稲田義智さんによる『絶対に解けない受験世界史4』が完成しました。中身を詳しく紹介していきたいと思います。

『大学入試問題問題』シリーズで、とうとう4巻目まで到達しました。副題は『悪問・難問・鬼門・出題ミス集』です。

他の科目で出題ミスを集めている人をいつも募集しているのですが、結局今に至るまで「世界史」だけしか出来ておりません。

我こそはと思う方はぜひ弊社までご連絡下さい。

さて『絶対に解けない受験世界史3』が出たのは2021年8月なので、3年ぶりです。

この間にコロナだけでなく、ロシアによるウクライナ侵略、そして円安・インフレなど世界は激動に見舞われています。

帯を着脱した状態。

入試の状況も変わり、センター試験が廃止され、大学入学共通テストに置き換わりました。

学校推薦・総合型選抜の増加で、一般入試も縮小してきております。

それが影響してか、大学の高校科目入試を制作する能力が大幅に低下してきている様に見えます。

出題ミスを顕在化させた本シリーズの影響もあって、一時期は減少傾向にあり、シリーズ継続が危ぶまれましたが、どうやら杞憂だったようです。

3年で1冊の本になるほど出題ミスや悪問が発生していました。

さてここでは本書の中身を紹介していきたいと思います。

こちらが序文。ほぼ毎回同様の文章を掲載していますが、こちらでも見られます。

出題ミスは受験生の人生のその後に大きな悪影響を与えるので、極力撲滅するべきという宣言。

もちろん人間の行為なので、ミスは避けられませんが、明らかに手抜き、ずさん、いい加減、独りよがりといった問題も多く、減らす努力を怠っている大学も多いようです。

ここからが第1章。悪問で悪名高かった上智なくなり、早慶・国公立。

社会人だったら自然に知っている近年の出来事も受験生にとっては歴史。

ここ数年、最大の歴史的事件はロシアによるウクライナ侵略であることは疑いようがありませんが、「2004年のオレンジ革命」について答えさせる問題。

一般常識とさえ思えますが、発生したのが20年前なので受験生はまだ生まれていませんね。

一橋大学は、ヨーロッパとアジアの近現代史しか出さないことが暗黙の了解でした。

しかしいきなり南部アフリカの問題を出題するという、不意打ち。多くの受験生が戸惑ったようです。

一方、南部アフリカの歴史は、帝国主義国の植民地主義の流れであり、西洋史の延長線上でそこまで今までの流れから逸脱していないのではないかという指摘も。

毎度お楽しみの「世界史用語の変化&高校世界史に見られる誤謬」コラム。

南ア戦争時のケープ植民地の首相:セシル=ローズではない」などよくある誤解、勘違いや歴史学の発展で、変わっていった概念や用語などを解説しています。

著者の稲田さんが「2022年のクソ問オブザイヤー有力候補」と見なす問題。誤答の選択肢が、出題者の趣味丸出しで、パレスチナのバンド名や南インドの伝統舞踊を挙げたりと、公私混同が著しいです。

「オスマン=トルコ」は歴史学では使われなくなっていますが、同様に不適切表現ということが定着している「李氏朝鮮」をそのまんま表記している問題。

「歴史のif」を答えさせる問題。そして出題者が「日中が大アジア主義の下で団結したというような可能性を書いてほしい」のが見え見えの、政治的偏りが見え隠れする問題で、非常に問題です。たまに架空戦記の様な出題を課す大学が出てきますが、入試問題として、非常に不適切に思えます。

原稿を読んでいて、強い苛立ちを覚えたのが、『ジョジョの奇妙な冒険』という漫画についてリード文で長々と語った問題。

しかも結局、そのリード文は設問とは全く無関係だったのです。限られた試験時間中、出題者の個人趣味を読まされた受験生は非常に腹がたったことでしょう。

別に漫画を使って受験生に媚びる必要はないと思いますが、これはうまくやっている事例。

毎年恒例の神戸学院大の漫画引用問題は『アルテ』だったようです。

2番目のコラムは「話題になった他科目の出題ミス・難問」。

これは覚えている人も多いと思いますが、「2018年・センター試験 地理B」で、ムーミンの舞台がフィンランド、小さなバイキング・ビッケの舞台がノルウェーと決めつけてしまった問題です。

両者とも一般的な感覚ではそう思ってしまうかもしれませんが、そうとは確実には言えないので、北欧史研究者たちが声明を発表したりして、騒動化しました。

恥ずかしいのがこれ。本来「ミズラヒム」とするべきところを「ミズヒラム」と誤字してしまっています。しかも範囲外の用語。

著者いわく「範囲外から出題して盛大に誤植するというクソダサ行為」。

著者の稲田さんもよく見てるね、と感心したのがクーデンホーフ=カレルギーが思い描いた「パン=ヨーロッパ」地図の中にサンクト=ペテルブルクやイングリアが含まれてしまっているという指摘。

作図者が単に適当だったのではという説も。

著者の稲田さんの鋭い分析が読み応えがあり、定評の本シリーズ。キリンが永楽帝に献上された問題の問題について、極めてスリリングに、論理的に追及しています。

一見良問に見えるかもしれませんが、非常に問題です。なんで問題なのか解説を読んでいて、膝を打ちました。

こういった推理小説を読むかの様な、謎解きが本シリーズの醍醐味の一つでもあり、受験生だけでなく、全世代世界史ファンにも面白がられています。

こちらもまた「歴史にif」を答えさせる問題。「朝鮮半島が再統一していた可能性について言及しそうな雰囲気」がありありで、誘導的・恣意的です。

架空戦記や歴史小説では良いかもしれませんが、公平を期すべき入試問題として、どうなんでしょうか?

コラム3は『「センター試験」を振り返る』を振り返る」。

コラム4は「コロナ禍における2021年度大学入学共通テスト騒動の記録」。現場は大混乱だったのがよく分かります。

コラム5「新科目「歴史総合」が誕生するまで」。

「歴史総合」が誕生するまでに歴史的背景や経緯について詳しく説明されています。分からなくもない部分もありますが、危惧せざるを得ない面も多々ありですね。

と、本書『絶対に解けない受験世界史4』から、担当編集者が気になった問題を幾つかピックアップして紹介しました。

関心領域が近現代史に偏ってしまいましたが、他にも古代・中世でも面白い出題ミスが沢山載っています。

このシリーズもとうとう4巻まで到達しました。一巻は完全に在庫切れで、今はプレミア価格が付いてしまっています。

第2巻もほぼ在庫切れで、入手困難になりつつあります。本の性質上、複数年度別で編成されており、刊行から数年以上経ってからの重版はしにくいので、今回の『絶対に解けない受験世界史4』や『絶対に解けない受験世界史3』も、手に入るうちに早めに確保されるのを強くお勧めします。

大型書店やネット書店では既に販売が開始されています。

このシリーズのメイン購買層は大学の入試関係者、予備校や塾の講師ですが、受験生にも余裕があるならお勧めします。

試験最中に「出題ミス」と出くわす危険性がこれだけあるという事が分かれば、その問題で時間を浪費せず、さっさと次の問題に取り掛かったほうが良いという事が分かります。

また歴史書の編集者にもお勧めです。このシリーズを編集する様になってから、他社の歴史書の事実誤認や間違い、誤表記を、非常に敏感に察知する能力が身についてしまいました。

著者の間違いを検出する能力も飛躍的にアップします。また世の中、間違いだらけの本がたくさん出ているという事が理解できるようになります。

逆に言うと粗探しする癖がついてしまい、どんな本も素直に楽しめなくなるという弊害はありますが。