岩田宇伯さんによる『中国抗日ドラマ読本』が完成しました。

昨日4月10日が正式の発売日で、既に書店でもお買い求め頂けるようになりました。

カバーはこの様な感じです。真ん中は女性将校。左が国民党、右が新四軍。

帯は「時代背景完全無視! 反日プロパガンダどころかもはやギャグ!」

帯を取ったところには児玉機関が拠点を置いたとされる上海のブロードウェイマンション。

カバーをまくったところには、今回、中身のチェックをしてくださった『中国遊園地大図鑑』の関上さんの本。

実は『中国抗日ドラマ読本』の岩田さんを紹介して下さったのも関上さんです。『中国遊園地大図鑑』でも抗日テーマパークが紹介されているので、こちらも必見。

ここからが本の中身でこれは本扉。

抗日戦争では日本軍だけでなく、国民党、共産党の中でも新四軍、八路軍、そして日本側に寝返った汪兆銘軍など勢力が複雑に入り組んでいるので、どういった組織なのかを解説。

ちなみに歴史的事項に関しては私が編集者として携わった『ニセチャイナ』の広中一成さんが見て下さっています。日中戦争に詳しくない方々は是非この本も読んでみて下さい。

まずは抗日ドラマの中でも最も代表的とされる『抗日奇侠』。日本兵を素手で引き裂いたシーンが物議を醸しました。

基本的な本の構成としては、この様にオープニング画像、キャストやスタッフ、ドラマの概略、人脈相関図、そして登場人物の解説が最初に来ます。

抗日ドラマは何十話にも渡り、登場人物があまりにも多く、しかも日本人には馴染みがない名前なので、かなり混乱します。

そのため、登場人物が男性の場合、名前を水色、女性の場合、ピンクにしました。

また字面を眺めているだけだと名前が似ている親族や兄弟など、混同しやすい為、全ての箇所でピンインのルビを記載しました。

また次に来るのが話の大きな流れのフローチャート。そしてストーリーのポイント要約です。

ストーリー解説は、あまりにも登場人物が多すぎて、また荒唐無稽な話ばかりなので、かなり混乱する為、何度も何度も岩田さんに分かりやすく書き直してもらいました。

ここまで親切設計にしているにも関わらず、話がかなり複雑なのでストーリーが分からなくなったら、何回も読み返す事をおすすめします。

その後にキャプチャ画像で、ドラマの中の見どころやツッコミを解説しています。

一見見落としがちな変なところも鋭く岩田さんに突っ込で貰っています。

これが本編の基本的な構造です。これでどんな抗日ドラマもその内容やおかしな所の基本を抑えられます。

実際にドラマを見ながら本を読むのがお薦めで、言ってみれば副読本の様な用途としても使えます。

右ページの下から二番目があの有名な日本兵を素手で引き裂くシーン。

中国の抗日ドラマは日本にいながらネットで見る事ができます。その視聴方法の解説。

こちらは『孤岛飞鹰』というドラマで、『北斗の拳』『MadMax』風の機関銃搭載バギー魔都上海を行き交います。

重力を完全に無視したオフロードバギーが空中を飛んだりします。

よく見るとメチャクチャな日本語だったり、極秘計画のメンバーの名前がAV女優や元首相になっていたり。

『孤岛飞鹰』等の抗日ドラマに日本兵役として出演されている沙人さんへのインタビュー。東日本大震災の時は中国人スタッフが本気で心配してくれたそうです。

さすが十億人の人口を擁するだけあって、抗日ドラマに出てくる女優も美女だらけ。俳優もイケメンばかり。

一方で個性派もおり、監督や俳優がドラマを完全に私物化してしまう事も。

また著者の岩田さんはバイクマニアなので、映像で出てくるドラマの車種を特定しまくります。このバイクは韓国のヒョースン製らしいです。

抗日戦争では日中の軍隊だけでなく、フライングタイガースと呼ばれる米軍や租界警察、匪賊や商工会といった脇役キャラも活躍するので、そういった解説。

随所にこうしたドラマや日中戦争を理解する上で役立つコラムを用意してます。

やはり一番面白いのが、時代考証を完全に無視したパートですね。1937年の設定なのに、赤外線レーザーで侵入者を検知したり、ブルーレイ生体認証したり。

番外編で『抗日小英雄楊来西 』という余りにもコピペが酷すぎる抗日アニメを扱っています。また「抗日ドラマで覚える中国語講座」も。

実は中国では抗日ドラマほどではありませんが、国共内戦ドラマも制作されています。これは新疆ウイグルを舞台にした『阿娜尓罕』。

今や中国を代表するディルラバ・ディルムラットもこのドラマでデビュー。

満蒙付近を舞台にした『大漠槍神』はもはやアリゾナを舞台にした西部劇にしか見えません。監督の拘りが随所で見られます。

中国では放送の規制が厳しく、「抗日」を扱っていると緩くなるとされた事から、やたらと日本兵を登場させて抗日ドラマ風を装うけど、実は監督は別のテーマを撮ろうとしていた、という事がよくある様です。

こちらは明らかに台湾の学園ドラマ風を撮りたかったのだろうと推測される、『偏偏喜歓你』。腐女子向けで、やたらと男が上半身ハダカになりますが、舞台は中華民国時代の軍官学校。

ストーリー解説もありますが、ほとんどあって無いようなもの。ただただ台湾学園ドラマを作りたかっただけなのが分かります。

中国での放送規定がある事によって、作り手達がそれを搔い潜るために「抗日」を取り入れているという事情を知らないと、「トンデモ」と誤解してしまいそうですね。

なのでただ馬鹿にする訳にもいかない、大人の事情があるという事です。

1962年に制作された農民向けプロパガンダ『地雷戦』。

特にヘンテコな『槍花』の「吉岡ダンス」。

三浦研一さんはもはや中国で知らない人はいないとされるぐらいの有名日本人俳優。『槍花』や『異鎮』など本書で紹介しているドラマにも出演されています。

日本人として、敵役の日本兵として中国の抗日ドラマに出演することに対して、どう思っているのか、抵抗はないのか、ネトウヨから非難されたりしないのか、といった素朴な質問に対して真摯にお答え下さっています。

読んでいて色々と深く洞察されており、中国でも愛される人格者なのだなという事が分かり、著者の岩田さんと共に「この本の最も重要な部分」という認識で一致しました。この部分だけでも読む価値があります。

ざっと駆け足で本の中身を紹介しました。240ページもあるので、他にも面白いシーンは沢山あります。

ほぼオールカラーに近く、ドラマを見ながら何回も読み返せる実用的な本です。

是非本書を片手に、我々日本人だからこそ面白く見えてくる数々の抗日ドラマ作品を楽しんで頂ければと思います。