阿久津孝絋さんによる『ゴシックメタル・ガイドブック』完成したので、中身を紹介します。

カバーと帯。キャッチフレーズは「メランコリック・ロマンティック・シンフォニック・ドラマティック」。

帯を取り外した状態。ゴシックメタルは蝶々をモチーフにしたジャケットデザインが多く、それを踏襲しました。

つい先日には『メロデスガイドブック 北欧編』も出版しましたが、ゴシックメタルと非常に関連性が強く、Sentencedなど両方のジャンルにまたがるバンドも多いので、是非こちらも手にとってみてください。

こちらが本扉。廃墟風ゴシック建築のイメージです。

まえがき。ゴシックメタルは色んなジャンルにまたがる為、境界線が曖昧です。本の趣旨説明で、こちらでも読むことができます。

ゴシックメタルはニューウェーブ、ポストパンク、ヘヴィメタル、オルタナティヴなどあらゆるジャンルを源泉としており、その解説。

さてここからが第1章の「西欧」。

まずは何と言ってもParadise Lost。この「ゴシックメタル」というジャンルは、Paradise Lostが1991年にリリースした『Gothic』というアルバムが語源とされています。

このバンドだけは、他のバンドと異なり、1ページに4枚の枠を使って詳細に解説しています。

ゴシックメタルの世界でも特に有名で影響力が強い名盤が勢ぞろい。

次のバンドはMy Dying Bride。Peaceville御三家のうちの一角を占めるバンドでデスドゥームの元祖とも言われます。

なんとその超大御所、My Dying Brideのインタビューに成功しました。

Peaceville御三家では最も世間的にブレークしたと言えるAnathema。元はゴシックメタルだったとあまり意識されていないぐらいかもしれません。

フィーメール・ゴシックメタルとしては頂点に立つThe Gathering。

なんとそんなビッグなThe Gatheringにもインタビュー。

各地域の大御所バンドの解説の後には、その地域に属するバンドで優れた音源をレビュー。

例えば右下のCelestial Seasonが1995年にリリースした『Solar Lovers』は知る人ぞ知る名盤です。

ゴシックメタルは全盛期が1990年代~2000年代初頭で、まだインターネットが十分普及していなかった為、当時どういったバンド、音源が人気があったのか分かりにくい部分があります。

本書がそのアーカイヴの役目を務めているのではないかと思います。

当時、ストリーミングで聴けなかったけど、今初めて聴いて、素晴らしいバンドが他にも沢山いたことが再発見できます。

スウェーデンの大御所Katatonia。DSBMにも多大な影響を及ぼしたと言われています。

90年代中期から一風変わったバンドとして知られていたTiamat。

そんなTiamatにもインタビュー。

もはやあまりゴシックメタルというふうには思われていないプログレッシヴのビッグネームOpeth。

アメリカなら一般人でも知っているほどのHIM。Evanescenceなどと共に各種チャートの上位にランクインし、もはやポップス、ロック歌謡曲並にオンエアされました。

『メロデスガイドブック 北欧編』にも登場するSentenced。中期以降はノーザンメランコリックを標榜し、ゴシックメタルにシフト。

「親日家」として、何度も来日しているHanging Gardenにはインタビューも。

ノルウェーはThe 3rd and the MortalやTheatre of Tragedyといった女性ヴォーカルを要する有名バンドが多いですが、その人達によるThe Sirensというオールスターバンド。

Funeralはフューネラドゥームというミステリアスなジャンルの第一人者なのに、インタビューに応じてくれました。

フィンランドはHIMを筆頭にTo/Die/For、Entwine、Lullacryといった日本では「ノリノリ系メランコリックゴシックメタル」と言われるバンド群が一斉を風靡しました。

