水科哲哉さんによる『デスメタルインディア』が完成したので、中身を紹介します。副題は『スリランカ・ネパール・パキスタン・バングラデシュ・ブータン・モルディヴ』で、南アジア全体のメタルバンドを紹介しています。
インド人もびっくりの『デスメタルインディア』。実際、水科さんには多くのインド人からFacebookでフレンドリクエストが来ている様です。
『世界過激音楽』シリーズの中の、サブジャンル系ガイドブックではなく、辺境・地域系の『デスメタル~』シリーズもこれで5冊。
2015年に登場した『デスメタルアフリカ』を皮切りに、2016年『デスメタルインドネシア』、2018年『デスメタルコリア』、2020年『デスメタルチャイナ』、そしていよいよ2023年に『デスメタルインディア』へと到達しました。
決してメタルが盛んとは言えないどころか(インドネシア以外)、ほとんど現地でしか知られていないバンドまで、隅から隅へと網羅的に集めた、採算度外視の無謀極まりないシリーズもようやくここまで辿り着きました。
もはやなんでここまでムキになっているのかも分からないぐらいの徹底した探究心と執着心。
一般的なメタル愛好家やインドファンからしても、戸惑うような異質な掛け合わせ。
未だに読者層がどれだけ存在するのかもよく分からない未知の領域を発掘し続けているわけですが、まだ世界にはやり残している地域があるので、シリーズ継続の為にも辺境メタルファンは買い支えて頂ければ大変ありがたいです。
さて最初からオチみたいな話になってしまいましたが、こちらは帯を取り外した状態で、各国の代表的なメタルバンドマンを載せています。
後で詳しく述べますが、実は帯で「言われなければアメリカ人のバンドと思うほど」「意図せざるフォークメタル」という2つの要素を入れれば良かったなと後になって気が付きました。
そういうところにも魅力があります。
水科さんは弊社から2018年に『デスメタルコリア』という、韓国のメタルバンドを網羅的に紹介した本も出されています。
まえがき。
目次。こちらで見られます。
南アジア全体の地図
用語解説
各国統計
やっと第1章のインド
インドのトップバッターは、なんと言ってもBloodywood。ラップを交えたフォークメタルとして、大ブレーク。
6月には来日もアナウンスされました。非常にタイミングが良いですね。
Bloodywoodにはインタビューもしています。
お次はアメリカ人ヴォーカルが在籍するDjent風モダンメタルSkyharbor。『Djentガイドブック』でも大きく取り上げたバンドです。
アメリカ人のヴォーカルEric Emeryにインタビューしました。インド人メンバーとやっていくことについて、アメリカ人からの視点で語ってもらっています。
日本ではまだまだ無名なUndying Inc.。複雑な楽曲のプログレッシヴ・メタルコアで、元SikThのメンバーがエンジニアリングがプロデュース。とてもオススメです。
各国・各地域別の章立てになっており、章末にはバンド単位で大きく取り上げなかったレビューを載せています。
EPやシングル、スプリット、デモなどまで取り上げるほどの網羅ぶりです。ちょっと集めすぎたのではないかと思うほど。
インド東部の章ではウォー・ブラックメタルとして、ゴキブリ、コロナ、原爆ジャケットなどで世界的に知名度を誇るKapala。
彼らにもインタビューしていて、天邪鬼ぶりが分かります。
随所で半ページのミニコラムや、面白いミュージックビデオを紹介。
インドでなぜ近年Djent、プログレッシヴ・メタルが流行ってきているかの分析。
幻の国だったシッキムでヴィジュアル系として活動するネパール民族のArogya。日本のヴィジュアル系にも影響を受けている稀有な例。
ナガランドというだいぶ辺鄙な場所で、世界レベルのスラミング・ブルータルデスメタルを追求するSyphilectomy。まるでインドネシア出身かと思う程で、同国シーンとの関わりも大きいバンドです。
既に日本ではメタル有識者から大変人気のGirish and the Chronicles。言われなければ、ロサンジェルス出身かと思うほどの完璧な英語で歌唱する、正統派ヘヴィーメタル。
インド人はインド訛りがキツくて有名ですが、音楽になると払拭されるのか、アメリカ人と区別がつかないほど流暢な英語で歌うので、欧米のバンドにしか興味がなかった人たちは騙されたと思って聴いてみてください。
本書のカバーの真ん中を飾る、インドのメタル界を代表するバンドといえばムンバイのシンフォニック・ブラックメタルDemonic Resurrection。
だいぶ前から欧米のレーベルに所属し、世界各地でライヴしています。インドに数多いるブラックメタルの中でもやはり、ずば抜けてメロディセンスが優れており、世界的人気を博しているのも納得。
Demonic ResurrectionのリーダーでSahil Makhijaのソロ・プロジェクトDemonstealer。彼は他にも色んなバンドをやっており、YouTubeでも有名な『Headbanger’s Kitchen』を主催しており、インドメタルを代表する名士。
当然インタビューもしているのですが、お喋りなのかだいぶ長いです(笑)
あと十代後半の頃の若かりし日の写真を提供してもらったのですが、なんだか今と較べて、ぽっちゃりとした坊やなのにも驚きです。
右はターバン姿のシーク教徒が率いるGutslit。来日経験もあります。見た目とは裏腹に、かなりまともなブルータルデスメタル。インタビューも掲載。
もはや世界的なデスメタルレーベルとなったTranscending Obscurity RecordsのオーナーのKunal Choksi氏のインタビュー。
インドのメタルは盛り上がってきているとは言っても、まだ日本でその音源が買える場所は限られています。
弊社から『デスメタルインディア』を出されている『デスメタルインドネシア』の小笠原さんが運営する『Asian Rock Rising』などを紹介。
