大嶋えり子さんによる『ピエ・ノワール列伝』が完成しました。写真で中身を紹介します。

副題は「物で知るフランス領北アフリカ引揚者たちの歴史」とある通り、「ピエ・ノワール」はアルジェリアなどマグレブと呼ばれる北アフリカから引き揚げてきたフランス人達の事を指します。

カバーにも載っていますが、哲学者のデリダや歌手のエンリコ・マシアス、政治家のドヴィルパン、作家のカミュ、女優のクラウディア・カルディナーレ、デザイナーのイヴ・サン=ローランなど各界一流の人材を輩出しています。

「ピエ・ノワール」はフランス語で「黒い足」を意味します。語源は諸説あるらしいです。

まずはフランスのアルジェリア侵略の歴史から。

続いてマグレブ諸国の基礎情報や地図。

ピエ・ノワールを知る上で先に知っておく必要がある用語の解説。

さて一番最初に登場する大物はアルチュセール。デリダだけでなく、アルチュセールまでもがピエ・ノワールだったのかという驚き。

アルチュセールだけではなく、ジャック・アタリまでもがピエ・ノワールでした。

フランス現代思想はピエ・ノワールと切っても切り離せません。

そして右にいるのは個性は俳優ダニエル・オートゥイユ。脈略のなさからも人材の厚さがわかりますね。

カバーはアルジェ港なのですが、そもそもアルジェリアの地理に詳しくない読者むけにアルジェの解説。

アルジェリア独立戦争がド・ゴールの再登板とフランス第五共和政樹立の原因ともなったのですが、その解説。

あまり知られていませんが、日本でも最近人気のオレンジ炭酸飲料「オランジーナ」はピエ・ノワールが創業者。

そしてアルジェリアでは植民地時代、ワインの製造も盛んだったので、そのコラム。

ヴィシー時代のフランス、そして連合軍上陸時のアルジェリアはフランス現代史の秘史ですが、ダルラン提督暗殺の話。

年配の方々なら誰もが知っているイケメン俳優ジャン=クロード・ブリアリ。いかにもフランス人俳優という感じですが、ピエ・ノワール。

フランスのポップスやロックが好きな人なら誰でも知っているパトリック・ブリュエルもピエ・ノワール。

「ピエ・ノワール」として最も有名な人はだれかと聞かれれば、この人でしょう。アルベール・カミュ。

カバーにも載っているフランス現代思想の巨匠ジャック・デリダ。彼の場合はユダヤ系です。

アルジェリア独立に反対したOAS(秘密軍事組織)に関するコラム。

実は全てのフランス人がアルジェリア独立に反対した訳ではありませんでした。アルジェリア独立を目指したフランス人テロリスト、フェルナン・イヴトンは死刑に処されました。

ド・ゴールを暗殺しようとしたOASと「将軍たちの反乱」。

南部フランスに引き揚げ、フランス国民戦線の大きな支持母体ともなった(諸説あり)ピエ・ノワール達の投票行動や政治意識に関するコラム。

日本でもファンが大勢いた歌手エンリコ・マシアス。

フランス軍に協力した現地住民「ハルキ」達に関するコラム。アルジェリア独立以降、残ったものは虐殺され、フランスに逃げられた人たちも大変な目に遭いました。

本書ではピエ・ノワールらフランス人をメインに扱っていますが、FLNやMNAなどアルジェリアの独立勢力の解説コラム。

観光地としてのアルジェリアの解説コラム。

クレミュー政令やアルジェリアに住むアルジェリア人に関するコラム。

「モードの国おフランス」の典型的なイメージのするブランド、イヴ・サン=ローランも実はピエ・ノワール。先祖はアルザス出身です。

さてここまでがアルジェリア。左ページはピエ・ノワール料理の解説コラムで、ここからがモロッコ。

アルジェリア以外にモロッコとチュニジアのマグレブ三カ国からの引揚者をまとめて「ピエ・ノワール」と呼ぶことも多いようです。

イヴ・サン=ローランほどではないにしても、日本でも有名なカステルバジャックもモロッコ生まれ。

そしてイラク戦争時にアメリカと対等に張り合ったドヴィルパン元首相もモロッコ生まれ。

マクロン大統領が当選した選挙戦で、左翼陣営から大人気だったメランションもモロッコのタンジェ生まれ。

厳密にはピエ・ノワールと言えるかは微妙ですが、フランス映画界を代表する俳優、ジャン・レノは両親がフランコ政権時にスペインからモロッコに逃れてきた亡命者。

チュニジアもなかなかの人材を輩出しています。香水で知られるロリス・アザロはチュニス生まれ。

これまた年配のフランス映画ファンなら誰でも知っているクラウディア・カルディナーレはイタリア系でチュニジア生まれ。

単に「フランス人」だと思われていた人が、実はフランス本土以外のルーツを持っているという事はよくありそうです。

シャルリ・エブド事件で殺された漫画家ジョルジュ・ヴォランスキーもチュニジア育ち。

実は彼は父を殺人事件で亡くし、若い頃には妻を交通事故で亡くし、『バカなまま死にたくない』というタイトルの本を出しながら、自らもテロで殺害されてしまいました。

何か呪われているとしか言いようがありません。

フランス現代史とアルジェリアに関する年表。

日本ではピエ・ノワールやフランス統治化の北アフリカに関連する文献は非常に乏しく、ほとんどの記述がフランス語の文献やサイトに依拠しています。

11ページに登る学術書レベルの膨大参考文献。これらの出典に辿れば一次資料に行き当たります。

という訳で、端的に『ピエ・ノワール列伝』の中身を紹介していきましたが、もちろんここで紹介できたのは、特に有名だったり、代表的な人物のみ。

本全体で111人、コラムを合わせればそれよりも多くのピエ・ノワール達を紹介しています。

またここでも紹介したとおり、人物伝だけでなく、ピエ・ノワールやフランス植民地時代の北アフリカの事がよく分かる各種コラムをかなり沢山載せています。

これだけフランス近現代史に影響を与え、フランス本国ではかなり身近で一般的なテーマであるにも関わらず、日本ではほとんどと言っていいほど報じられず、知られてすらいないかもしれないピエ・ノワール。

カバーはフランス映画風で軽やかですが、中身はフランス近現代史を知る上で有益な情報が盛り沢山。大変読み応えがあります。

既に多くの書店で発売開始の模様です。A5判二段組で288ページで2300円。是非フランス好きは買ってみて下さい。