デスメタルインドネシア

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世界過激音楽2
世界2位のブルータルデスメタル大国
小笠原和生(著)
ISBN 978-4-908468-03-2
C0073 A5判 352頁
価格 2,530円 税込 (本体2,300円+税)
書店発売日 2016年7月4日

 

 

紹介

小学生だけでなく市長・県知事・そして…ジョコ・ウィドド大統領までもがデスメタラー!!

バンド数でアメリカを猛追し、増加率では世界一のブルデス大国!

ガムランDNA超絶ドラマー多数!! 死者数多数!!

世界4位の2億5千万人を擁する国が人口ボーナス期に突入!!

ガムラン・ダンドゥット・ファンコット・プログレが盛んで手先が器用な国民性!!

スシロ・バンバン・ユドヨノ前大統領の善政により中産階級が増大!!

誰もがバンドを組みたがる風土で今まさに全面開花!!

スラウェシやカリマンタンは当然アチェや東ティモールの辺境レポート!!

日本Defiledツアーレポート・RNR TOURSによるパンク名盤紹介!!

イスラムメタル運動One Finger Movement等コラムも盛り沢山!!

目次

002■まえがき
003■本書の見方
004■目次
008■世界ブルータルデスメタルバンド数ランキング上位50 ヶ国
009■ブルータルデスメタル近年急増国ランキング
009■ブルータルデスメタルが全メタルバンドに占める割合が高い国ランキング
009■ブルータルデスメタル大国上位6 ヶ国におけるバンド結成数の推移
009■ASEAN 諸国メタル対比データ
010■インドネシア地図

012■ジャカルタ/Jakarta
014■死人すら拷問する勢い! JKT デスメタル代表! SIKSAKUBUR
021■JKT エクストリーム界の腕利きドラマーが挑む新たなデスメタル! HELLCRUST
026■グラインドコアで伝えるOne Finger Movement ! TENGKORAK
031■新世代デスメタルを牽引する都会派! DEADSQUAD
032■どん底から勝利へ。幸福への道程を描いたジャカルタデスの古株! TRAUMA
038■20 年以上暴れ回るインドネシアのデスメタル怪獣ゴジラ! GODZILLA
044■デスメタルの創成期を築いた伝説がアップデートされた装いで復活! GRAUSIG
045■ダイナミックデスメタル!そして洗練もされてきたベテラン! PANIC DISORDER
046■成長著しいジャカルタのテクニカルデスメタル! REVENGE
047■Endzweck とスプリットも出したHC あがりのメロデス! STRAIGHTOUT
048■動物愛護団体でも活動する元Bloody Gore のデスメタル! FUNERAL INCEPTION
049■いち早くドラムマシーンを用いたデス/グラインド! GRIND BUTO
050■日本デスメタル帝王DEFILEDにインドネシアツアーについて聞く
056■シーン育成を担う立場になった創成期のスラッシャー! SUCKER HEAD
062■心赴くままに変化した伝説のスラッシャー! ROTOR
063■10 年の時を経て復活!黎明期を支えたマニアックなデスメタル! ADAPTOR