Wackenにも出場した、インドでも特に世界的名声を得ているKryptos。非常に分かりやすい正統派メタルを奏でています。インタビューあり。
インドと言えばカースト制度が悪名高いですが、Willuwandiは不可触民のメンバーによるブラックメタル。
ヒンドゥー至上主義に対するアンチの意見を表明しており、インタビューでは非常に独特な回答を寄せてくれました。
インド南部のカルナータカ音楽とメタルの関係性についてのコラム。
そしてやっとスリランカ。インドまでほぼ200ページに到達しているので、本当に膨大な量です。
スリランカは既に一部のメタル有識者から、アンダーグラウンド・ウォーベスチャル・ブラックメタルシーンが異様に発展しているのが知られていました。
Dhishtiは音楽的には割と普通のDSBMなのですが、コープスペイントをしている上に、ドラマーがヒップホップのビデオクリップに參加して、解雇されてしまったとの事です。
Genocide Shrinesは弊社の『ウォー・ベスチャル・ブラックメタル・ガイドブック』でも登場する、ウォー・ブラックメタル。
辺境にありがちの「なりたかったけどなれなかった」感は一切なく、正真正銘のウォー・ブラックメタル。
Undersideはネパールを代表するメタルコアで、Download Festivalにも参加経験があり、世界各国でツアーしています。
『Metal Hammer』のファン投票では、BABYMETALと首位を争ったほどだそうです。
ボランティアにも熱心で、彼らの活動を紹介したコラムもあります。
『東欧ブラックメタルガイドブック』でも紹介したチェコのCult of Fireなど、聖典ヴェーダをテーマにしたヴェーディック・メタルが世界的に勃興しつつあります。
大学の准教授が率いるデス・ドゥームメタルDusk。パキスタンはこのバンドに影響を受けたドゥーム系のバンドがかなり多いようです。
南アジア一帯でメタルをやれるのは、実は生活に余裕がある金持ち・エリート層。普段の昼の顔は世界的に有名な企業に勤めていたり、研究者だったりするメタラーが多いので、そういった人々を紹介したコラム。
そしてバングラデシュ……。
こちらのWarfazeは同国最古参のメタルバンドで、ドラマーにインタビューしています。
実はバングラデシュは編集作業をしている間は、その魅力にあまり気がついておりませんでした。
特に突出して知名度があるバンドがいるわけでもありませんし、一見独特のお国柄を象徴するサウンドが築かれている訳でもありません。
こう言ってはなんですが、途上国にありがちな、Machine HeadやSlipknotの成り損ないみたいなバンドしかいないなという印象が強かったのです。
しかし入校後に徐々に、「意図せざるフォークメタル」みたいなパワーメタル、ヘヴィーメタルが多いことに気が付きました。
StentorianやVibeなど、どことなくバングラデシュの民謡臭さを感じさせ、結果的に偶然フォークメタルに接近した様なバンドが多く、癖になるメロディが豊富です。
さてバングラデシュやインドのツアー経験がある、日本のブラック・スラッシュメタルAbigailのJeroさんにインタビューしました。
直面したトラブルやライヴ会場、移動の様子などについて詳細に教えてもらいました。辺境メタルにも詳しく、ライターとしてもご活躍されており、現地滞在中に記録もされていたみたいで情報満載です。
主権国家としては特に辺境度合いが高く、あまり現代文明が到達していないのではないかというイメージもするブータン。
そのヒマラヤの王国にもハードロック、メタル系バンドはいました。国民服を着ているNorth Hにはインタビューも。
ワンチュク王妃公演のイベントにも出演したメタルコアForsaken。
他にも意外とYouTubeに音源や演奏動画をアップしているバンドが多く、また流暢な英語を話す人達が多いので、面白いです。
インド、南アジア圏のメタルを知る上で、有益なサイトを紹介。
インドの最先端音楽全般で最も詳しい軽刈田凡平さんによる『アッチャー・インディア 読んだり聴いたり考えたり』。
早速『デスメタルインディア』を詳しく紹介していただきました。
伝統インド音楽ファンはそれなりにいますが、メタルなど現代若者音楽の理解者はまだまだ少ないので、これから増えるといいですね。
「インド洋の首飾り」と呼ばれるモルディヴ。リゾート地として有名ですが、そんなネアカな場所にも根暗なメタルバンドはいると言えばいます。
世界的レーベルSeason of Mistに所属し、大統領にも表彰されたNothnegal。
そしてMachine Headの現ベーシストが在籍していたSerenity Dies。
一般的には「印僑」と呼ばれる在外インド人によるメタルバンドも世界各地におり、その中でも特に有名なのがシンガポールのヴェーディック・メタルの始祖Rudra。
彼らのインタビューも載っています。
インド・南アジアにルーツを持つ、世界的に有名なミュージシャンの特集コラムも。
例えばFreddie Mercuryはパルシーとして有名ですが、それ以外にもPeripheryのMisha Mansoorなど著名なミュージシャンがたくさんいます。
さてざっと駆け足で紹介してきた『デスメタルインディア』。当初は200ページぐらいのオールカラーを想定していたのですが、原稿を流し込んだら500ページ近くまで膨れ上がってしまっていました。
そこで一気に魅力を凝縮させて、360ページに落とし込みました。ギュウギュウ詰めの濃度の高い本になっています。
中身のチェックでは、中央大学総合政策学部の井田克征准教授や竹内耕太さんにご協力頂きました。
まだまだ世界的に知られているバンドは少ないかもしれませんが、これからはインドそして南アジアから、多くの優れたメタルバンドが続出することは確実と見られます。
既に書店やネット書店で無事販売開始されています。是非買ってみて下さい。