関上武司さんによる『中国抗日博物館大図鑑 全土35施設潜入取材』が完成したので、中身を紹介します。

関上さんは今まで弊社から『中国遊園地大図鑑』シリーズを3冊出版していますが、今回の『中国抗日博物館大図鑑』は打って変わってシリアスな内容です。

しかしながらまるで中国の抗日ドラマのジャケットのようなカバー。なぜかというと、弊社は岩田宇伯さんによる『中国抗日ドラマ読本』を2018年に出版しており、両書とも密接に関係しているからです。

それどころか実は『中国抗日ドラマ読本』の岩田さんを紹介してくれたのが、関上さんでお二人は住んでいる所も近い友人。

帯を取り外したところ。

まえがきと目次。基本的に本書は、中国の博物館で展示・解説されているものを淡々とレポートするに留めています。

著者の関上さんの政治的な意見や見解、評論などは記述されていません。

中国の抗日博物館で展示されている内容が全て史実通りであるとは思えませんが、日中戦争をどの様に認識し、記述し、そして国民に伝えようとしているか、その事実自体に焦点を当てているわけです。

日中戦争は第二次世界大戦に比べて、一般人の間での認識や知識が薄い為、冒頭で「用語集」を設けました。

この用語集では事件や出来事などの固有名詞を簡体字とピンインでも記載する事によって、現地の抗日博物館の展示物が読みやすくなるように、そしてガイドの説明が分かりやすくなるように、施しました。

毛沢東が「マオ・ズードン」と発音することぐらいは知られていますが、それ以外の人物たちの中国語の発音となるとある程度、歴史に興味がある人でもなかなか知らないでしょう。

なので「人名解説」でも簡体字と中国語の読みを記載しました。これで現地の中国人とも意思疎通できます。

日中戦争は太平洋戦争に比べても、期間が長く、経緯や変遷がややこしいので、年表を記載しています。

そしてその年表も、日本と中国で歴史認識が異なるので、同じ事件や戦闘を扱っているのに微妙に記述が異なるのも興味深い部分です。

これだけ懇切丁寧な付録を、巻末ではなく、巻頭に持ってきた事で、各博物館の解説を読むにあたって、理解力が遥かに高まります。

この時点で疲れてしまうかもしれませんが、よく分からなくなったら、何度も引き返して参照してみて下さい。

ここからが第1章の東北地方。満洲国があったエリアです。

まずは「侵華日軍第七三一部隊罪証陳列館」。731部隊が人体実験を繰り広げた「関東軍防疫部」の跡地です。

なお本書の地図は全て、最近は『どえらいモン大図鑑』のデザインを担当してくれた北村卓也さんに描いてもらいました。

人体実験の様子を再現したものやジオラマなど。

実は本書の取材は2019年末ごろまでにはほぼ終わっていました。コロナが発生してしまい、中国に渡航できなくなり、大変残念な事に中に入れなかった博物館も幾つかあり、そういったものは外観で紹介。

「偽満皇宮博物院」、要するにラストエンペラー溥儀が住んでいた宮殿です。

現在は博物館として公開され、溥儀や婉容などがどういった生活を送っていたかが分かります。

「中国人民抗日戦争紀念館」。見出しが「全ての始まりの盧溝橋に建てられた抗日戦争学習の集大成」となっている通り、特に重要な博物館の一つ。

日章旗や日本軍を踏みつける様に透明なボードの上を歩く作りになっています。また安倍晋三元総理大臣と習近平が2014年に握手した時の写真が展示されているのですが、どことなく習近平の方が見下ろす様なアングルで、立場が偉そうに見えます。

中国とインドは元々犬猿の仲で知られ、Huawei問題で中国とカナダは関係が悪化していますが、「白求恩・印度援華医療隊紀念館」は、中国共産党に医師として参加したカナダ人ノーマン・ベチューンとインド人ダワナカス・S・コトニスを讃えた記念館。

本書カバーにも載っている「八路軍太行紀念館」。ここは八路軍本部があった場所で、「紅色旅遊」でも人気のスポット。

八路軍の軍服を着た女の子のガイドがいる様です。

「八路軍太行紀念館」の横には「八路軍文化園」が併設されており、実は『中国遊園地大図鑑 北部編』で既に紹介しているのですが、再訪。

愛国心を育むというより、ミリタリー系遊園地みたいになっており、なおかつ旧敵国日本のアニメキャラがお土産コーナーで販売されていたりと、日本人としては不思議な気持ちに……。