064■デスメタル界初の女性ギタリスト参上! RITUAL DOOM
070■不屈の魂で遺志を継ぐグラインドコア! NOXA
071■爆走!重機グラインドトリオ! DEAD VERTICAL
072■メンバー不在!知性を持った不死の怪物! KEKAL
074■ハードコア連中が作り上げたインドネシアを代表するストーナーコア! SERINGAI
075■ガザ地区の人々の悲しみを叫ぶ中東フォークメタル! CHILDREN OF GAZA
076■Queen カバーのネオナチ風プラボウォ応援歌が波紋を呼ぶ!
077■イスラム主義をメタルに取り入れたOne Finger Movement!
078■限りなくSlipknot なイスラミックメタル! PURGATORY
079■90 年代後期ヌーメタなのにムスリム・ホワイトメタルコア! KODUSA
080■世界が認めたジャカルタ発のポストブラックメタル! VALLENDUSK
085■ジャワニーズハーモニカルシックネス! SOULSICK
086■ジャンルごちゃ混ぜ!悪夢のエクストリーム遊園地メタル! IN MEMORIAM
087■日本文化大好き!女性vo を擁するシンフォニックパワーメタル! BLODWEN
091■ジャカルタのゴシック/シンフォ系の礎! DREAMER
092■しっとりダークなプログレッシヴゴシックメタル! GELAP
093■女性ヴォーカリストを擁するモダンゴシック! INNERBEAUTY
094■苦難を乗り越え安住の地を求めるプログレッシヴゴシック! GETAH
095■何人たりとも犯し得ない不滅のスラッシュメタル! DIVINE
100■ジャカルタベイエリアスラッシュの追憶! ORACLE
104■聴き手を裏切り迷走しつつもインドネシア的精神だけは貫くスラッシャー! BETRAYER
106■こだわりのインドネシアン風味スラッシュメタル! THRASHLINE
107■(S) スラッシュだ! (B) 爆発させろ! (Y) ヤングパワー! SOCIAL BLACK YELLING
108■ギターヒーローが魅せる!現代風80 年代ハードロック! EDANE
110■東南アジア最大のメタルフェスティヴァル! HAMMERSONIC
116■今一度煌めき泳ぐ姿を…… Indo Prog 界に光を当てたDiscus! DISCUS
125■ブラックメタルからメロパワへ大変身! UMBRA MORTIS
126■インドネシアロックの形を作り上げたプログレッシヴロック! GOD BLESS
128■KERANGKENK・CADAVER・SPERMA REJECT・HELLSKUAD
129■MIASMA・BLOODY MORTIR・GOADS・ABSOLUTE DEFIANCE
130■MOURNPHAGY・JIGSAW・ICONOCLASM・APOTEOZA
131■RISING THE FALL・ABGOTTER・MORTUS・SLIMER
132■REBORN DAMNATION・THRASHPIT・CROXOUS・CATASTROPHE
133■UNGU・KELAKAR・HELLUCINATE・SURI
134■BRUTAL INFECTION RECORDS
136■BRUTAL MIND
138■ROTORCORP

