水科哲哉さんによる『デスメタルコリア 韓国メタル大全』が完成しました。『世界過激音楽』のVol.8です。
関連する企画として『デスメタルアフリカ』『デスメタルインドネシア』『ヒップホップコリア』、そして韓国絡みでいうと『韓国アニメ大全』があります。
2000年代に入ってからK-POP、2010年代頃からヒップホップが席巻するようになり、韓国のメタルは存在感が薄くなりましたが、むしろ80~90年代は韓国はメタルが盛んと言われていました。
この間、メインストリームの音楽が世界的な人気を博す中、韓国のメタルはレベルが下がった訳ではなく、むしろ着実にレベルアップしてきたと言えます。ポップスやヒップホップがこの様な事にならなければ、韓国はメタル強国として知られていたでしょう。あくまでも他ジャンルとの相対評価で、目立たなくなってきてしまっただけで、韓国はかなりメタルが盛んな国と言えると思います。
帯を取り外した所。カバーの真ん中を飾るのは韓国メタル界を代表するCrash、アン・フンチャン氏。
今回の企画でも、インターネットで視聴できるSNSをロゴで載せるなど、親切な作り。
韓国のメタルを知る上で必要知識となる用語を解説。地域間対立や歴代の大統領の略歴も。
韓国のメタルを語る上でSinaweは外せません。
超大御所Sinaweのシン・デチョル氏が直々にインタビューに回答。日本で同格のミュージシャンが『世界過激音楽』のインタビューに答えてくれるとは思えないほどの超大物。
同じくミュージシャンであった父やソ・テジ在籍時の写真も。
コリアンメタルでは同じく知名度の高いBaekdoosan(白頭山)。
ちょっと異色のキャラクターなのですが、統一教会の創始者の文鮮明の息子、文孝進(Moon Hyo Jin)も様式美ヘヴィメタルミュージシャンでした。
さて今まではアーティスト主体の紹介ページでしたが、音源レビューの基本的なレイアウトはこの様な感じです。
そもそも韓国のメタルをどうやって聴いたらいいのか、分からない人の為の解説ページも設けています。今の時代、Apple MusicやSpotifyでもかなり聴ける様になってきていますが、韓国独自のストリーミングサービスで聴く方法までも解説。
初期コリアンメタルの大御所がSinaweだとしたら、中期はN.EX.Tと言っていいでしょう。故シン・ヘチョルやキム・セファンが在籍。
そのカリスマであるキム・セファンのインタビューにも成功しています。実に1万8000字という超ロングインタビュー。
平昌(ピョンチャン)オリンピックで演奏し、世界的にも韓国を代表するミュージシャンと目されているJambinaiにもインタビュー。コリアンメタルの範疇には収まらない、相当個性的なスタイルです。
もしかしたら日本のメタル界にとって実はもっとも人間的交流が盛んなのは欧米ではなく、韓国かもしれません。欧米のバンドだと来日したとしても大御所が多く、前座で出たり、ファンとして記念撮影に応じてもらったりする機会があっても、一緒に飲んだり、親睦を深めるという関係性に至るまでのハードルは高いでしょう。一方、韓国はというと隣国であり、見た目も似ており、アンダーグラウンドシーンでは双方で相当の行き来が盛ん。韓国のメタルバンドと信頼関係を構築し、深い人間的付き合いをしている日本のメタル関係者を何人も知っています。そんな韓国メタラーと話す時に役立つ、メタル韓国語講座。
メタルの共通語は英語ですが、実は日本と韓国で発音の違いがかなりあり、同じ言葉を言っていたとしても、意思疎通が困難をきたすことがあります。
例えば「ポクメタル」は「フォークメタル」、「スレシメタル」は「スラッシュメタル」などと発音が微妙に違います。その対照表を用意。これで誤解が減りますね。
さて韓国のデスメタル、スラッシュメタルを代表するバンドが誰かと言えば、ほとんどの人がCrashというのではないでしょうか。韓国ではもはや文化人、芸能人と思われているアン・フンチャン氏の理知的なインタビューも掲載。
Methodもモダンスラッシュとして有名。
実際の所、ブルータルデスメタルというジャンルに限っては韓国は弱かったですが、突如として現れたFecundationがそのイメージを覆しました。彼らのインタビューはブルータルデスメタルマニアのハマザキカクがインタビュー。
モダン、ミクスチャー、ニューメタル系ではソ・テジがいちばん有名ですね。
