蒲生昌明さんによる『ソ連歌謡 共産主義体制下の大衆音楽』が完成しました。中身を紹介します。

『共産趣味インターナショナル』シリーズとしては第7弾。第6弾は9月に発売された『共産テクノ 東欧編』です。

カバーを飾るのはアーラ・プガチョワ、ソ連歌謡を代表すると言っても良い歌手です。

帯を取ったカバー全体はこの様な感じです。クレムリンの写真がなければ、フランス歌謡にも見えますね。

目次。おおよそ100人の歌手・アーティストを紹介しています。ソ連時代の重要な歌謡歌手は概ね抑えており、ソ連歌謡の概説書と言っても良いと思います。

左ページは凡例で、右は第一章「第一章 戦中・戦後を彩ったベテランたち」の扉。

まずはクラウディア・シュリジェンコ。第二次大戦中の大ヒット曲「青いプラトーク」で知られています。

ソ連は第二次大戦で最も死者が多かった国ですが、銃後で悲しむ人々の慰めになった音楽があった事が改めて意外にも感じますね。

当たり前の事なのですが、ソ連にも生身の人間がいたのです。

「ソ連の美空ひばり」、リュドミラ・ズィキナ。

ソ連は多民族国家でしたが、アゼルバイジャン出身のダンディ、ムスリム・マゴマエフ。

本書の組版作業をしている最中に亡くなった、「ソ連のフランク・シナトラ」と呼ばれるイオシフ・コブゾン。一回見たら忘れない髪型。

ユダヤ系ですが、後年は「ドネツク人民共和国」の市民権を得たりと、曰く付き。

初めて聴いたら、フレンチポップスなのではないかと思うほどのエディータ・ピエーハ。実はポーランド系で、生まれはフランス。世界的に流行っていたツイストで、ソ連でも大ブレーク。

そしてなんと言ってもやはりアーラ・プガチョワ。ソ連の音楽に詳しい訳ではない人でも耳にした事があるかもしれません。共産圏ではビートルズに匹敵する存在だったみたいです。

ロシアの世論調査でロシアのヒーローで第二位に輝いたこともあるウラジーミル・ヴィソツキイ。一位はガガーリンですが、三位のジューコフ将軍を抑えての二位です。

しかし日本では知られていませんね。発禁扱いされ、モスクワオリンピック時に死んだ時も報道規制が敷かれました。体制に批判的な詩で知られていますが、数々の作品が残されていました。

「ソ連ではロックが禁止されていた」という間違った情報が一部で広まっているようですが、全くそんな事はなく「ВИА (ヴィア)」というグループサウンズが大流行。

現在もロシアや旧ソ連構成国は世界でも最大規模のブラックメタルシーンを形成していますが、その下地がソ連時代にあったと言えるのかもしれません。

ミック・ジャガーみたいなパンチパーマが特徴的。ルックスでも個性を表そうとしたレオンティエフ。コミ共和国のシクティフカルという辺境出身。

ソ連解体直後に「ソビエト連邦に生まれて」(Сделан в СССР)を歌い、ジリノフスキーを応援したガズマノフ。今では熱烈なプーチン支持者だそうです。

数々のコラムも設けています。右は「モスクワ放送」について。著者の蒲生さんはリアルタイムでモスクワ放送を聴き続けてきており、BCLの世界では有名の様です。

また実際にモスクワ放送を聴いていただけでなく、西野肇さんや山之内重美さん、岡田和也さん、日向寺康雄さん、岡田啓介さんなどモスクワ放送の日本人アナウンサーとも交流があり、当時から実際にやりとりもしていて、今でも付き合いがある様です。ここまでソ連時代からリアルタイムで、ソ連の音楽を熱心に追ってきた人は、日本だけでなく、世界にもそうそういないのではないでしょうか。

チェブラーシカに関するコラム。

第三章は「映画の中の音楽」。日本や栗原小巻も登場する『エア・パニックSOS』。

第四章は「ソ連の中の諸民族」。こちらは『共産テクノ ソ連編』でも出てくるラトビア出身で、「ソ連のYMO」と呼ばれたゾディアック。

ベラルーシは今ではМолатやРодогост、Яр、Дрыгва、Kamaedzitcaと言ったペイガンフォークメタルを輩出してきている、世界有数のペイガンフォーク大国として知られていますが、ソ連時代にフォーク・ロックの祖ピェスニャールィが活躍してきました。どれだけ直接影響を与えているのか判断は難しい所ですが、似ているといえば似てます。

プガチョワの次ぐらいに有名なのがソフィヤ・ロタール。モルダヴィア近くのウクライナの村出身。

若かりし頃のネタニヤフにしか見えませんが、グルジア歌謡界の帝王、ワフタング・キカビッゼ。実際にグルジア王族の末裔らしいです。

ウズベキスタンロックやイスラム版ディスコサウンドを生み出した中央アジアの章も。

日本でも知名度の高い、朝鮮族ロックスター、ヴィクトル・ツォイ。早逝したせいで、更に神格化されている様です。

ソ連は多民族国家だった訳ですが、アメリカ人としてソ連や東側で大活躍していた、ディーン・リードがいました。左翼だったからなのですが、ソ連側としては、外タレとして貴重な存在だった様です。

かなり端折って、全編を紹介しました。弊社刊行、四方宏明著『共産テクノ ソ連編』『共産テクノ 東欧編』とテーマ的にも密接に関係してくるので、3冊揃えて読む事をおすすめします。

東欧関係では岡田早由著『東欧ブラックメタルガイドブック』と平井ナタリア恵美著『ヒップホップ東欧』も出版されています。

このエリアの音楽本はこれからも出続けます(他の地域も出ますが)。

共産趣味者だけでなく、ロシアファンや歌謡ファンにも楽しんでもらえる内容になっているはずです。

ソ連の音楽というと今まで歌声喫茶や民謡、あるいはクラシックばかりが取り上げられてきました。

しかしソ連歌謡の愛好家は実は、安保世代、全共闘世代でかなり多いようです。それにも関わらず、それをまとめた概説書・一般書は出ていなかった様です。

これを機に『ソ連歌謡』を手に取ってみてはいかがでしょう? 当時を知っている人は懐かしいし、若い世代もキッチュで、コケティッシュに見えること確実です。

既に大型書店やAmazonなどのネット書店では販売開始されています。