他にも博物館や遊園地だけでなく、ゲームセンターや公園などでも見つけた、抗日遊戯を紹介したコラム。

抗日グッズのコラム。全体的に中身が深刻な内容なだけあって、たまにこうした関上さんならではの脱力系コラムが息抜きになります。

現韓国政府がルーツとして結びつけようとしている「上海大韓民国臨時政府旧址」。

韓国人観光客が多いそうです。国民党政権が重慶に遷都した際に一緒に付いていき、本書の後半で「重慶大韓民国臨時政府旧址陳列館」が再び登場します。

日中戦争の中でも特に悲惨な南京事件。「侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館」はそれを追悼する施設です。

南京事件の解説や併記、衣服などの残存物、日本兵の持ち物などを展示。

「廬山抗戦博物館」。ここで「最後の関頭演説」をした蒋介石は日本への宣戦布告となりました。

見えにくいかもしれませんが、左上の蒋介石が拳をあげる写真は弊社から刊行されている近堂彰一さんによる『重慶マニア』のカバーで用いられたものです。

さてここからは『中国抗日ドラマ読本』の岩田宇伯さんによるコラム。抗日レゴやコスプレなどのネタを寄稿してもらいました。

前述『重慶マニア』でも紹介されている「重慶大轟炸惨案遺址」。重慶の中心地、解放碑からそう遠くない場所にあった防空壕の跡地です。

ショッピングエリアのど真ん中が、実は重慶爆撃で大勢の人が無くなった場所でした。

張学良が蒋介石を監禁して、共産党と協力して日中戦争に集中するように諭した場所として、日中戦争のターニングポイントとなったと解釈され、現在聖地化している「張学良将軍公館」。

蒋介石が宿泊していた西安郊外の華清池は唐の時代の玄宗皇帝と楊貴妃のロマンスで有名な温泉のジオラマ。

また宋美齢や宋子文の当時の写真なども。

まだまだ本書で紹介したい博物館は山程あるのですが、ブログの記事が長くなりすぎるので、この辺でやめておきます。

これで興味を持った人は是非『中国抗日博物館大図鑑』をお買い求め下さい。

2021年は中国共産党結党100周年の節目の年として、中国では様々な記念行事が開催されたみたいですが、コロナ禍真っ只中であった為、日本人が観光で訪れるのは不可能でした。

また実際に中国に行けたとしても、日本人として抗日博物館を訪れる事をハードルが高く感じる方もいるかもしれません。

逆に怖いもの見たさ、野次馬感覚で見に行きたがる人も多いと思いますが。

いずれにしても、今中国の抗日博物館を訪れるのは不可能に近いわけです。

その様な各地の抗日博物館を網羅的に、まるで日中戦争時のスパイのように偵察してきた、関上さんによるガイドブック。

偉業としか言えません。

そしてぜひまだ『中国抗日ドラマ読本』と『重慶マニア』をお持ちでない方は是非この2冊も買ってみて下さい。

実は『中国抗日ドラマ読本』は、日本人よりも中国人の方が買った人が多いのではないかという説が濃厚です。

今はインバウンドで日本に来られない中国人も、知り合いや代理購入に頼んで『中国抗日博物館大図鑑』も買ってみて下さい。

また実は日中戦争はほとんど日本軍対国民党軍だった訳ですが、共産党政権になってからは、国民党の功績はかなりの部分が無視されました。

『重慶マニア』では日中戦争の臨時首都として、国民党政府の官庁や軍事施設の遺跡などを沢山発掘しました。

これらは博物館化されているわけでもなく、野ざらしになっていたり、別の用途に転用されています。

もし国民党政権が続いていたら、博物館化されたり、聖地化されていたかもしれないスポットも沢山紹介しています。

なので『重慶マニア』も抗日戦争を知る上では必須の書籍で、いつの間にか弊社は「抗日戦争専門出版社」みたいになってしまっております。

また関上さんの『中国遊園地大図鑑』シリーズもまだの方は是非。

『中国抗日博物館大図鑑』では、まるで関上さんが日中戦争当時に従軍記者としてその場をレポートしていたかの様な臨場感満載の解説が多いですが、実は関上さんはB級珍スポットマニアでもあります。

なお実は『中国遊園地大図鑑』シリーズは、今年7月頃に一気に台湾で翻訳版が出版されています。

コロナでなかなか台湾にも行けませんが、台湾の方々ももしこのブログを読んでいたら、ぜひよろしくお願いします。