ミクスチャー系では冒頭のインタビューに登場したキム・セファンが在籍していたNovasonicも知られています。
韓国のメタル専門誌Paranoidの編集長へインタビュー。
韓国海軍海兵隊OBで、かなり強烈なナショナリストによるペイガンブラックTaekury。日本の武士道や忍者をリスペクトしつつも、日本に対する忌憚なき意見を開陳。
先日来日したばかりのシンフォニックブラックDark Mirror ov Tragedy。編集者個人の感想ですが、韓国エクストリームメタルの中で、楽曲の複雑さや演奏のクォリティでトップクラスに位置するバンドだと見ています。言われなければフランスとかイタリア辺り出身のバンドと思うほど。
Ethereal Sin、そしてEvoken de Valhall Productionでメタル界を盛り上げるYama Darkblaze氏のインタビュー。元々は韓国に対してあまり良いイメージを持っていなかったらしいのですが、上記Dark Mirror ov Tragedyとの交流でそれまでの考えの一部を変えたらしいことがインタビューで分かります。
韓国には意外と外国人がバンドを組んでいる事が多いのですが、こちらはウクライナ人が在籍しているDreamy Europaというポストブラック。
中高生御用達の楽器メーカーSamickにもインタビューという、かなり冒険的な試み。表舞台に出てくることがなく、恐らく日本初インタビューです。
韓国の新世代メタルとしてはDiabloを知っている人も多いのではないでしょうか。横浜アリーナで開催されたBeast Feastにも出演経験があります。
『デスメタルコリア』と銘打っていますが、ハードコアやパンクもできるだけ紹介しています。Vasslineというメタルコア。「という」と言わなくても知っている人は多いほど日本での人気も抜群。
個人的に興味を持ったのがニューライト思想を標榜するSamchung。韓国人の若者、ましてやミュージシャンとなると全員朴槿恵反対デモに参加し、反日で……というイメージが強い中、日本に対する敵愾心を一切表さず、むしろ北朝鮮や共産主義に対する強烈な反発意識を見せ、そして左翼の街頭民主主義に異を唱え、法治主義の重要性を謳うという極めてレアに見えるスタンス。RAC(Rock Against Communism)のスタイルからこうなってしまったかもしれませんが、逆に随分その理知的・紳士的な態度が際立ちます。インタビューに応じてもらっているのですが、もっと踏み込んで話してみたいと思う内容でした。
メンバーがKAISTというエリート校出身者で構成されるNoeazy、そして日本でも大人気のRemnants of the Fallenというメロデス/メタルコア。雰囲気がかなりイケてます。
韓国のメタルというと少しダサいとか遅れてるというイメージを持っている人もいるかもしれませんが、彼らを見るとその偏見が払拭されます。
韓国が民主化され、日本文化が解禁されたのはそう遠い昔ではありません。検閲とメタルに関するコラム。アルバムの中で「健全歌謡」を収録しないといけなかった事もあるという衝撃的な話。
日本文化が解禁されてからヴィジュアル系も流行り、韓国初のヴィジュアル系として人気を博したEve。
韓国人男性と日本人男性の決定的な差、それは徴兵制があるかどうかではないでしょうか? バンド活動にも大きな影響を与えます。そのコラム。
韓国のメタルは今でこそ、日本と比べて見劣りしないバンドも沢山輩出してきていますが、国の事情から進化の過程にタイムラグがあったのは事実。
その目安となる、欧米メタルバンドの韓国公演歴、日本メタルバンドの韓国公演歴、そして韓国のメタルバンドの海外公演歴の年表を掲載。
どんどん発展してきているのが分かり、韓国にも存在しない貴重な歴史的資料といってもいいでしょう。この後の事もネットで継続して集めて欲しいぐらいです。
韓国は音楽フェスが盛んになってきています。近隣の為、日本のバンドが出演することも増えてきました。そこで韓国のメタルフェス一覧も。
という訳で一冊の本のブログ紹介記事としては異例の長さになってしまいました。何しろ384ページもあり、60万字越えているのです。
ちょうど本日、8月10日が発売日で、ネット書店や大型書店、レコードショップでの販売も開始です。是非これを機に買ってみて下さい。