知財関連の人気作家、友利昴さんによる『エセ著作権事件簿』が完成しました。出来上がったのは割と前なのですが、ブログで紹介したいと思います。

著作権の©マークがモチーフです。

©と?を掛け合わせたもので、「エセ著作権」を示唆したロゴです。エセ著作権のイメージを喚起させる代表的・象徴的なモチーフがないので、苦戦した部分です。

四六版のサイズなので分かりにくいかもしれませんが、相当分厚い大著です。544ページもあります。

制作している割と後半まで、特にビジュアル要素がないままで進めてきました。

味気無いので何かないかと思ったところ、友利さんがイラストレーター「ずるのバレンティノ」として描いたキャラクターを抜擢するという案が浮上。

結果的にとても暖かみのある雰囲気が出ました。本の至る所で登場し、癒やされます。

まえがきです。こちらで本の主旨が説明されています。弊社の書籍概要ページでも読めます。

目次です。これも書籍概要ページで確認できます。

さてここからが第1章です。扉ではずるのバレンティノのひよこが登場します。ここから本書の担当編集者が特に気になった事件を紹介していきます。

プールの底のミッキーマウス事件。よくディズニーは著作権にうるさいという話が聞かれますが、これは勝手に話が膨れ上がって、都市伝説化した様なもの。その切っ掛けの事件です。

「ディズニーは著作権に厳しい」という思い込みから、過剰な逆恨みに発展した『ライオン・キング』事件。

『寝床で読む「論語」』事件。単なる言葉の訳語を独占しようとした学者。その振る舞いも酷いのですが、そのクレーマーに屈して絶版にしてしまった出版社の判断も軽率。

筋違いの法的根拠に基づかないクレームに対して、出版社は毅然とした態度で著者を守る義務があるのに、そうでもない弱腰出版社が、他でも多く登場します。

『女くどき飯』事件。他の漫画家を「パクリ」呼ばわりして、実は自分も他の漫画家を「パク」っていたと思われてもおかしくない様な作品を沢山作っていた、ダブスタ・ブーメランが著しい漫画家の話。

「自分のことは棚に上げておいて」という人が、エセ著作権主張者にはかなり多いです。

いつ自分が「エセ著作権主張者」に転じるか分からない恐ろしさがあるのです。

エセ著作権主張者にはおかしな人が多いですが、特に奇矯な振る舞いでトップクラスなのが『中国塩政史の研究』事件。

恩賜賞・学士院賞を内定していた別の研究者の本が自身の盗作だと大騒ぎして、妨害。訴状を宮内庁長官にまで送付。かなり強烈です。

『エセ著作権事件簿』では自意識過剰過ぎるクリエーターも多く登場する印象です。ある有名漫画の映画化された作品を、マイナー自主制作映画の監督がパクリと告発。

「誰も知らないよ!」と呆れかえるも、本人は盗作されたと思い込んでいるところが恐ろしいですね。こういった現象を「パクられ妄想」と呼んでいます。

第三者から見ると自己愛が強く、冷静には思えませんが、クリエーターなら誰しも自身の作品に思い入れがあるはず。同じ様な事にならない様に気をつけなければいけません。

海外の例も複数取り扱っています。『華氏911』事件はドキュメンタリー映画『華氏911』(Fahrenheit 9/11)が『華氏4 5 1 度』(Fahrenheit 451)を勝手に捩ったと大騒ぎした事件。

単なる温度を表す言葉を独占できると思い違いした挙げ句に、実は元々この様な表現は既にほかでも沢山なされていたというオチ。

世間的には無名ですが、かなりトンデモな『アウターガンダム資料集』事件。同人誌が国会図書館に所蔵されたことを「営業妨害」「公表権の侵害」「著作者人格権の侵害」「創作のプライバシーの侵害行為」と、法的にあり得ない過剰権利主張を連発。超独自の謎理論で屁理屈を開陳。逆に面白いです。

割と一般人の間でも発生しそうな危険な事件だと思ったのが北岡悟丼事件。全然似ていないのに、クックパッドで投稿されていたレシピを勝手に真似してYouTubeにアップしたと、有名ユーチューバーに抗議。

そんな筋違いの訴えなんか無視するか、逆抗議すればいいのに、安易に屈服・謝罪してしまうユーチューバー。こういう風にすぐにエセ著作権を主張するクレーマーに屈するから、ますます世の中の著作権に対する誤った認識が広がってしまいます。こういう時は徹底抗戦するべき。

