝手に宣言。

マスコミも報じるほどの大事になり、商標権を放棄する抹消登録申請に追い込まれています。

漫画などのフィクションでは実在する会社やブランドの名称を捩ることがありますが、それでもトラブル化した「Bamily Mart事件」。

結局、ファミリーマートが法的根拠なくクレーム、そして小学館がお気持ちを忖度して、過剰自主規制というオチです。

商品カテゴリーや営業拠点が全く異なるのに、社名が同じということで執拗にクレームし、敗訴し続けた「ANOWA事件」。むしろ『エセ著作権事件簿』でもよく出てくる「関係妄想」にも思える異様な事件です。

こちらも単なるパロディに対して、一流大企業がマジギレし、それに対して出版社が作者を守る訳でもなく、すぐに屈服、謝罪に至ったケースの「Kurobo事件」。

広告主・スポンサーに対して逆らえなかったのかもしれませんが、表現の自由をあっさり手放しており、非常に残念な対応です。

この遊び心でしかないパロディに対して、本気でブチ切れるメーカーが後を絶たないですが、法的根拠は希薄のようです。

今後はこういったケースはこの『過剰権利主張スタディーズ』のシリーズで紹介していく予定なので、どうぞ情報をお寄せください。

フランク・ミュラーのパロディ時計の商標が訴訟沙汰になったが勝訴した「フランク三浦事件」。パロディに対して、ここまで本気で反撃した例はあまりなく、非常に勇気づけられる事件です。

なお弊社が刊行した『どえらいモン大図鑑』のパロディカバーに対する警告書を撃退した「『どえらいモン大図鑑』事件」は『エセ著作権事件簿』で詳しく紹介されています。

靴底の赤い色を独占しようとし、同業他社を訴えた「クリスチャン・ルブタン事件」。かなり主張に無理があった様で、意匠やプロダクトデザイン関係者にも参考になる事件です。

『エセ著作権事件簿』はその本自体がクレームや訴訟、トラブルを招く覚悟で出版しました。一人だけ直接、弊社に「出版刺し止め」(ママ)を要求するクレームをしてきた人がいます。

それはスザンナホビーズ事件のスザンナ。しかも言っている事が「「Susanna’s Hobbies」は自分が商標登録しており、その商標登録情報を調べれば、商標公報には商標権者である自分の本名と住所が載っているのだから、同書の販売は「基本的人権を無視」しており「個人情報保護法違反に当たる」とまるでデタラメな主張。

折しも『エセ商標権事件簿』の制作が佳境に入る頃で、これ自体があまりにも荒唐無稽な主張で、ネタになるのでコラムにしました。

『エセ著作権事件簿』は「エセ著作権主張者」の「パクられ妄想」といった精神的な問題を抱えている事が多いですが、『エセ商標権事件簿』は割と金銭目的の事例が多いように思えます。

商標登録すれば、なんでも独占的使用が認められ、賠償請求できたり、莫大な使用料が請求できると思う人が出てくるみたいです。

本書の中でも特に過大な権利があると思い込んで色んなところに金銭を要求した「キューピー人形事件」。結局ことごとく敗訴。

「ディズニーは著作権にうるさい」というのは半ば都市伝説化しつつあり、『エセ著作権事件簿』で実はそこまで恐れる必要はないという事を「プールの底のミッキーマウス事件」で紹介しました。

その伝説を更に無効化するのが「逆ミッキーマウス事件」。ある和菓子屋のロゴがミッキーマウスに似ているとして訴えられた事件ですが、全然似ていないですし、全くの筋違い。結局、特許庁もディズニーの主張を認めませんでした。

大企業、有名ブランドだからといってビビる必要はないことが本書の他の事件でもよく分かります。

「著作権にうるさい」と恐れられているものの大半が「神話」だと認識する必要があります。

「エセ商標権被害を開陳して逆に訴えられた人々」のコラム。ここ数ヶ月は「パクられ妄想」で、第三者を「著作権侵害」で告発した方が、実は勘違いや妄想で全否定されて、逆に名誉毀損に当たり、損害賠償まで請求されてしまっているケースが多発しています。

安易に「パクられた」と訴えることのほうがどれだけリスクかを認識した方が良いでしょう。言ったもの勝ちではありません。

法律のことを扱うからには、詳細な出典注を載せています。第三者が原典・一次資料をしっかりと辿れるように編集しています。

繰り返し述べていますが、この『エセ商標権事件簿』は本来、『エセ著作権事件簿』の原稿でした。

両方セットで1冊だと思ってもらったほうが確かです。しかも2冊に分冊化したにも関わらず、両方とも500ページ近いボリューム。本当は4、5冊に別けても良かったぐらいの内容です。

『エセ著作権事件簿』が出版されてから、世間でも「エセ著作権」という概念が認知されつつあります。Twitterでは「エセ著作権」疑惑が濃厚なケースについて、著者の友利さんの見解を問う人も増えてきました。

もしほかにも「これはエセ著作権では?」と思うような事があれば、ぜひ弊社の「エセ著作権通報窓口」に情報をお寄せください。同時に「エセ商標権」についても募集しています。

『過剰権利主張スタディーズ』シリーズの続編で紹介する可能性があります。

ということで『エセ商標権事件簿』をざっと駆け足で紹介しました。

2023年12月の年末に配本されましたが、意外とKonozamaにはならず、即発送されるようです。『エセ著作権事件簿』の時は、2ヶ月以上在庫切れで、復活することなく重版に至りました。

また『エセ著作権事件簿』が売れた実績があるためか、多くの大型書店で展開してもらっているようです。

昨年暮れから幻冬舎ゴールドオンラインでは『エセ著作権事件簿』の抜粋記事がオンラインで配信され、度々話題になっています。『エセ著作権事件簿』の内容がどういうものかサンプルとして手っ取り早く知る事も可能で、記事に興味を持ったら、ぜひ本も買ってみてください。