近藤知孝さんによる『ポストブラックメタル・ガイドブック』が完成したので、中身を紹介します。

ピンクの薔薇を用いたカバーデザインです。なおAmazon等のネット書店で掲載されている画像から、若干タッチを暗く、そして色調を濃くしています。

帯を取り外した状態。

ポストブラックメタルは自由で何でも許されるジャンルでもあり、全体像を掴むのは比較的難しいです。

そういったことについて前書きで述べています。なおこちらで前書きは読めます。

さてここからが第1章「Western Europe」です。

本書トップバッターを務めるのは、何と言ってもフランスのAlcest。ポストブラックメタル、ブラックゲイズの始祖とも言えるバンド。

その後、Blut Aus NordやCeleste、Les Discretsなどフランスの大御所バンドをプロフィール付きで紹介した後に、同国の音源をレビューしています。

Downfall of GaiaやImperium Dekadenzなどに続き、ドイツでプロフィールも紹介しているLantlôs。インタビューもしています。

ポストブラックメタルでも抜群の人気を誇るHarakiri for the Sky。このバンドを最も好きなバンドとして評価する人も多いです。

バンド名はギャグですが、メロウで切ないメロディが印象に残ります。メンバーの別バンドKargもお勧め。

耽美的でDSBMやドゥームからの影響も伺えるオランダのAn Autumn for Crippled Children。陰鬱なジャケットや世界観も素晴らしいです。

ライヴもやらないどころか、素顔すら明かさないバンドなのに、インタビューに応じてくれました。

驚異的なペース、しかも作品ごとにスタイルが変わりまくるベルギーのDéhà。インタビューも実現。

湿地帯を意味するイギリスのFen。メンバーがヴォーカルを務めるポストパンク風ポストブラックメタルDe Armaもハイクォリティ。

実はFenはインタビューが余りにも饒舌で、大分長くなってしまい、部分的にカットせざるを得なくなりました。

Ihsahnはシンフォニックブラックメタルの帝王Emperorのメンバーとしても知られます。最近ではその学術的雰囲気から「プロフェッサー」と呼ばれている様です。

本書編集者のイチオシがSolefald。実は昨年出版した『ヴァイキングメタル・ガイドブック』でも出てきます。

まだ「ポストブラックメタル」という言葉が流通する前から、「アヴァンギャルド・ブラックメタル」といった言われ方をしており、だいぶ実験的な音像を提示していました。

その美貌とAlcestのNeigeとの共作でも知られるSylvaine。

彼女のインタビューにも成功しました。

プリミティヴ・ブラックメタル全盛期にアコスティック、フォークを取り入れ、徐々にプログレッシヴ化していったUlver。このバンドもポストブラックメタルの基盤を作り上げたと見なされています。

第1章の章末にはポストブラックメタルを扱うレーベルを紹介。

「ブラックゲイズ」という言い方が発生してから、「ヴォイドゲイズ」「スカイゲイズ」などが乱立。

そして第2章は「Eastern Europe」です。

ポーランドのMord’A’StigmataやSeagulls Insane and Swans Deceased Mining out the Voidなどは岡田早由さんによる『東欧ブラックメタルガイドブック』にも載っています。

ロシアに侵略されているウクライナはDrudkhを輩出した国で、元々ポストブラックメタル、アトモスフェリックブラックメタルが盛ん。

特にサックスを取り入れたオデーサのWhite Wardは世界的に人気です。

Agruss、GreyAblaze、N █ Oといったウクライナのバンドも『東欧ブラックメタルガイドブック2』で紹介されているので、同国のブラックメタルについて詳しい人はぜひこの本も手にとってみて下さい。

SkyforestやA Light in the Darkなどロシアのポドリスク出身B.M.による数々のプロジェクト。

ロシアによるウクライナ侵略が始まってしまいましたが、今となっては貴重なインタビュー。

アゼルバイジャンという、メタルの世界では存在感が希薄な国の出身なのに、世界トップクラスのポストブラックメタルとして絶賛されているViolet Cold。

さてここからがいよいよ第3章、「Americas」です。

ダルシマーを用い、植物をコンセプトにした事でシーンに衝撃をもたらしたBotanist。

ポストブラックメタルで最も重要かつ有名なのがDeafheaven。このバンドの登場によって、このジャンルが象られ、ブラックメタルリスナーだけでなく、メインストリーム層にまで認知されたと言っても過言ではありません。

Deafheavenだけでなく、Downfall of GaiaやWiegedoodなど多くのポストブラックメタルの重要音源のプロデュースに関わったJack Shirleyのインタビュー。

ニューヨークシティ出身で、不協和音系デスメタルとの類似性も見いだせるKrallice。

ノイジーなトレモロリフで超越的ブラックメタルと名乗り、トランスジェンダーであることも公表したLiturgy。

かなり詳細にインタビューに答えてくれています。

著者の近藤さんや編集者も特にお気に入りのA Pregnant Light。ハードコアやポストパンクからの影響も感じられる、乾いた疾走感と切ないメロディが絶妙です。

なお作品作りや世界観に関して、非常に強い拘りとポリシーがあり、そういったことについて相当熱くインタビューで答えてくれました。

多産で、近年特に注目度が上がってきているUnreqvited。インタビューも掲載。

本書では随所にMy Bloody ValentineとSlowdiveに影響を受けたと公言するバンドが多く、そのコラム。

そしていよいよ最終章第4章「Oceania, Asia, Africa and Others」。

ポストブラックメタルは世界に広がっており、イランのEtheraldine、エチオピアのNishaiar、インドのRaatなども登場しています。

第三世界出身のポストブラックメタルで特に凄まじいのはインドネシアのPure Wrath。

実はメンバーのRyoは元々ブルータルデスメタルの世界でも高く評価されているPerverted Dexterity やCadavoracityもやっているのです。

エクストリームメタルでも対極的に位置すると言っても良いポストブラックメタルとブルータルデスメタルの両方の世界で、一流と目されているのは彼だけではないでしょうか。

『ポストブラックメタル・ガイドブック』の近藤さんがこの世界に入るきっかけにもなった大阪のVampillia。国内外の様々なミュージシャンと関わり、実験的な作品でも知られます。

本書はオールカラーで304ページもあるのですが、巻末に索引も載せております。

2700円よりもう少し高くしておくべきだったかもしれません……。

さてざっと『ポストブラックメタル・ガイドブック』の見どころを紹介してきました。

ここで紹介できたのはごく一部です。弊社からは既に複数のブラックメタル本が出版されています。

前述した『東欧ブラックメタルガイドブック』『東欧ブラックメタルガイドブック2』以外にも、『プリミティヴ・ブラックメタル・ガイドブック』、そしてポストブラックメタルの隣接ジャンルとも言える『デプレッシヴ・スイサイダル・ブラックメタル・ガイドブック』が出ています。ブラックメタルに関心がある方々は是非これらの本も読んでみて下さい。

ブラックメタルはエクストリームサブジャンルの中でも、最も多様性に溢れ、現在進行系で進化、発展しているジャンルとも言えます。

その中でもポストブラックメタルは最前線で、日々、画期的で斬新なバンドが登場してきています。

ただその分、全体像が分かりにくく、土地勘を掴むのも難しいといえるでしょう。

そんな難解なジャンルを理解する上で、『ポストブラックメタル・ガイドブック』はお役に立てられるのではないかと思います。