それに関するコラム。編集者としては特にThe 69 Eyesがおすすめです。

非常に独特なオーラを放ち、ゴシックメタルというよりはダークウェーブ界でカリスマ扱いされているLacrimosa。中国でも異常に人気があるらしいです。

もはやゴシックメタルというよりはオルタナティヴロックに近いキャッチーなLacrimas Profundere。インタビューも掲載。

ポーランドは冷戦時代末期から独自のシーンを確立しており、怪しげなメロディを醸し出すゴシックメタルを育んできました。

あまり国外に知られることもなく、純粋培養されたバンド達が、後になってからゴシックメタルとして再評価。

Sirrahは日本でも有名ですが、Closterkeller、Atrosis、Moonlight、Batalion d’Amour、Delightなど沢山の魅力的なバンドがいます。

ポーランドの隣のチェコもSilent Stream of Godless Elegyというプログレッシヴ・フォーク・ゴシックメタルがおり、高い評価を得ています。

あまり日本では紹介されることのない、東欧のバンドを沢山紹介しています。

そして実は今はロシアによって侵略されているウクライナも元々ブラックメタル大国ですが、ゴシックメタルのシーンも厚いようです。

もちろんロシアのゴシックメタルにもきちんとフォーカス。ロシア文字で調べにくく、戦争が始まってからは更に分かりにくくなってきました。

ゴシックメタルの耽美的な世界観はスラヴ民族の文化と親和性があるのかもしれません。

本書で登場するバンドの中でも最も一般音楽リスナー層にまで知られているかもしれないLacuna Coil。

少なくとも『世界過激音楽』シリーズの中ではトップクラスのリスナー数で、ビルボードにも28位にランクイン。

もはやあまりメタルとは関係ないのではないかと思えるほど。

そんなLacuna Coilですが、メジャー紙に載るようなクラスなのに、この『ゴシックメタル・ガイドブック』のインタビューに応じてくれました。

もはやポルトガルのメタルというよりは、国を代表するミュージシャンといっても過言ではない存在。

そんなMoonspellもインタビュー。ここまで大御所揃いのインタビューが集まったのは『世界過激音楽』でも初めてです。

リスナー数を合計したら他のシリーズと比べても2桁、あるいは3桁の差があるぐらいかもしれません。

ギリシャは独特のブラックメタルシーンを発展させてきた事で知られていますが、それが徐々に分岐、枝分かれし、この手のジャンルでは先進国の一つ。

その中でも群を抜いて人気なのがSepticFlesh。

アメリカは全般的にゴシックメタル不毛国と言われています。しかしニューヨークにはType O Negativeというハードコアをルーツにする唯一無二のバンドがいました。

近年はアメリカでもダーク、メランコリックな世界観が発展してきており、Deathwhiteにもインタビュー。

そして本書の最後は日本。実はシンフォニック系、同人系、アニソン、そしてなんと言ってもヴィジュアル系の世界観、雰囲気、サウンドがゴシックメタルと絶妙にマッチ。

結果的に日本で独自に進化したようなジャパネスク・ゴシックメタルバンドも複数誕生しました。

最後は特にゴシックメタルとヴィジュアル系の関係性を掘り下げたコラムです。非常に読み応えがあります。

256ページもあるので、ここではごく一部しか紹介できませんでしたが、この様に盛りだくさんの内容。

奥付には類似・隣接ジャンル『ポストブラックメタル・ガイドブック』も紹介しています。

規模的にはメタルサブジャンル最大級というか、むしろもはやメタルとはあまり思われてすらいないゴシックメタル。

そんな巨大で、輪郭が曖昧、初心者には逆に全体像が掴みづらいゴシックメタル。

一方でローカルシーンでしか知られておらず、日本語で検索してもほとんど何も情報がヒットしないドマイナーバンドも各国に分散しているゴシックメタル。

そんな曖昧模糊で奥が深いゴシックメタルを包括的に解説した『ゴシックメタル・ガイドブック』。

発売以降、既に多くの方々から絶賛いただいています。このような本が出ることは世界的にもありえないと思うので、是非ご購入ください。