140■ジャカルタ首都圏(ジャボデタベック)/ Jabodetabek
142■熟練の技が鈍く光るブルータルデスメタル! ASPHYXIATE
143■掘削機の様な振動ブラストが続くブルータルデスメタル!  PROPAGANDA
144■ハーモニックス多用したグルーブ感炸裂ブルータルデスメタル! CHALERA
145■DEATHFANS RECORDS
145■DROP・PERVERTED DEXTERITY
146■RADANG KELAMIN・KARNAK・THIS SPRING OF DEATH・INJURY DEEPEN
147■BUNUH・KRONIS・EXALEIPS・CARNIVORED
148■CADAVORACITY・APOPTOSIS GUTRECTOMY・VISCRAL・FAILED VIRGIN
149■GELGAMESH・SEVERED PURITY・MURTAD・RADICAL ARTERY
150■SOTTISH・KEDJAWEN・KRACK・GODZICK
151■ANGEL OF DEATH・SCAREMONGER・TOTAL ANARCHY・THE CORALS
152■インドネシアのワンマンバンド
155■*番外編

156■バンドン/Bandung
158■多くのフォロワーとバンドンサウンドを生み出した国を代表するデスメタル! JASAD
164■YouTube での破茶目茶な演奏が笑えるブルータルデスメタル! GUTTURAL DISEASE
168■長尺リフを変拍子リズムチェンジし続けるブルータルデス! INTERFECTORMENT
169■モダンな音質の怒涛のハイパーブラストビートが最大の特徴! CRIMINOLOGY
170■中華包丁で高速微塵切りしてるかの様なブルータルデスメタル! GORE INFAMOUS
171■醜悪な俺の姿を見ろ! 人間の暗部をむき出しにするデスメタル! DAJJAL
172■バンドンのデスメタル期待の星はサディズム猟奇殺人鬼! BLEEDING CORPSE
173■Popo ちゃん吠える!デスメタルは男だけのものじゃない! DEMONS DAMN
174■男女揃って仲良く絶叫! フロアを激震させるハードコア! GUGAT
175■流した血と涙は無駄にはしない! ブラックメタルで独立万歳! WARKVLT
176■ジハードとはベストを尽くして挑むこと! スンダのデスメタル! JIHAD
177■注目が集まるバンドンのテクニカルな新世代デスメタル! HUMILIATION
178■重荷を背負うて坂道を行くメロディック・デスメタル! BESIDE
179■ポップなメロディで構成される元Beside のメロデス風メタル! NECTURA
180■社会に切り込む過激な表現で記憶に残るデスメタル! FORGOTTEN
184■バンドンハードコアシーンからメタルへシフトして国を代表するバンドに! BURGERKILL
186■ハードコアってやつは音も歌詞も実生活そのものなんだ! OUTRIGHT
187■第六感を刺激するダークポップ! SARASVATI
188■バンドン初の女性ヴォーカルゴシックメタル! RESTLESS
192■DIGGING UP・CANNABIES・TURBIDITY・LUMPUR
193■PLASMOPTYSIS・DEVORMITY・DISMEMBERMENT TORTURE・POISON NOVA
194■SAFFAR・GORE INSTINCT・KALUMAN・STIGMATUARY
195■HYPOCHONDRIAC・BLEEDING MURDER・SUFISM・MOREDEAD
196■GIRLZEROTH・CANDLEGOAT・VICTORIAN・MOSES BANDWIDTH
197■TARING・SSSLOTHHH・BROMOCORAH・SEREIGNOS / WARKVLT
198■ROTTREVORE RECORDS
200■EXTREME SOULS PRODUCTION
202■ARMSTRETCH RECORDS
204■バンドンのデスメタルを社会学的に研究する学者!

214■ジョグジャカルタ/Jogjakarta
216■伝統文化を色濃く残す町ジョグジャから古風なデス!  DEATH VOMIT
220■美術の中心地から出るべくして出現した変質現代アートメタル! CRANIAL INCISORED
221■ジョグジャカルタを代表するグラインドコア! DEADLY WEAPON
222■トゥルー・ジャワニーズ・ブラックメタルのレジェンド! SANTET
223■Metallica 大好き!スラッシュ大好き! METALLIC ASS
228■VENOMED・KILLER OF GODS・BRAIN ASS・EXHUMATION
229■MORBIDDUST・NOSFERATU・VORBLEED・VOMITOLOGY
230■インドネシアンパンク名盤紹介
230■SUPERMAN IS DEAD・STRAIGHT ANSWER・MARJINAL
231■SPEAK UP・EXTREME DECAY・ROCKET ROCKERS・ANTIPOP
232■SNICKERS AND THE CHICKEN FIGHTER・SWEET AS REVENGE・RAJASINGA・KILLING ME INSIDE
233■PEE WEE GASKINS・FUKK BAR CULTURE・THINKING STRAIGHT・ICE CREAM ATTACK
234■REVENGE THE FATE・SEBUAH TAWA DAN CERITA・PUBA’S SWEET HERO・DIVIDE
235■BILLFORD・BYE BYE BUNNY・NYAM NYAM CHEESE・FEEL THE BURN

236■スラカルタ/ソロ/Surakarta/Solo
238■ガムランと融合させたエピックスピードメタル! LORD SYMPHONY
239■名実共に勢いのあるメタルコアといえば! DOWN FOR LIFE
240■INTERNAL AMPUTATION・DEFRAGMENT OTAK・PARANOID DESPIRE・BANDOSO
241■イラストレーター
244■アチェの戦地から避難! Riandy Karuniawan
246■絵を描く事を趣味と割り切る! Rudi Gorgingsuicide