何かを制作する上でのプロセスにまで著作権が発生していると、あり得ない主張で他のユーチューバー達を通報しまくった迷惑者が引き起こした編み物ユーチューバー事件。

ここまで酷いのは滅多にないと思いますが、勝手に自分に権利があると思い込みすぎている人は結構います。

したり顔でエセ著作権を主張するので、要注意。

『エセ著作権事件簿』では沢山のコラムを掲載しています。例えば「エセ著作権者を逆に名誉毀損で訴えたらどうなる?」

詳細は本を読んで頂ければと思いますが、エセ著作権主張者を逆に訴えて、勝って損害賠償すら認められている人もいます。

おかしなクレームを受けたら逆に反撃するのも大事です。

その点で情けなかったのが左手にサイコガンを持つポプ子事件。パロディストなのに、有名漫画家からの筋違いの抗議に対して、あっさり屈服。

パロディストなら筋を通して欲しかったところ。しかも相手の主張が全く法的根拠薄弱。

本書『エセ著作権事件簿』の編集者で発行人が携わった『完全自殺マニア』という本が、太田出版から訴えられた『完全自殺マニア』事件。

『完全自殺マニア』という本のパロディカバーが、『完全自殺マニュアル』の著作権侵害だと訴えられたものの、裁判所からその訴えが全否定されました。

非常に面白いのが、訴えてきた太田出版自体が、過去に同レベルのパロディを沢山やっていたという巨大ブーメランが返ってきたことです。

裁判ではそれらも証拠として提出し、裁判官も苦笑い。

自分は散々、人のパロディをやっておいて、自分がやられるのは許せないというのは、困ったものです。

そもそも証拠として提示されるまで、自社のパロディ作品をあまり深く認識していなかったとさえ思われます。

エセ著作権主張者は自らを省みる、第三者的視点で自分を見つめ直すという事が苦手。

実はこの事件が発生した頃に、友利さんと編集者の私が知り合いになり、『エセ著作権事件簿』の切っ掛けにもなっている訳で、今となっては感謝しなければいけないかもしれません。

なんと『エセ著作権事件簿』の編集者兼発行人は、この本で2回もエセ著作権事件の被害者として登場します。

この『どえらいモン大図鑑』事件は、昨年2021年に弊社パブリブが刊行した『どえらいモン大図鑑』が『ドラえもん』の著作権を侵害しているとして、小学館から廃棄を要求する警告書が送られてきた事件です。

『エセ著作権事件簿』を出版する予定だった出版社が、まさにエセ著作権で訴えられそうになり、それに対して『エセ著作権事件簿』の著者の友利さんがどの様に反撃するべきと発行人に説明したか、その助言の論旨が詳しく紹介されています。

まさに『エセ著作権事件簿』の出版社と著者が「エセ著作権事件」を実体験した訳で、非常に説得力があります。

『ドラえもん』や藤子不二雄自体がパロディの愛好家だった事がよく分かる例。

詳細は本書に譲りますが、逆にその後、こちらから小学館法務部に対して厳重に抗議しました。

そして全く音沙汰が全くなくなるという拍子抜けの事件でした。あれは一体何だったのでしょうか?

大手出版社に対しては過剰に恐れ、忖度している人が多いですが、単なるハッタリ・虚構だという事が分かる一例です。

何の遠慮も必要ありません。エセ著作権主張者の不当な訴えに対しては、堂々と反撃、逆抗議するべきです。

『エセ著作権事件簿』は全ての事件が荒唐無稽でトンデモという訳ではなく、中には確かに「似ている」と思わなくもない事件もあります。

別の作品を真似した事をその作者に正直に打ち明け、裁判所も「似ている」と思いながらも、結局、著作権侵害は否定された『マンション読本』事件。

訴えたほうが容赦なく高額を請求したという点では、酷い事件ではありますが。

「ネット上でパクリ疑惑が寄せられたらどう対応すべきか」コラム。SNS社会で全ての人が、エセ著作権で訴えられかねない現在。

もし自分の身にそれが起きたらどう対処するべきかが解説されています。

『やっぱりブスが好き』事件は事件名がインパクトがありますが、出版社の編集者としても勇気づけられる事件です。

印刷所への入校日まで雲隠れして、連絡が付かなくなり、仕方がないので編集部が訂正せざるを得なくなった事に対して、著作権侵害で訴え、「権利の濫用」として退けられた事件。

ネットで度々話題になるバカワード「無断引用禁止」というフレーズ。著作権の事なんか何も分かっていない証拠として、このフレーズが目安になります。

バカだと思われるので、この言い回しは絶対にしない方がいいでしょう。

歴史書や人文書の編集も携わる身として、度々悩まされたのが、著者の勝手な思い込みによる、自主検閲。

歴史上の資料や絵画、画像などで著作権が切れているものは基本的にそのまま使えます。「錦絵コレクション事件」はそれに関係する解説。

沢山資料を持っているにも関わらず、本では載せられないと勝手に思い込んだり、著作権上色々と問題があると過剰に怯えている人がたまにいます。

事前に相談されたならまだ説得のしようがありますが、最初から所有していることを言ってこないと、本に載せても全く問題ない貴重な資料が永久に封印され、それを本人以外全く知らないという恐ろしい事態を引き起こしかねません。

その度に説明してきましたが、もう面倒くさいので今後はこの『エセ著作権事件簿』を必ず事前に読んでもらう事にします。

他者の出版社の編集者でも度々、著者の画像掲載などに関する頓珍漢な質問を受けてきた人が多いと思いますが、この『エセ著作権事件簿』を読んでみてもらえればいいのではないかと思います。

