髙井ホアンさんによる『鬼畜米英漫画全集』が完成したので、中身を紹介します。
憧れていたのに急に悪魔化
無理と矛盾が発生し、一周回って笑える!
こちらが帯が付いた状態のカバーです。
帯を取り外した状態。いろんな表情で描かれたルーズベルト。
著者の髙井ホアンさんは、過去に弊社から『戦前不敬発言大全』と『戦前反戦発言大全』というロングセラーを出版されています。
袖にもその『戦前反戦発言大全』の広告が。
まえがきです。同じ文章がこちらから見られます。
目次です。全ての漫画のページ数を記載しました。
凡例や図の見方について。なるべく当時掲載されたものを忠実に再現しました。
漫画の上部に掲げられているアイコンでは掲載誌、掲載年月日、掲載号、掲載ページ数、描いた漫画家、ジャンル、反米あるいは反英かを明記しています。
そして時代ごとの編成になっており、ここからが第1章の「戦前 鬼畜の萌芽」です。
左は「サタンの見送り」というタイトルのもの。英国に向かう船団を見送るルーズベルトと閣僚たち。ルーズベルトには角が生え、閣僚たちは牙を覗かせています。
右は「最後の曲芸・姐御のあとをして」。当時の米英の力関係を揶揄しています。
「極東米人引揚げ」「効きめのないルーズベルトの錘」
本書では日本の漫画や日米英関係にまつわるコラムをたくさん用意しています。こちらは「戦前日米関係史」。
このコラムは「「鬼畜米英」の肖像」。アメリカ人が日本でどの様に描かれてきたのかの変遷を辿ったものです。
本書のカバーにも用いられているルーズベルト大統領。
右は「嘆きの自由の女神」。
「鬼畜米英」と言われたはものの、圧倒的に多いのはアメリカです。イギリスは脇役としての扱いが多いですが、左は「インドよ今こそ起ち上がる時だ!!」と題するもので、チャーチルが描かれています。
勢力図や地図が多く描かれていたのも特徴。こちらは「大東亜戦争戦果図」。
漫画に比べると技術的な制約があり、非常に限られていたみたいですが反米アニメを紹介した「鬼畜米英アニメの世界」。なんとアメリカのポパイやミッキーなどを転用したものが作られていたみたいです。
「シンガポール最後の日」
たまに英連邦傘下の国も出てきます。左上はオーストラリアを揶揄した「流石は羊毛国豪州兵」。
左下はインド独立を煽る「不要の鉄」。
また「敵機来の妄想に怯えるアメリカ」というタイトルでありながら、アメリカが経済的に反映していたことを認識しており、高層ビルが乱立した様子が描かれています。
チャーチルやジョンブルのイギリス人を揶揄した漫画。
流石にその後、漫画大国として発展する通り、非常にクォリティの高い漫画もあれば、お絵描きレベルの漫画もあったりと、千差万別。
欧米のカリカチュアに影響を受けたコミカルなものも多いのが皮肉です。
「鬼畜米英」と関連する漫画以外のコラムも用意しています。こちらは「鬼畜米英歌謡」。戦意を高揚させる為に、今となってはトンデモな内容の歌謡曲がたくさん作られていたみたいです。
戦争直前まで、米英の文化と親しんでいたので、やや無理が生じています。左は「季節はづれのサンタクロース」。
そしてABCD包囲網の中では最も存在感が希薄なオランダを扱った漫画もありました。
そもそも「鬼畜米英」というフレーズはいつ頃、どの様に使われ始めたのかを検証したコラム「「鬼畜米英」の由来」。
100年後も戦争が続いていることを想定したSFチックな漫画。
そして右ページは「鬼畜米英漫画掲載誌リスト」。
アメリカによる空襲を揶揄した「ルーズベルト「鬼はワシ、鬼はワシ!」」。
そして英米を野蛮人に見立てた漫画も。人種的差別撤廃提案を提出したのではなかったのか……?
戦後のロボットアニメに出てきそうな「科学戦士ニューヨークに出現す」。意外と近未来感あふれるSFチックな漫画が多いのも特徴です。
当時の新聞記事や雑誌から、今となっては奇妙に思える反米的な内容のものを紹介しています。こちらは「アメリカの癌 黒人問題の台頭」。
白人の支配から有色人種を解放するという建前ではなかったのでしょうか。
「鬼畜米英」というからには角が生え、鬼のように描かれたルーズベルトやチャーチル。
「鬼畜米英」と言っておきながらも、どことなく白人に対する憧れが払拭しきれていないような雰囲気がある漫画も多いです。
右はまるで『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランドのようです。
直前までアメリカのジャズや軽音楽を親しんでいたのに、それを捨てろと呼びかけた「敵米英の音盤」。
今となっては信じられないような発言の数々。
戦争も末期になると、新聞の発行にも余裕がなくなり、漫画も貧弱になっていきます。こちらは1945年のもの。
巻末には複数の資料を掲載しています。こちらは「鬼畜米英漫画家人名辞典」。
「鬼畜米英漫画年表」
「日米英関係史年表」
反対側の袖には『戦前不敬発言大全』の広告が。
さてここでは紹介できたのは『鬼畜米英漫画全集』のごくごく一部分です。
実際には480ページものボリュームで、460枚の漫画を掲載しています。
「鬼畜米英」漫画に特化した書籍はないと見られます。
戦前から親しみ、戦後も親しんだ米英・アングロサクソン文化。本当は好きでたまらないのに、無理して悪者の様に描いた漫画家たち。
「プロパガンダ大国日本が描いた・虚勢・痩せ我慢・負け惜しみ」が如実に伝わってきます。
大型書店やネット書店ではすでに販売が開始されています。是非お買い求め下さい。