裏切りと傀儡の肖像
松原左京(著/文)
ISBN 978-4-908468-97-1
C0020 四六判 384頁
価格 2,750円 税込 (本体2,500円+税)
書店発売日 2026年8月10日
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紹介
私利私欲か、和平か、
王朝防衛か、革命か。
「国を売った」と呼ばれた者たちには
それぞれの論理があった■アンリ・フィリップ・ペタン ヴェルダンの英雄からヴィシーの老元帥へ
■汪兆銘 和平救国を掲げ傀儡に沈んだ重鎮
■愛新覚羅溥儀 皇帝の血脈に縛られた傀儡皇帝
■ベネディクト・アーノルド ウェストポイントを売った独立軍の勇将
■小早川秀秋 関ヶ原で豊臣を売ったとされた金吾
■シャルル・モーリス・ド・タレイラン・ペリゴール ウィーン会議で祖国を救った裏切り外交官
■秦檜 岳飛を葬り和議を結んだ南宋宰相
■ミール・ジャアファル プラッシーで主君を売った太守軍司令
■李完用 親露から親日に転じた併合宰相
■ヴィドクン・クヴィスリング 独軍誘致で売国名詞化したクヴィスリング
■「「ボディガード」のつもりが「外患誘致」」「「漢奸」と呼ばれた男たち」などのコラムも59人掲載
目次
まえがき 2
西洋 9
アルキビアデス 祖国を売り歩いた古代ギリシアの稀代策士 10
コラム 「デマゴーグ」の原義 15
マルクス・アントニウス 女王に傾きローマを失ったカエサルの勇将 16
コラム 大国が小国に「売国」した事例 25
エティエンヌ・マルセル 王太子に刃向かいパリを賭けた商人頭 28
コラム マルセルとフランス革命を分けたもの 33
マリンチェ 征服者の声となったアステカ滅亡の通訳 35
チャールズ・タルボット 外患誘致で名誉革命を支えた名門貴族 40
ベネディクト・アーノルド ウェストポイントを売った独立軍の勇将 48
タルゴヴィツァ連盟 五月三日憲法をロシアに売った貴族連盟 53
ルイ16世 ヴァレンヌ逃亡で王冠を失ったルイ十六世 57
シャルル・フランソワ・デュムーリエ ヴァルミーの英雄から墺軍に逃げた反逆将軍 65
マニュエル・ゴドイ フォンテーヌブローで祖国を開いた平和公 71
シャルル・モーリス・ド・タレイラン・ペリゴール ウィーン会議で祖国を救った裏切り外交官 77
ジョゼフ・フーシェ ルイ十八世に政府を売ったオトラント公 83
フランシスコ・カルデロン ウォーカーを招き母屋を取られた自由党首 92
コラム 「ボディガード」のつもりが「外患誘致」 96
ウラジミール・レーニン 封印列車で帰国しブレストで領土を割いた男 98
パヴロ・スコロパツキー キーウで独軍に担がれた最後のヘトマン 105
アルトゥール・ザイス=インクヴァルト アンシュルスを招いた沈黙の二日間首相 112
ヨゼフ・ティソ ナチスに独立を託した司祭大統領 116
ヴィドクン・クヴィスリング 独軍誘致で売国名詞化したクヴィスリング 121
コラム クヴィスリングが「裏切り者」の代名詞(もzしくは普通名詞)にまでなった要因 126
アントン・ムッセルト 売国しても首相になれなかった技師総統 128
アンリ・フィリップ・ペタン ヴェルダンの英雄からヴィシーの老元帥へ 132
エドワード8世 王冠を捨て独爆撃容認疑惑を残した公爵 140
コラム 「ウィンザー・ノット」~エドワード8世の名から世間が想像するもの~ 143
アンドレイ・ウラソフ 赤軍英雄からロシア解放軍の旗手へ 144
コラム 「英雄」が「売国奴」に堕ちる例 148
東洋 151
郭開 趙の名将二人を讒言で消した寵臣 152
趙高 遺詔を偽り秦を崩した伝説の奸臣 156
コラム 「馬を鹿」~趙高と故事成語~ 163
許攸 官渡を売って旧友曹操に驕った策士 164
張松・法正 劉璋を見限り劉備に蜀を売った二策士 170
糜芳・士仁 関羽を見限り荊州を呉に渡した二将 178
コラム 同じくこの時孫呉に降った潘濬の話 182
朱績 呉末の混乱に蜀を頼んだ名将 184
コラム 曹魏で「他国に通じた反乱者」諸葛誕 187
蕭正徳 侯景を招き梁を傾けた不良皇族 190
蕭繹・蕭詧 侯景後の梁を外患誘致で裂いた湘東岳陽二王 195
高阿那肱 暗君に阿り北斉後主を売った宰相 200