248■クディリ/Kediri
249■Symphonichaos Gorechestra Progressive Technical Death Metal! KILLHARMONIC
250■クディリ王国のテクニカルトリオ! DEMENTED HEART
251■祖先の文化と精神を今に伝えるクディリのブラックパパ! IMMORTAL RITES
255■TENGGOROKAN・DETESTED・GEGGAR OTAK・HELLRAIZER

256■マラン/Malang
257■進んでいる都会のメタル野郎に衝撃を与えた保養地の腐った死体! ROTTEN CORPSE
258■時流に流されない昔気質のブラックメタルトリオ! RITUAL ORCHESTRA
259■70 年代的プログレ精神と民族色を融合した国内屈指の玄人ロック! ELPAMAS
260■スラミングとは言うもののせわしない展開が強烈! INTRACRANIAL PARASITE
263■ROTTENBLAST・ROTTENOMICON・HELLHOUND・GAGAK RIMANG STONED

264■スラバヤ/Surabaya
266■ジャワ島東の横綱グラインドコア! SLOWDEATH
270■スラバヤの首領とエクストリーム少女のグラインドコア! G.A.S
274■伝統の味を守る老舗デスメタル! FEAR INSIDE
275■死んだつもりで生きながえらえて20 年。スラバヤデスの重鎮! WAFAT
276■スラバヤデス界の熟練ブッチャー! JAGAL
277■政治の腐敗は許さん!スラバヤハードコア界のボス! DEVADATA
278■スラバヤ初のブラックメタル! DRY
279■国営テレビに登場した初のゴシックメタル! TOTAL TRAGEDY
280■その名を知らぬ者はなし。インドネシアンメタルの王者! POWER METAL
283■独立か死か!ならば、Bestial War Metal だ! RAJAM
287■モッシュピットが大暴動の様子を呈すハイパーブルータルデス! GEROGOT
288■アメリカの本家以上の体感速度でカバーするブルデス! REDUCED
289■SICKLES・DIFFUSAL BLADE・RAW・RANGE OF MUTILATED
290■DESCANE・PANTHEON・BRAIN DAMAGE・HUMANURE
291■DEAD CRIMINAL・DANTE MUST DIE・DIRTY INFAMOUS・DIABOLICAL
292■NO LABEL RECORDS

294■メダン/Medan
296■メダンの目ん玉飛び出るテクニカルデス! DJIN
302■おもねることなく理念を貫くメダンのデスメタル! CRANIUM
307■場違い!風光明媚な観光地のえげつないデスメタル! TOTAL RUSAK
308■バタム島でメタルコアからブルデスへ完全変態! FORGIVENESS BEFORE DEATH
309■MALTREAT DEAFEN・EXPLODING THE CRANIAL・RU`SU`AH・SUFFERGRIND
310■FUNERAL THIRST・ONLYSICK・KOMPONEN NERAKA・KILLER BEE
311■PARGOCHY・ENDOCARDITIS・RADANG・SUFFERUNDER

312■アチェ/Aceh
313■イスラム法で統治されるアチェで古代エジプト趣味デスコア! AMENHOTEP
314■「シャリーアメタル」を名乗るごく普通のスラッシュメタル! PSYCHO HOLIC
315■SHITAKE・VONIS MATI・MACULA DENSA・KILLA THE PHIA
316■LENTERA SURGA・CRONIC・THE WITCH OF MAJESTY・REVENWOLF
317■DIE VIOLENCE・UNSATISFACTORY・VALENCIA SKY・TRANSYLVANIA

318■デンパサール/Denpasar
320■南の楽園で伝統音楽とデスメタルをバリバリに融合! ETERNAL MADNESS
324■バリ島でも発症!スウェーデンM 型モダン・デス・ウイルス! TROJAN
325■振るのは頭かそれとも……!? 最後の楽園から残虐ポルノ神登場! REZUME
326■ダメ!自然破壊! バリ島ヒンドゥー哲学トリヒタカラナのデスコア! PARAU
327■REVILED・BORN BY MISTAKE・MOM CALLED KILLER・FLOWER FLESH