国でも政府でもなんでもないのに、勝手にでっち上げたマイルールを著作権法の様に他人に強要するケースも多発。

平等院鳳凰堂パズル事件はそんな一例。「何勝手にルール作ってるの?」とイラつく度合いは本書でもマックス。

「エセ著作権の警告書が届いたらどう対応すべきか」コラム。

『エセ著作権事件簿』の編集者兼発行人は、編集キャリア上で4回もこの手の警告書を受け取った事があり、編集者の中でもかなり多い方かもしれません。

「エセ著作権」の警告書が届いたら、まずは冷静に受け止め、自分に落ち度がないなら、徹底的に反撃することを強くお勧めします。

絶対に安易に屈さないで下さい。その行為がエセ著作権者を更にのさばらせます。

ただし反撃するには理論武装が必要です。その為にも『エセ著作権事件簿』は必読。

エセ著作権者から訴えられても、すぐには動じない、安易に要求に応じない、非を認めない事が何よりも大事。

それにも関わらずすぐに屈服して、作家や著者の言い分も聞かず、守らず、責任を放棄する出版社が後を絶ちません。

合法トレースなのに連載中止に追い込み、作家を守らなかった『SWITCH』事件。とても情けないです。

昨今トレパク冤罪が頻出し、非常に問題になっていますが、特に最大級の冤罪事件が『エデンの花』事件。

「似ている」=「著作権侵害」ではないのに、間違い探しのゲームの様に、あら捜しするネットユーザーが多く、またそれにすぐにビビる出版社。

逆に安易なトレパク認定は名誉毀損に繋がりかねません。面白半分でクリエーターや漫画家をトレパク呼ばわりするのは止めるべきです。

逆にあろうことかメディアやマスコミが「エセ著作権」で過剰権利主張している事もあります。由々しき問題です。

将棋の譜の動きにまで著作権を主張、挙げ句にユーチューバーに対して警告までする始末の棋譜配信事件。

さてここで紹介する最後のエセ著作権は、史上最大のエセ著作権事件、東京五輪エンブレム事件です。

専門家が一様に疑惑否定。しかし一般人、世論の反応は真逆で、ここで危機意識や絶望感を抱いた知財専門家だけでなく、デザイナーやクリエーターも多かったのではないでしょうか。

今では時間が経過して冷静に騒動を振り返る事ができるのではないかと思います。

さてこの『エセ著作権事件簿』は71事件も収録しており、ここで紹介したのはごくごく一部です。

本では当事者の人間関係や背景などにも迫っており、その文体もユーモラスで、読み物としても楽しめると評判です。

実際にゲラを読んでいて、何度も失笑・苦笑・爆笑しました。作家としても活躍されている友利さんの文章力が発揮されています。

世の中で出ている法律書でも、ここまで笑える本はそうそう無いと思います。

また過激過ぎて、逆に心配になるぐらいの表現もあるぐらいです。

役割が違うので批判する意図は全くありませんが、多くの著作権本が専門家以外には分かりにくい、無味乾燥な事実と判例分析で成り立っており、一般人が読み物として楽しめるものはなかなかないと思います。

またその多くが「あれはダメ、これはダメ」と不必要に脅し、結果的にクリエーターの自由な発想、多様な表現を抑圧しかねない主旨のものが多かった様に見受けられます。

『エセ著作権事件簿』は逆です。

「「著作権侵害に当たる」という指摘自体が間違っている」という事例を集め、それを一般人にも分かりやすく、そして面白く伝えることを意図しています。

しかし巻末にはきちんと資料集としての役目も果たせるように、参考文献や出典を記載した注も詳細に載せています。

クリエーターや出版関係者だけでなく、法曹界、アカデミアの読者にもお役に立てられるはず。

『エセ著作権事件簿』で取り上げられている抱腹絶倒のエピソード『どえらいモン大図鑑』も是非一緒に読んでみて下さい。

なお友利さんは以前に作品社から『オリンピックVS便乗商法』という本も出しています。

オリンピック委員会のエセ著作権ぶりにフォーカスしたもので、エセ著作権としては最悪なケース。エセ著作権を深掘りしたい人にはお薦めです。

ところで『エセ著作権事件簿』は正式発売日は7月11日で、そこから2週間経った今日現在(7月25日)までAmazonではずっと在庫切れが続いてしまっています。

初回搬入分が予約だけで売り切れてしまい、補充も追いついていない様です。

かなり薄くなってきている様ですが、楽天ブックスやhontoなど、他のネット書店では在庫はあることにはあります。

ただ大型書店ではまだかなり平積みで置いてあります。

ジュンク堂池袋や丸善日本橋、ブックファースト新宿等では多く置いてあるとのレポートが寄せられています

お急ぎの方は是非大型書店を覗いてみて下さい。

また初回搬入で取り寄せそびれた書店の皆様も、売れ行き良好書なのでこの記事を見たら、是非発注をお願いします。