石敬瑭 燕雲十六州を差し出した児皇帝 205
張邦昌・劉豫 宋を返した楚帝と宋に刃向かった斉帝 210
秦檜 岳飛を葬り和議を結んだ南宋宰相 215
呉三桂 清を招き明を絶やした平西王 223
コラム 呉偉業~心ならず「弐臣」となった事を悔い続けた詩人~ 232
ミール・ジャアファル プラッシーで主君を売った太守軍司令 234
タウフィーク・パシャ アラービーを英軍に討たせた副王 239
李完用 親露から親日に転じた併合宰相 245
メフメト6世 セーヴルを呑み帝国を失った皇帝 249
愛新覚羅溥儀 皇帝の血脈に縛られた傀儡皇帝 254
汪兆銘 和平救国を掲げ傀儡に沈んだ重鎮 258
コラム 「漢奸」と呼ばれた男たち 264
ホセ・ラウレル 占領下の独立を盾にした大統領 268
バオ・ダイ 列強に担がれ続けた最後の皇帝 274
アンワル・アッ=サーダート イスラエル和平に賭け暗殺された大統領 279日本 287
後継順位決定を「征服者」に委ねた君主の話~「売国」には当たらないけど……~ 288
吉田定房 主君を守るため密告した後の三房 294
足利尊氏 北朝を捨て南朝に降った幕府創設者 299
近衛経忠 和平を焦り藤氏一揆に賭けた関白 311
楠木正儀 和平を求め北朝に降った楠木の柱石 315
大内持世 対馬割譲を構想した疑惑の名将 323
築山殿 武田内通疑惑で処された家康最初の正室 328
朝倉景鏡・穴山梅雪 主家を売り家名を残そうとした一門衆 335
石川数正 徳川の機密を抱え秀吉に奔った重臣 342
小早川秀秋 関ヶ原で豊臣を売ったとされた金吾 346
松平容保・酒井忠篤 蝦夷地担保未遂で汚名を免れた会庄二藩主 354
コラム ゾルゲ事件と尾崎秀実 350
前書きなど
歴史の教科書を開けば、そこには常に「英雄」と「逆賊」の鮮やかなコントラストが描かれている。しかし、その境界線は驚くほど脆く、時に主観的なのは否めない。本書が焦点を当てるのは、輝かしい英雄ではない。そして単なる歴史の敗者でも、単なる悪党でもない。「売国奴」と呼ばれ、後世に唾棄されてきた者たちである。
「売国奴」といっても彼らは、単に敵国に情報を売った小悪党にはとどまらない。本書で取り上げる面々の定義を、以下のように定めた。
「自らの目的を果たすため、他国の力を借りて、自国の君主もしくは国民に危害を及ぼすことも辞さなかった者たち」
彼らが「他国の力」という禁忌に手を伸ばした理由は、決して一様ではない。その一部を挙げるだけでも、私欲と保身: 没落しかけた権力を維持するため、外敵を招き入れた者。
狂信的な使命感: 「この腐りきった体制を壊すには、外圧しかない」と信じ、祖国を危機に晒した者。
悲劇的な誤算: 良かれと思って引き入れた「友軍」にそのまま国を飲み込まれた者。などがおりさまざまである。
なお、歴史的には「売国奴」と見なされていない(むしろ「英雄」として称揚されている)事例でも、「他国の力を借りる」という「パンドラの箱」は開けているため「一つ間違えば売国奴の汚名があり得たのではないか」という人物、あるいは疑惑止まりだが「パンドラの箱を開けようとした」可能性がある者も扱っている。なぜ今、彼らを語るのか。「売国」という行為は、極限状態における人間の本質を浮き彫りにする。己の理想、あるいは生存本能が所属する共同体への忠誠心を上回ったとき、人はどのような論理で自らを正当化し、どのような結末をたどるのか。
本書では、古代ギリシャのアルキビアデスから、近代のアジア、ヨーロッパの動乱期に至るまで、世界史の転換点に現れた「売国奴」たちの足跡を辿ってみた。彼らは単なる裏切り者だったのか、それとも時代の歪みが生んだ犠牲者だったのか。その血塗られた記録を紐解くことは、翻って「国家とは何か」「忠誠とは何か」という、現代の我々にとっても逃れられない問いを突きつけることになるのではなかろうか。さあ、汚名に彩られた扉を開けてみよう。そこには、教科書が教えない「もう一つの世界史」が広がっているはずだ。
著者プロフィール
松原左京 (マツバラ サキョウ)
奈良県出身。京都大学歴史研究会OBで、山田昌弘とは長年の友人になる。興味の赴くまま、歴史知識を探求している。雑駁な好事家の域に留まらぬよう心掛けているが、はてさて。