328■カリマンタン/Kalimantan
330■大自然に囲まれた古都からのし上がる新気鋭のメタルコア! KAPITAL
335■ENGORGING・DEATH SOUND・MALVOMED・RANTAI

336■スラウェシ/Sulawesi
338■クリスチャンだらけの町で貫くブラックメタル魂! DURHAKA
339■CRITICAL DEFACEMENT・SABAOTH・NECROPSY・NORTHORN

340■東ティモール/East Timor
341■ラウドミュージック未開の地で割とマシなメタルコア! DILI_UNDERGROUND
344■DEPRESSION SUCKS・CORRIS・D’GLADIATOR・METAL MAUBERE
345■ALCATRAZ・TIMOR LESTE MUSIC DARK METAL・G1 3ULLET・NYX 15
346■海外バンドのインドネシア公演史

350■あとがき
351■参考文献

前書きなど

2016年5月に米国で北欧5か国の会合が開催された際、オバマ大統領が「フィンランドは、おそらく一人当たりのヘヴィメタルバンド数が世界で最も多い国」と言及した。
しかし近年、「ブラストぶち込みまくりのSICKなデスメタルがごまんといるらしいぜ!」と、ディープなマニアの注目を集めているのが、インドネシアなのである。「Encyclopaedia Metallum」という世界のメタルバンドを網羅的に集めたサイトでジャンルを「Brutal Death Metal」に設定して検索すると、アメリカの736バンドに次いで、インドネシアが297バンドで、世界で2番目に多い。ちなみに3位はドイツの156バンド。
2010年から2016年にインドネシアで結成されたブルータルデスメタルバンドの数は91バンドで、アメリカの151バンドを追う。なお3位はロシアの37バンド。
そして全メタルバンド数に占めるブルータルデスメタルバンドの割合は、インドネシアが世界一。全土に1325のメタルバンドが存在する中で、22.42%の割合を占める297バンドがブルータルデスメタルなのである。ちなみにアメリカではブルータルデスメタルの割合は3.2%で、世界12位。
こうした数値からも、現在のインドネシアが世界第2位のブルータルデスメタル大国と言って良い事が分かる。しかもインドネシアのバンドは欧米のバンドに較べて、インターネット上のデータベースに登録されていないままの事が多く、更に未知のバンドが多く存在する可能性が高い。
正式名称、インドネシア共和国。赤道を挟み東西5,100kmに渡って13,000以上の島々から形成される世界最大の群島国家。国土は日本の約5倍で、34州、349県もの地方行政単位がある。
かつてはインド文化の影響を受けたオーストロネシア語族の一帯で、各地域や民族ごとにほぼ独立した社会生活が営まれていた。その後、オランダ領東インドとして植民地となった地域が、1945年に独立宣言を行ない、独立戦争を経て、1949年にインドネシアは誕生する。したがって、約300の民族と250の言語が混在するとされる多民族国家となったのだ。
宗教面では、元来、土着の精霊信仰という重要な基盤があり、そこにヒンドゥー教、仏教、イスラム、カトリック、プロテスタントが流入してきた。現在は国教に規定されているわけではないが、国民の約9割がイスラム教徒だ。しかし、バリ島は独自のバリヒンドゥーを形成。フローレス島や、2002年に独立した東ティモールの人口の大半はカトリック。地域によって大きな差がある。
この多様な国をまとめるのは容易ではない。現に紛争は起こっている。けれども、統一インドネシア語を定め、パンチャシラという建国5原則(1. 唯一神への信仰、2.人道主義、3.インドネシアの統一、4.民主主義、5.社会的公正)と、「多様性の中の統一」を国是として国としての形を保とうとしている。
日本人がインドネシアに抱くイメージと言えば、伝統文化、もしくは南国のリゾート地だろう。ところが、現地の若者たち(少年少女も!)が熱を上げているのがデスメタルを中心とする過激な音楽なのだ。その勢いは地方都市まで波及して数え切れない程のバンドやファンで渦巻いている。すでに、Hammersonicという大型メタルフェスも毎年開催されていて、海外からも多くの大物バンドを招聘。さらに2014年、第7代大統領に就任したジョコ・ウィドドは、メタルファンであることを公言。Napalm DeathのTシャツを着てメロイックサインを決めた彼の写真が「インドネシア=メタル」という図式を世界に植え付けた。ちなみにジョコは冒頭で述べたオバマ大統領にソックリと言われ、おまけにオバマ大統領は少年時代をジャカルタで過ごした事でも知られる。
一方、我が日本の政治家では、奇しくも2014年から福島県知事に就任した内堀雅雄氏がメタルファンということだが、インドネシアの場合はさらに面白い。
初代大統領スカルノと第1夫人ファトマワティとの間に生まれたグルー・スカルノプトラは、70年代から音楽業界で活躍。Guruh Gipsyというプログレバンドに始まり、ソロ活動の他、洗練されたポップ作品を歌い手に提供。
また、第6代大統領スシロ・バンバン・ユドヨノも作詞作曲を行ない、国内の有名ミュージシャンに歌と演奏を託してアルバムを数枚発表している。
音楽はこの国のあらゆる層を虜にしているようだ。
現在、世界第4位の人口を抱えるインドネシア。この人口規模の大きさと平均年齢の若さが経済成長の源となって中間所得層が増している。僅かながらその人口ボーナス期の恩恵を受けて“デスメタル大国インドネシア”が形成された側面もあるかもしれない。いずれにせよ、圧倒的な人口で過激音楽に挑むこの国のシーンは今後期待される経済成長を伴ってさらに巨大化する可能性が高い。
かなり偏りはあるが、インドネシアのシーンの大まかな流れを記しておく。
1960年頃に現れたグループサウンズのようなバンドに端を発し、70年代はプログレッシヴ・ロックが大活躍をする。80年代に入ると、世界的なメタルブームに乗って数多くのバンドが誕生。80年代も末になると、アンダーグラウンドではスラッシュメタルが、そして90年代前半には徐々にデスメタルも登場。ところが、90年代中期頃にはグランジ、ブリットポップ、パンクといった世界的な流行の煽りをモロに受けて正統派メタルはほぼ消滅。しかし、アンダーグラウンドシーンは揺るがず、ブラックメタルも加わって活気を帯びていく。2000年頃からのメジャーシーンではメロウなポップロックが席巻。一方、アンダーグラウンドでは、ブラックメタルの勢いは数年で一時的に衰えてしまうのだが、デスメタルに関しては楽曲の質も向上し、欧米の流れを取り入れた新世代のブルータルサウンドを演奏する若いバンドが次々と現れた。しかも、独自のスタイルを築きながら相当な勢いで増殖し続けたのだ。今では、その質の高さが認められてヨーロッパのフェスティヴァルに出演するバンドも出てくるまでになった。
けれども、彼らのすべてがきちんと活動を続けているわけではない。広大なインドネシアでは、首都圏はもちろん、遠く離れた島の小さな街も含めて、日々、多くのバンドが結成されては消えてゆく。さらに、インターネット上で律儀に活動報告を行なったり、正式な音源を発表するバンドも限られている。それらを併せて、膨大な数となったバンドを網羅するのはページ数の都合も含めて無理がある。よって、本書では、デスメタルの歴史を作り上げたバンド、そして現在のシーンの核となるバンドを中心に取り扱うことにする。

著者プロフィール

小笠原和生(オガサワラ カズオ)
1974年神奈川県生まれ。90年代前半にアジアの音楽、特にロック/メタルに魅せられる。時には現地に飛んでミュージシャン達と酒を酌み交わす。アジア圏を含む世界のバンドを収録したコンピレーション『劇的メタル』(2004年)や、日本とタイのメタルバンドを収録した『Burning Passion』(2007年)の制作協力。2006年からは通信販売店Asian Rock Risingを運営してアジア諸国のバンドの魅力を日本に紹介すべく奮闘している。

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